《スキルを使い続けたら変異したんだが?》第三十話 祝杯
モンスターたちの群れを仕向けるが、ナツメはそのことごとくを斬り屠っていく。
敵の攻撃が間に合っていない。
スカルソルジャーが剣を振り上げた時には既に粒子となって消え、ケンタウロスが強靭な前足で撥ね飛ばそうとすれば、四腳の足が斬り飛ばされ、殘ったへ止めの一撃が刺される。
ナツメの刃がセリアへと近づく。
二現れれば二を切り裂き、五現れれば五を薙ぐ。
その度に會場が歓聲に揺れた。
代わる代わる立ち塞がる壁が崩し、遂にセリアの前に立つ。
烈を纏うナツメが、ようよう追い詰められた彼へ切っ先を向ける。
「――覚悟」
『……その力。エモーションハートですか。
あの馬鹿ども、だから深夜テンションで変なスキル作んなって言っといたのに……』
ようよう思い至った彼が舌打ち、雙剣を地面へ突き差した。
どんなスキルを発してくるのか。俺とナツメは構える。
セリアはタブレットを呼び出すと、タァンッと勢いよく畫面を叩く。
すると、背後からナツメに近付いていたモンスターたちが消え失せる。
同時、俺、ナツメ、レナの前にタブレットが現れた。
そこに表示されたメッセージには、YOU WINの文字。
『降參です。
流石に、MPがすっからかんの狀態でステータスお化けに勝てる気がしませんし』
唖然とする俺たちに、彼は先ほどまでの狂人振りが噓のようにアンニュイな様子で言った。
ひゃっはー、愉しくなってきやがったぜ!
ぐらいな勢いで挑んでくると思っていただけに、かなり肩かしを喰らった気分だ。
『なんですか、その目は。
負けが見えていてなお足掻くような無様なことはしませんよ。
私にもそれなりの品位があるので』
どの口が品位などとほざくのだろうか。
恐らく會場中の心が一つとなっている中、彼は観客たちへ向かって優雅に一禮。
『皆さま、先ほどは大変失禮いたしました。
私、興するとし周りが見えなくなることが多々あるのです。
心からのお詫びを申し上げます』
…………。
今更の陳謝。良い顔をしているプレイヤーなど一人もいない。
彼は運営の人間として、やってはいけないことをした。
俺や彼らの不信は、この先も深く殘ることだろう。
いや、それどころかこのことが明るみに出れば、大事件になる。
メディアで大々的に取り上げられていただけに、一週間後にはサービス終了なんてこともあり得るだろう。
だがその時、俺はもっと疑問を持つべきだったのかもしれない
そんなこともわからない人間が、ゲーム會社の運営の中にいるのだろうかと。
そして。
運営の人間が誰一人として、あんなセリアの愚行を止めないなんてこと、あり得るのだろうかと。
顔を上げたセリアの顔に現れるのは、諦観の。
『なぁーんて言って、許してもらえるわけありませんよね。
“サリア”。出番ですよ』
呼ばれ、司會席の奧。
蒼髪のがゆったりと立ちあがり、壇上へ現れる。
會場がざわめく。
『“やっちゃってください”』
サリアと呼ばれたは頷き、の前で両手を組む。
なんだ、一何をするつもりなんだ?
の奧に酷い焦燥が生まれる。このままではいけない。だが、確信が持てずにけない。
そんな葛藤の中、徐々に彼のが蒼い輝きに包まれ――その姿を最後に俺の意識は暗転した。
◆
その夜。
シグナスの街の酒場で、俺、レナ、ナツメの三人で祝杯を挙げていた。
もちろん、闘技場のエキシビジョンを勝ち抜いたためだ。
「いやぁ、でも本當にレナが一緒に戦ってくれて助かったよ」
茶いしゅわしゅわとしたが注がれたグラスを手に、俺は心からの言葉を向かいの席へ座るレナに掛ける。
彼の隣に座るナツメも、こくこくと頷く。
「はい、本當に助かりました。お様で私の名を広げることもできましたし」
「別にあなたのために戦ったわけじゃないんだけどね。
暇だったから一緒に出てあげただけよ」
照れ隠しではなく、本心なのだろう。
それもまたレナらしい。
「っていうか、あなた。本気を出すならゴーレム戦で出しなさいよね。
裝備忘れて來たとか言って、ちゃっかり本命の裝備持ってきてたし」
彼の言葉に、ナツメは「あれ?」と小首を傾げて沈黙する。
「どうした?」
「いえ。珍しくて天商で日本刀を買ったのは覚えてるんですけど……、アイドルとしては使わないようにしていたはずなんです。
なのに、なんであの時使ったんでしょうか?」
「いや、俺に聞かれても」
そういえば、変なタイミングで刀を出していたな。
まあ、観客たちも盛り上がっていたので逆効果ではなかっただろう。
むしろ。
「もうアイドル剣士っていうことで通したらどうだ?
太刀捌きとか、凄い綺麗だった――って、誰だ足踏んでるの⁉」
足先が何かに潰されて、ダメージによる振が走る。
「あ、ごめん。足らせちゃってる」
ぐりぐり。
らせちゃってるってなんだ。そんな現在進行形があるか。
だがレナの異様な圧力に、俺はちびちびとグラスのを飲んで気を紛らわせる。
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