《スキルを使い続けたら変異したんだが?》第八話 初クエスト
「ということで、お爺さん。その依頼、私たち二人でけるわ」
レナがそう言うと、爺さんはニッカリと笑い。
『おお、けてくれるか。崖の上のモンスターはここよりもレベルが高い。十分気を付けるんじゃぞ』
「ええ、任せといて」
俺は嘆息をらす。
もちろん、クエストをけることに異存はない。
気に掛かっているのは手塩に掛けた畑のことだけである。
「じゃあ、カミシロ君。いこっか?」
そう笑いかけてくる彼に、俺は何も言えずに首肯する。
こうして俺とレナの初クエストが始まった。
そうして崖の下まで森の中を進んでいる途中。
「はあ……、俺の畑が」
気に掛かるものは気に掛かり、つい聲に出してしまう。
隣を歩くレナがちょっとむっとした表をして、
「ほら、男の子が細かいことをぐずぐず言わないの。
それに、いつかはあの小屋からだって出ていくんだから、ちょっと別れが早まっただけじゃない」
別れって言うな。
だが、彼が言っていることも正論だ。いつまでだってあの小屋にいるわけじゃないのだから、いつかは手放さなければならない。
俺はこの一週間の思い出を振り返る。
クワもなく、鉄の剣で小屋の前の一角を耕した一日目。
この森で掘って來た野生のイモを種イモ代わりに土の中に埋めた二日目。
翌日、ログインした時に荒らされた畑を前にちょっと涙を飲み、しかし諦めずに種イモを再び埋めた三日目。
監視を始め、午前はレナに、午後は俺が徹夜でモンスターを追い払った四日目~五日目。
そして、昨日遂にイモを収穫して実際に食べた。
シンプルにふかして塩を振っただけのものだ。あの味を俺は忘れない、決して味いとは言えなかったが、する味だった。
レナは普通に殘そうとしていたが。
もちろん、彼の失敗した料理も食べさせられていた俺は、ちゃんと殘さず食べさせた。
しかしまさか、自分がこんなに農業にはまるとは思わなかった。
こういう生産系のゲームはなんとなく敬遠していたのだが、もったいないことをしていたかもしれない。
「でも、あの畑って名義はカミシロ君のものになってるのよね。放っておいたらどうなるんだろう」
歩きながら、ふと思い至ったようにレナが疑問を口にする。
剣で耕したエリア(と言っても二メートル四方だが)には、ユウト・カミシロという表記が生まれていた。
どうやら、耕した土地は俺の私有地扱いとなるようだった。
しかし、試しにもうし離れたところを耕してみると、そこに表記は生まれなかった。持てるエリアには限るがあるか、開拓レベルによって広がっていくのだろう。
「……永遠に殘るってことはないだろうし、一定の日數でリセットされるのかもな。
そうでないと、新しい場所に土地を持てないし」
「でも、畑がもっと大きくなったら大変ね。今の大きさでもモンスターに手を焼いているのに」
それは確かに懸念事項だった。
午前はレナに見てもらって、午後から夜は俺が……というのも正直辛いところがある。
もっと広くなったら、それこそ一日中番で見なければならなくなるだろう。
モンスターがいる土地で農業というのは、結構辛いなぁ。
そういえば、田舎の爺ちゃんも鹿や豬の被害で困ってるって言っていたな。
その畑の景を思い浮かべ、ふと思い至る。
「木の柵かなんかを作ればしはモンスター避けにならないか?」
「それぐらい普通に飛び越えるか壊しそうだけどなぁ」
バッファローを頭に思い浮かべ、俺は彼の言葉に頷いた。
確かにそれぐらいではダメだ。
爺ちゃんは番犬を何匹か飼ったらしいが、このゲームではモンスターを仲間にできるかもわからない。
あとは唐辛子など、味しくなさそうなものを周囲に撒くのが効果的という話を聞いたたことがある。
味しくなさそうなもの。心當たりがあった。
「そうだ! お前の失敗した料理を置いておけばいいんじゃないか? その臭いでモンスター避けに」
「あはっ、面白い考えだね」
こちらが言い終わる前に、レナが聲を出して笑った。
余程良い考えなのだろうと、得意げな笑みを浮かべて俺は隣を歩く彼を見る。
「なっ、そうだ――」
彼の目は、全く笑っていなかった。
「そ、ソーダでも飲みたいなぁ」
ちょっと怖くなって、俺は橫に一歩ズレて歩く。
彼は二歩、こちらに寄って來た。肩がくっつくほどに。そうしてこちらの顔を覗き込んでくるレナに、別の意味でドキドキする。
「私の料理はモンスターも食わないって、そう言いたいのかな?」
「し、失敗した料理の話だってっ。お前の料理も最近は食べられるようになってきたしさ」
「最近は? 食べられるように?」
笑っているのはわかるがなぜか直視する気にはなれず、遠くを見つめて俺は歩く。
やばい。話せば話すほどにドツボへはまっている気がする。
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