「どうですか？　一緒にスタジオまで行きませんか？」

「えぇ？」

私は何言ってんだこいつ……と正直思った。だって何のために？　じゃん。なんでこいつと一緒に行かないといかないの？　子供なの？　とか思う。一人で行けるじゃん。行けるでしょ？　行けるわよね？　子供じゃないんだし……それなのに一緒に行くという発想が分からない。そもそも何のために？　ってじた。

「聲優仲間じゃないですか」

「仲間……ですか」

私は聲優という枠組みの端っこで落ちるか落ちないかのような存在。かたや靜川秋華は聲優のピラミッドで大所とかを除けば頂點にいると言っていい存在。そんな私達は仲間なのだろうか？　確かに大きな枠組みでは聲優という仲間なのかもしれない。

けどなくとも私からは仲間なんて言えない。それくらい私達には差がある。てか、こいつも仲間なんて思ってるの？　と私は邪推する。言葉はどこか丁寧に聞こえるじなんだけど、結構傍若無人と聞いた事がある。しかもそのソースは篠塚宮ちゃんだ。あの子が言うならそうなんだろうなって思える。

つまり、今の靜川秋華は貓を被って……まてよ、篠塚宮ちゃんは確かこういってたな。

『うーん靜川秋華さんですか？　そうですね～々と自由な人ですね』

それを私は傍若無人と捉えたが、傍若無人という言葉よりは篠塚宮ちゃんの言葉は軽かったと思う。そんな嫌そうなトーンでもなかったしね。私が勝手にネガティブな印象を上書きしてた可能は無きにしも非ずかもしれない。

いきなりそんな面識もない私の所に現れて、一緒に行こうという――これは大分自由といえるのではないだろうか？　これでもし、私か拒否したことで、態度が悪くなったり機嫌を悪くしたりしたら、まさに傍若無人といえるが、今の程度ではそうとは言えない。

（本を見極めてやる）

そう思って私は斷る方向にもっていこうとする。

「それは……栄ですけど……そういえば私お腹痛くて～。どれくらいトイレに籠るか分かりませんので～」

噓は言ってない。実際さっきまでお腹痛かったし……神面の痛みだったから、會話してたら忘れてたが……けどこれで人気者の自分をないがしろにしてる奴になったんでは？　いや、一応最大限、目を付けられない様に下手に出てる筈だけどね。

これはしょうがないことでしょう。別に普通なら悪印象にはならない筈。それこそ自己中心的奴以外は。私はドキドキしながら靜川秋華の反応を見る。

「私、よく効く胃薬持ってますよ。使いますか？」

「え？　どうも」

眩しい笑顔で言われると斷る事ができない。だって頭が働かなくなるんだ。これがの特殊効果か。なんでけ取ってそのまま飲んでるんだよ私。まだ効かないというか？　けどそしたら更に出してきそうだな。実際水もなしに飲むのはのどに引っかかるじがしてちょっと……これから仕事だしね。

それに……

「飲みますか？」

傍若無人ではない。ちゃんと私の事を気遣って水を差しだしてくれてる。なんかペットボトルの飲み口にをつける時、ちょっとドキッとした。間接キスなんだなって……いや、私にその気はない。けど……目の前のこいつが過ぎるから……普段は意識してない事まで意識してしまう。

だって靜川秋華の……めっちゃプルプルである。それに完全に黃金比してる。厚すぎず、薄すぎず、更に形も完璧。絶対整形してるでしょ？　だって自然とそうなるわけないじゃんと言いたい。

「ありがとうございます」

とりあえず平常心で水を返す。この後に彼があの水を飲んだから、なんか汚したみたいな気がしちゃうな。私みたいなのが飲んだ水は汚水みたいな？　はは……靜川秋華の飲んだ水なら売れそうだよね。いや、実際に売れるだろう。彼のファンならそれこそ大金出しそうな気がする。

結局私達は並んで道路を歩いてた。スタジオまでのしの距離。々歩いて五・六分という距離だ。穏やかな天気は私と靜川秋華を優しく照らして、過ぎ去った夏をしだけ思い出させる様な、そんなしをじる。

帽子とサングラスをしてる靜川秋華はさながら蕓能人。いやそうだけど……顔は隠してる筈なのに、何故か周囲の視線を引いてる。かたや私はそんな靜川秋華のオーラの前に、存在を消されてる。いや、元々いるかいないかわかんないくらいの存在だけどね。

「ちょっとセリフの練習しませんか？」

「ええ？　ここで？」

ただ世間話をするなんてハードル高いし、臺本に書かれてるセリフを喋るのはいいかもしれない。丁度、彼の役と私の役が喋るセリフがある。今回のアニメは宇宙開拓だ。地球に住めなくなった人類が超大型宇宙船で何世紀も旅してついに地球に似た星を見つける。

その星を第二の地球として、開拓してくのだ。そんな人類の一部隊に焦點を當てたになってる。そして靜川秋華はそんな部隊の隊員の一人の役だ。そしてまあ、ヒロインである。私はというと……その部隊のサポートロボット的な菱形のである。本との通信とか、周囲のマッピングとか々な便利機能が盛りだくさんのお助けロボット的なじの奴。

まあそういうとドラ〇もん的なじかと思うかもだが、あれほどに表現かでもない。けど今回も出ずっぱりな役だし、前の役よりも実はセリフも多い。楽しみな役だった。しかも最初のシーンから私と靜川秋華が出る。

つまり冒頭のシーンを務めるのである。こんな事は初めてだから、相當に気合がってる。まあ元々は靜川秋華と同じ役をけたんだが、何故か決まったのはこれだった。

「それじゃあ始めましょうか」

そういった次の瞬間、靜川秋華の空気が変わった気がした。そして聞こえる聲。それは確かに靜川秋華の聲だ。別段、そんな変わってない。靜川秋華はそういう聲優だからだ。聞けばこれは靜川秋華だなと分かる聲。けど目を閉じて聞けば、景が見える。

これが靜川秋華……私も負けてられない。私は気合をれてセリフを紡ぐ。私達は互いにセリフを言い合ってそして現場までついた。