《VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい》54.隆盛くんと稽古

ところ変わって、現在午後2時なので、剣道の道一式を持って隆盛くんのお家の道場に、5人でお邪魔しているところだ。

隆盛くんのお家は、お金持ちなだけあって家はそれなりの大きさで、敷地が広いため道場が広く造られていた。

金かかってんなぁと思わざるを得ない道場の広さと空調設備に絶句していると、著と袴にと垂れを著けた隆盛くんと著と袴姿の中年のおじさんがやって來た。

「猿渡君。今日は、息子の急な要に応えてくれてありがとう。隆盛の父で浩志(こうし)だ。よろしく」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします」

隆盛くんのお父さんと挨拶を済ませると、隆盛くんが道場のり口の方を指差してこう言った。

「猿渡さん、著替えるならあそこの更室を使ってください」

「あ、うん、ありがとう」

指された場所へ行き著替えてと垂れを著け、面や小手や竹刀等を持って道場へと戻った。

それから面と小手を著け、竹刀を持って隆盛くんと対峙した。

今日の稽古容は地稽古のみで、それで隆盛くんのよくないところを直してほしいらしい。

地稽古とは、一種の試合稽古のようなもので、試合と大きく違う點は、勝敗がないということ。

従って、一本かどうかを判斷する審判は居ない。

対峙した僕と隆盛くんが、竹刀を構えて最初の掛け聲を出し、前後左右にき相手の隙を狙う。

とは言っても、隙を狙うだけでは一向に打てずに見合ってるだけなので、自分から仕掛けたりする訳だけど、それはそれで相手に返されたり出端なを打たれたりする。

なので、剣道をやり始めの頃は、どうしたらいいのか分からずに一方的にボコボコにされたりする。

これが、経験を積んで一通りのきをが覚えた頃になると、相手がどういうきで打ちをしたか見ただけで、が無意識にそれに対応したきをしたりする。

しかし、それが決まらない時だってある。

不意を突かれれば、誰だって一瞬が膠著して反応が遅れる。

まぁ、その為に相手の一挙一から目を離さないようにしたり、気を抜かないようにしなければならないんだけど、これがまた難しいもので、余り意識しすぎるとそっちばかりに意識がいってがいざという時思うようにかなかったりする。

そういうのも含めて、剣道というか武道は難しい。

それで、隆盛くんはどうなのかと言うと、いつからやっているのかは知らないけど、それなりに姿勢も構えもしっかりしているし、僕が面を打てばし下がって外させて、その隙を突いて抜き面を打とうとしたり、隆盛くんが小手を打ってきて僕がそれを竹刀でけてその打ちの勢いを利用して返し面を打とうとすれば防したりと、かなり反神経が優れているようだった。

ただ、フェイントには弱いようで、僕が面を打とうと竹刀を隆盛くんの面の上に持っていくと、隆盛くんが素早く竹刀でけようと右の小手が空く形で防した。

そこをすかさず僕が小手を打つと、あっさり當たってしまった。

打たれた本人は「あっ……」といった顔をして、やってしまったと言いたげだった。

剣道では、左の小手は上段の構えの人の場合しか判定にらないので、面を防する時は大抵の場合右の小手を打たせないようにやるものだ。

まぁ、竹刀は左手で握るものなので、左手を右斜めに上げるよりそのまま上げた方が楽と言うか最短なので僕もそうするんだけど、フェイントで打たれる場合があるので、なんとも言えない。

そもそも僕の場合、相手が面を本気で打とうとしているのかどうか、面を打つときの勢いで分かるので、そういう場合は極力何もせず一旦距離を離している。

というか、僕は面を打つと見せかけて小手より、小手を打つと見せかけて面の方が得意だ。

隆盛くんがどのくらい対処できるのかが気になったので打ってみただけだ。

それはともかく、隆盛くんとの地稽古は10分近く続き、隆盛くんの息切れが激しくなったことによって一旦休憩となった。

竹刀を置き面と小手を取り一息ついていると、隆盛くんが話し掛けてきた。

「猿渡さん、どうでしたか?」

「よかったよ。あ、でも、強いて言えば、面を打つ時右手で突き出しててが半になってたから、左手で突き出すようにするといいと思うよ」

「そうですか、ありがとうございます! 右利きだと、どうしても右手を使いたくなるんですよね」

そんな話をしていると、速人達がやって來た。

「龍さんって、助けてもらった時も思いましたけど、やっぱり凄いですね。隆盛君一本も取れなかったですし」

「それな。特にあのフェイントのところが凄かったよな」

「これは、桃香が惚れるわけね。カッコいいもの」

「そうでしょそうでしょ? なんせあの無心道場に通ってる兄さんを三回も倒したんだから當たり前だよ!」

自分のことのように自慢する桃香に苦笑いしていると、急に笑顔で「ね、龍さん」と言われた。

そこで僕に振るの!? と驚いて揺したので「えっ……あぁ、まぁ、そうだね……」と曖昧に答えてしまった。

「えっ!? 県大會の決勝戦の相手って、丹紫さんのお兄さんだったんですか!?」

「そうだよ。まぁ、兄さんなんて、龍さんに比べたらまだまだヒヨっ子で、龍さんの足元にも及ばないんだけどね」

凄いお義兄さんを馬鹿にしてるけど、いいんだろうか……。

絶対お義兄さんが聞いたら怒るだろう。

……もちろん、桃香にではなく僕に。

それからは、隆盛くんの癖なんかを指摘して、そこを直すための、薬で言えば処方箋のようなものを解説して、しばらく実踐した後お開きとなった。

あまりにも暑くて汗をかいたにもかかわらず、著替えた後桃香が傍から離れなかった。

一瞬ボソッと「ハァハァ、汗だくの龍さんの臭い……」と呟いたのが聞こえた気がしたけど、気のせいであったと信じたい。……臭いだけだし。

そんなこともありつつ、僕達は家へ帰った。

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