《スキルを使い続けたら変異したんだが?》第四十話 夢の終著點
振り返ると、そこには見知った人が二人並んでいた。
蒼髪の優等生を庇うように立つ茶髪の騎士の姿を見て、俺はの端を吊り上げた。
「……そうか。そういうことか。
だから、お前があのギルドに居たって訳か」
対し、茶髪の騎士……カーレルは顔を強張らせた。
「ユウト……なのか?」
訝し気に。まるで他人を見るような目をするカーレルに、俺は頷いた。
「ああ、そうだ。俺が、ユウトだ」
その答えに、カーレルは首を橫に振った。
「……いや、違う。お前は、俺の知っているユウトじゃない。
聞いているぞ。お前はリアナだな?」
その問いかけに、俺はの奧で何かがストンッと落ちた気がした。
ああ、結局彼も。親友だと思っていた彼も、本當の俺を知らなかったのだと。
當然だ。親友だったのは、神城勇人という仮面なのだから
強さの象徴だった和樹ならば……というのは、甘えが過ぎるだろう。
「……だったら、どうする?」
問い返す。わかっている答えを、あえて訊ねる。
さっきリアナがくれた報で大の狀況は理解していた。
悲劇のヒロインの隣に立つヒーローが何を考えているかなど、それこそ考えるまでもない。
「お前を倒し、ユウトとサリアを解放する……ッ‼」
瞳に強い意志の力を燈し、カーレルは剣を構える。
その姿がとても眩しく見えた。
俺は、誰かのためにあそこまで激を燃やすことはできない。
俺は、自分の気にらないことにしか激を燃やすことができない。
詰まるところ、それが俺と和樹の差だったのだろう。
誰かのためという自信。
自分のためという劣等。
きっと、俺は彼のようなヒーローにはなれない。
……いや、なる必要はないのだ。
俺は俺でしかないのだから。
その芯を他人に求めても仕方がない。
「…………、」
瞼を閉じ、ゆっくりと呼吸を整える。
そうして再び目を開いた時、俺の中に渦巻いていたものは完全に消え去っていた。
カーレルの瞳を真っ向から見據え、俺は嗤う。
「はっ、やってみろよ」
緋桜を抜き放ち、構える。
もう夢は覚めていた。
◆
最初にいたのは、俺だった。
靴底で地面を蹴り、彼我の間合いを詰める。
その勢いのまま、一閃。緋桜の切っ先が弧を描いた。
カーレルは白金の剣を真橫にして、ける。
最高位クラスの業の一撃を。
――あはっ、向こうもいよいよ本気みたいだね
おい、一人だけ納得しないで説明しろ。
――其れはただの武じゃないよ。
數あるユニーク裝備の中でも筆頭と呼ぶに相応しい存在。
最終イベントでの使用を前提に創られた、完全なるバランスブレイカー。
その銘は、“聖花の剣”
「――ッ!」
カーレルが力任せに聖剣を払う。
その尋常ではない膂力に、俺は木っ端の如く後方へ弾き飛ばされる。
虛空で制を整え、大地に緋桜を刺してブレーキを掛けた。
――おいっ! 刀の使い方!
うるさい! 気にしてる場合かよ!
構え直し、追撃に備える。しかし、そこにカーレルの姿はない。
だが、気配はあった。
「……ッ‼」
咄嗟に橫へ跳ぶ。振り向き様、聖剣を振り下ろすカーレルの姿が橫目に寫った。
PSモードにレベルは反映されない。ならば、能力は常人のそれと同じになるはず。カーレルのきはどう考えても異常だ。
そして、それに付いていけている俺も。
――パッシブスキルは反映されるからね
なるほど。
つまり、あのカーレルの異様なきは聖剣の能力で。
俺がそれに付いていけているのは、さっき習得した緋刃創我の効果という訳か。
――そういうこと。確かにあの聖剣は規格外。このゲームのバランスを崩すほどの存在だよ
そう區切り、あのいつもの笑みを思い起こさせる聲でリアナは続けた。
――でも、殘念。リアナのスキルはこの世界そのものを壊しかねない。いわば、“ワールドブレイカー”なんだよねぇ
緋のエフェクトが足元から噴き上がる。
俺のステータスゲージに恐ろしい數のバフが付與されるのが見えた。
――さあ、行こっか。決著をつけに
ああ、終わらせよう。
再び、俺は地面を蹴った。
「……え?」
それは、カーレルとサリア。どちらの発した聲だっただろうか。
チンッ、と役目を終えた緋桜の刀を鞘に収める。
遅れ、カーレルの姿がの粒子となって消えた。
「カー……レル……?」
茫然と。自らのナイトがいた虛空を眺める。
もはや彼を想い、守る存在は消え失せた。
せめて、サリアが何を起こったか理解する前に葬ろうと、柄に手を掛ける。
だが、それをよしとしない者たちが居た。
「――あー、あー、あー、あー、あー……っ! 本っ當に、派手に暴れてくれやがりましたね、このクソガキ共」
蒼髪のの右に現れるは長い金の髪をした、タキシード姿の。
「まっ、いいんじゃねえの。おでサリアへのカウンター……リアナの忘れ形見も見つかったことだしな」
左に現れるは、漆黒のスーツにを纏う壯年の男。
「全っ然、よくないわよっ! それを、運営《私たち》じゃなくてプレイヤー《そいつ》が持っているってことが問題なんじゃない!」
「だから回収しに來たんじゃねえか。
……なあ、坊主。それは、お前が持っていていいプログラムじゃない。
金ならいくらでも積んでやるから返してくれねえか?」
男の青い雙眸に剣呑なが宿る。
以前の俺ならば容易に竦められていただろうが。
「……そんな心にもないこと言うなよ。結局は、奪いに來たんだろ?」
「ああ、そうだ。一度は言ってみたい臺詞だろ?
だが、慈悲は掛けてやる。今すぐログアウトしな。同じ結果なら、屈辱を味わない方が後腐れないだろう?」
ログアウト。つまり、俺の意識がゲーム上にある、こちらのアカウントに手出しはできないということか。
だが、逆に言えば俺はもうこのゲームからログアウトできないということを示している。
「決斷は早い方がいいですよ。私としてはボッコボコにぶちのめしてからログアウトして頂きたいんですがね。確かに、あの失敗作が殘したバグが見つかったのは僥倖なんですよ。
だから、これは私たちの慈悲です。大人しくログアウトして、現実でお母さんの溫かい食事を取ったらどうですか?」
仮面の笑みをり付けたセリアが言う。
ああ、つまりはチェックメイトだと。案にそう言っているのだ。
どう足掻いても一日足らずで俺のこの人生ゲームは終わりだと。
夏休みと言っても部屋にずっと閉じこもっていれば誰かが起こしに來る。ヘッドギアを外されれば強制ログアウトだ。
詰んでいる。確かに。
だが、不思議と悪い気はしなかった。
「……俺も。一度言ってみたい臺詞があったんだ」
「何……?」
怪訝そうな顔をする彼らに、俺は目を爛々と輝かせて嗤う。
「――世界が俺を否定するなら、俺が世界を滅ぼしてやる」
轟ッと、朱緋の輝きが俺の全から噴き上がった。
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