《聲の神に顔はいらない。》20 幸運の神には前髪しかない
            
「え? 本當ですか!?」
私はバイト帰りに思わず聲が裏返ってそう答えた。直ぐに周りをキョロキョロとして聲を抑えてもう一度同じ言葉を返す。すると電話の向こうのマネージャーはこういってくれる。
「本當だ。おめでとう。次の仕事が決まったな」
私は小さなガッツポーズをする。これが自宅だったら転がりはしゃぎまくってる所だ。でもここは外……変な事は出來ない。
「そ、それで、どのオーディションの奴でしょうか?」
実際、今しかないとマネージャーがオーディションをこっちに回しててくれたのでいくつか候補がある。
『スターセイバーだ』
「なるほど……」
『ん? 納得いかないか? 贅沢言うな売れてない聲優』
「うっさいですね。別に納得いってないわけじゃないですよ」
『じゃあ何が気になる?』
口は悪いが、目敏いマネージャーは私の聲の違いが分かるらしい。流石は聲優のマネージャー。そういう能力がデフォルトであるとは……
「別に……ただあまり手応えなかった奴だったので……」
的に言うと、またあの靜川秋華の後だったんだよね。もしかして、靜川秋華の後でないとオーディションに合格しない呪いが私に!?
けどそれなら逆も言えるのでは? 靜川秋華は私の前ではオーディションに合格しない呪いにかかってると……気づかれると何かされそうで怖いな。
『売れてない聲優が手応えも何もないだろ。ただ喜んで、そして気を引き締めていけ!』
「…………はい」
マネージャーには謝をしなくては。こんな私にオーデションを回してくれたんだから。まあその中でもかったのはたったの一つ……まだ反応待ちのはあるが……どうなのかはわからない。何十回とけてようやく一つだ。もしかしたら他の人ならかったのがあったのかもしれない。
そうなれば事務所的にもメリットがあるはずだ。けど私に回してくれて……それで一つ。
「頑張ります」
私はそういって電話を切る。とりあえず直ぐに臺本を取りに行くことにした。
あれから私は猛練習をした。幸いな事に今の私の予定はバイトと深夜アニメ鑑賞しか予定がないので練習はたっぷりできた。ほんとただのフリーターである。まあ今は見逃せないアニメが一つあるんだけどね。
それだけは録畫だけでは許されないので正座待機してみてる。自分の役の反応はどうだろうか? と毎回エゴサーチしまくりだ。けど良くも悪くも別段私が演じたキャラに話題が行くことは無かった。まだ見せ場ではないから仕方ない。
私の演じた役には後半にたった一度見せ場がある。その時の反応が気になって仕方ない。かなり何回も取り直して、何度も心が折れかけたセリフだ。いつだって演じた役に魂を込めてるが、あの時だけは出し切ったといえる。
だからそんな私の演技は屆くのか……気になる。あの時収録に付き合ってくれてた人達は、終わった時拍手をくれた。原作者の先生なんてちょっと涙ぐんでた様に見えたが……さすがにそれは気のせいかもしれない。
でもあの拍手はきっと本だったと思ってる。そんな私の魂の聲が電波に乗ってどれくらい屆くのか……それを私は見てみたい。じてみたいと思ってる。でもこの期待が裏切られるんじゃないかと思うと怖くもある。
私の聲は所詮、誰にも屆かないんじゃないかって不安がずっとあるから……だって散々やり直しさせられた。自分の力のなさをじた。だから心配だ。
「いや、今は新しい現場での事……かん……がえ……ないはぁ~」
思わず出るため息。コミュ障にとって新しい場というのは苦手だ。憂鬱である。だって知らない人たちと會うんだからね。こんなイベントを売れてきたら毎回こなさないといけないとは売れっ子も大変である。
「売れるのも考えね……」
「そんなの売れてから考えてください」
「ひょ!?」
変な聲が出た。振り返ってみると、なんかモデルみたいな形でサングラスをつけこなしたいけ好かなさそうながいた。
        
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