《VRMMO生活は思ってたよりもおもしろい》58.桃香の誕生日會
あの後、五十三階層は、肩かしのように楽々突破することができた。
そして、五十四階層も突破して五十五階層に行ったところでダンジョン攻略は中斷した。
ログアウトした後、翌日僕が誕生日會の準備をすることはとてもじゃないけど無理なので、僕が桃香とゲームにログインしている間に準備してもらうことにした。
そして翌日、速人,楓季,輝,じいちゃん,ばあちゃんに準備を頼み、僕は桃香と共にゲームにログインした。
準備は順調らしく、ついでに桃香へのプレゼントも用意したようだった。
當の桃香はというと、僕達の様子がおかしいのに気づいているのか訝しげに見てくるのに、何も聞いてこようとはしなかった。
もしかしたら、自分の誕生日のことだと気づいているのかも?
◆◇◆◇◆
そして、ついに桃香の誕生日になった。
誕生日會は晝にやる予定なので、それまではまたゲームにログインして時間を潰した。
晝になりログアウトしてリビングに行くと、誕生日會らしい裝飾が施された部屋に、誕生日ケーキや豪華なご馳走などが並ぶテーブルに驚き立ち止まる桃香。
そこへ、じいちゃんとばあちゃんが「桃香ちゃん、お誕生日おめでとう!」と言いながらクラッカーを鳴らした。
それに続いて桃香を除いた全員も「おめでとう!」と言いながらクラッカーを鳴らすと、桃香は開いた口が塞がらないといった狀態で立ち盡くしていた。
本當は、じいちゃんとばあちゃんのためにもクラッカーは使いたくなかったけど、二人が頑なに大丈夫だと言うので、結局僕が折れて使うことになった。
キョトンとしている桃香を促して一番上座に座らせると、ケーキのロウソクに火をつけて電気を消して合図で「ハッピバースデイ、トゥーユー! ハッピバースデイ、トゥーユー!」と歌い始めた。
桃香はキョトンとしていたけど、最後の「ハッピバースデイ、トゥ~ユ~」というフレーズを歌い終えると、反的にロウソクの火を消した。
するとその時、インターホンが鳴った。
誰だろうと思っていると、速人が「龍さん、出てもらえますか?」と言ってきたので、なんで僕が? と思って他の二人を見るも頷くだけで自分が行くとは言わなかった。
仕方なく僕が出ると、思いもよらぬ人達が立っていた。
「直接會うのは初めてだね。桃香の父で晴臣だ」
「桃香の母でです。突然でごめんなさいね」
「いえ、それはいいんですけど、お仕事とか、大丈夫なんですか?」
「心配は要らない。今日の分は終わらせてある」
「いや、でも、會議とか……」
「それも問題ない。午前中にすべて終わらせた」
「……そうですか」
桃香の誕生日會のためだからか妥協がない。
「挨拶もせずにすみません……。桃香さんとお付き合いをさせていただいています。猿渡龍です、よろしくお願いします」
今の今まで挨拶に行くことをすっかり忘れていたので、どんなお叱りがくるのかとドキドキしていると、桃香のお父さんがこう言ってきた。
「いやいや、こちらこそ、桃香をよろしく頼む」
「桃香から聞いてた通りの子ですね」
「あぁ、そうだな。あの親ありてこの子ありといったところか」
お叱りじゃなかった上に、桃香のお父さんの口ぶりからして、父さんと母さんを知っているようだ。
「父と母を知ってるんですか?」
「知ってるもなにも、君のお父さん……晃佑君とは、友人であり剣道仲間だったからな。桃香には言わなかったが、最初に猿渡という名字を聞いてもしやと思い、桃香と付き合うに値するかの判斷材料を集めるついでに、あらゆるコネを使って調べたところ、案の定晃佑君だった。それを知った瞬間、判斷材料を集める気が失せた。あの晃佑君の息子が自分の娘と付き合うなんて、こんな奇跡はないと思ったからだ。そうそう、その時にどうして亡くなったのかということも調べた」
ずっと知りたかったことを知ることができる……。
僕は、そう思って唾をゴクリと飲み込んで続きを聞いた。
「君の両親は、その事件での銃撃戦に居合わせた妊婦さんや子どもを庇おうとして撃たれたとのことだ。國を背負っているとして、二人には謝しかない。言い方が悪いが、二人の犠牲のおで一般市民の命が救われたのだから」
「本當に言い方が悪いですよ。龍くん、ごめんさいね」
「いえ、警察としての公務を全うして、二人とも本なんじゃないかなと思います。死に顔が笑ってましたから」
「私も葬儀に行こうと思っていたのだが急用がって行けなかったが、そうか、笑っていたんだな」
暗い雰囲気になったところで、桃香の誕生日會をしていたことを思い出した。
「しんみりしてる場合じゃないですよ。桃香の誕生日なんですから」
「あぁ、そうだったな。祝ってやらないと」
「そうですね」
そう言って中へ案した。
リビングに案すると、速人達に遅いと怒られた。
桃香は、驚いて「えっ!? お父さんにお母さん!?」とんだ。
「なんだ、桃香。毎年誕生日は仕事を早く終えてるじゃないか。もしかして、來てほしくなかったか?」
「そういうわけじゃないけど、まさか龍さんの家に來るとは思わなかったから」
まぁ、僕だって來るとは思ってなかったから驚いてるよ。
それから僕は速人達に謝りながら席に座り、桃香の両親も適當な席に座ってもらった。
「はい、それでは改めて。桃香、誕生日おめでとう!」
僕がそう言うと、桃香を除いた全員が「おめでとう!」と続けて拍手を送った。
「じゃあ、プレゼントがある人はプレゼントを渡してください」
今度は速人がそう言うと、全員が列び始めた。
僕は最後にしようかなと思って列の最後に行こうとすると、速人が「なにやってるんですか、龍さん。最初に渡してくださいよ」と言われた。
「えっ、でも、こういうのって最後の方がよくない?」
「私は最初がいいです」
桃香にスパッとそう言われたので、最初に渡すことになった。
まだ部屋に置きっぱなしだったので、急いで部屋に取りに行って戻ってきて桃香の前に立ち、包裝済みの手作り髪飾りを「誕生日おめでとう」と言いながら渡す。
「開けてもいいですか?」
「どうぞ」
僕に確認をとった桃香が包裝を結構雑に開けて中の箱を開けると、茶の枝にピンクが映えた桜の花が付いた髪飾りが登場した。
もちろん、本ではなく見立てて作った偽の桜の枝と花だ。
「凄いです! これ、全部布でできてるんですか?」
「そうだよ。金部分から取り外せるから、汚れても洗える優れものなんだよ」
「わぁ、凄いです! ありがとうございます!」
そう言いながら抱きついてきた。
皆が見てるから極力止めてほしいんだけど、今日は仕方ないか……。
その後、速人達や桃香の両親やじいちゃんとばあちゃんもプレゼントを渡し終えたので、晝ごはんという名のご馳走を食べた。
いつもより多い上に味しいので、ケーキがギリギリ食べれるぐらいまで食べてしまった。
ケーキも食べ終えると、大人以外でトランプやジェンガなと懐かしい遊びを始めた。
大人はどうしたのかというと、じいちゃんと桃香のお父さんは晝間からビールを飲みながら、僕の父さんの話を高らかな笑い聲を上げてしていた。
ばあちゃんと桃香のお母さんは、桃香のお母さんがばあちゃんの料理を絶賛して習いたいと言い始めたので、ばあちゃんが指導中だ。
そんなじで、誕生日會はワイワイガヤガヤしながら午後3時頃まで続いた。
お開きになり、酔っ払った桃香のお父さんと必死に支えて迎えにきた車に乗せる桃香のお母さんを見送った。
その後、夜になって僕の部屋に來た桃香がこう言ってきた。
「龍さんの誕生日會は仕返しでもっと驚くものにしますから、覚悟しておいてくださいね!」
満面の笑みでそう言われたので、本當に覚悟しておいた方がいいと直的に思った。
でも、喜んでくれたみたいだから、誕生日會は功と言っていいだろう。
仕返しがどんなものなのか想像がつかなくて怖いけど……。
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