《聲の神に顔はいらない。》76 トレンドりする気持ちってわかる?

「これを」

「これは?」

今日は既に私一人となってしまったアニメの収録現場に來てる。実は最終回の収録が既に二回延期されて、ヤバイ狀態になってるのだ。

まぁ、私が參加した時點でかなりやばかったしこれは想定である。実は既に放送は始まってる。

秋アニメとして始まって既に二話が放送されてにわかに話題になってる。それは作畫とかもそうだが、すでにアニメの隅から隅までチェックする様なアニオタ達が話題にしてるのはもっと別のことだ。

それはつまり、聲優のクレジットが一つしかない事である。普通のアニメはキャラの名前の橫にその役を演じた聲優の名前がクレジットされる。

けどこのアニメは違ってる。一通り役の名前が出た後に私の名前が添える様に出たのである。

最初、それはミスだと思われてた。まぁ一話時點では判斷材料がないから普通はそう思うだろう。

そして今週の二話である。一話と変わらないクレジット。にわかにざわつくネット界隈……と言うのがいまだ。なんと私の名前がトレンドりするという快挙までし遂げてる。

エゴサーチしたって何も引っかからない、私という存在は世界にいるのかなってにわかに落ち込むほどの認識力のなさの私がトレンドりなんて奇跡にも程があるだろう。

そして聲優図鑑とかウイキペディアとかにもれる私である。勿論、生半に探して出てくるようなレア度じゃない。

だから余計にやつらの探究心を刺激してるというかね……探したって藪蛇しか出ないのにご苦労なことで。

お前達が探した先には絶対にワンピースはないんだよ? ブサイクしかないんだよって言ってあげたい。

(殘念だけど彼等が夢見てるような謎の聲優なんて幻想なのに……)

ほんともう、バレたときの反応が手に取るように分かる。それだけならいいけど、逆恨みとかさせたらたまったものじゃない。今から気が重い。

「はぁ……」

「流石にお疲れですか? 謎の聲優さんも」

「止めてください、いやほんと」

私はこのアニメのプロデューサーと言うその人にマジのトーンでそう言った。この人、初めてこの場で會った時はとても適當だった。プロデューサーだから當然偉いんだし、その時私は頑張って「他の聲優さんはまだですか?」とか聞いてみたりもした。

その時、なんていったと思う?

『うーん、そのうちね。けどぶっちゃけ君だけの方が安上がりでいいし、話題だって集められるかも、ワンちゃん期待値上がりの導火線に火がついてるから、君だけが頼りなんだよ。よろぴくー』

と言って去っていった奴だ。こいつ絶対にアニメの現場舐めてるだろ……と思った。そしてその認識は今でも変わらないが、なんか今日はやたらとテンション高い。そして渡してきたのこれである。

「最終回の臺本ですか?」

私はようやく監督が仕事したのか……と思いつつそう利いた。まあ普通はこんなのをプロデューサーが渡すって時點でかなりあれだけどね。制作進行の人とか、てかこっちのマネージャー経由で普通貰うからね。

「のんのん! ラジオの臺本だよ」

「へえーラジオですか…………ってラジオ? 誰が!?」

「君以外にこの現場に聲優いるかい?」

そう言ってぱちりとウインクしてくるプロデューサー。この人、外見から何から胡散臭すぎるんだよね。顔はそこそこだか、何故か昭和の寅さんみたいな格好してるし……どんどん寒くなってるのにジャケットは肩から羽織るだけだし、腹巻してるし、下はなんかぴっちりしててきもいし、足元は下駄だし……狙ってるの? それとも素なんだろうか? やっぱりヤバイ現場にかかわる人たちってどいつもこいつも一癖も二癖もある奴らが集まるんだなって思う。

それで言うと、この現場にかかわってる私もやばいんだけど、自分だけはセーフだと信じたい。こんな人と同カテゴリにはれられたくない。ブスにだってブスのプライドがある。変態は嫌だ!!

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