《聲の神に顔はいらない。》89 気持ちでかせるのはフィクションだけ

「私も、聲優になれるでしょうか? 本の、私の聲を求めてくれる聲優に……」

「別に宮ちゃんは聲にこだわる必要なんてないと思うけどね」

私は宮ちゃんにそういうよ。宮ちゃんまで聲だけでやる必要はないからね。それにそんな事を宮ちゃんにやられたら困る。いや、勿論容姿とかは勝てる筈もないが聲だけでは負ける気はない。負ける気はないけど、宮ちゃんはそんな事する必要ないじゃないかなって思う。

「でも……私も聲優になりたいです!」

「う……」

なんか宮ちゃんの瞳がキラキラしてる気がする。宮ちゃんは結構影響けやすい子なのかも? まあ純粋って事は何にも染まるって事でもあるからね。でも私のどこにそんな目をキラキラさせる要素があったのだろうか? 実際既に宮ちゃん聲優だからね。それをやめるやめないやってたわけで……まあ今の宮ちゃんは聲優やめなさそうだけど。

「宮ちゃんには宮ちゃんの強みがあると思う」

「でも、私は靜川秋華さんみたいにはなれません。あの人が今の聲優の理想形じゃないですか?」

「それはそうだね」

再び私達はブランコに座った。今はもうついさっきまでの暗い空気はない。宮ちゃんも前向きになってる。私達はそれから結構長く、聲優談義というか、そういうのを語り合った。歳とかかなり違うが、同じ業界にいる同士、話す事はいっぱいあった。

そもそも私にはそういうのを語り合える相手なんか今までいなかった。だからこのひと時はとても楽しい時間だった。いきなり電話が來た時はどうなるかと思ったけど……ん?

「そういえば、宮ちゃんは聲優やる気になってるけど、親さんは大丈夫なの?」

私は大事なことに気づいてしまった。いくら宮ちゃんがやる気になってるといっても、宮ちゃんまだ未年者だ。保護者が宮ちゃんに聲優を許可しないのなら、宮ちゃんは聲優を続けることはできない。宮ちゃんは徐々に、確実に、その人気を上げている。

そして人気があがればあがる程にファンの數は増えていくわけで、相対的に、やばい奴もいる確率があがる。宮ちゃんは聲優の中でもかなりカワイイ。そして子高生だ。カワイイ聲優なんて昨今沢山いるが、現役子高生で更にカワイイというのは珍しい。

宮ちゃんは絶対に人気者になるだろう。それは嬉しいだろうが、娘を危険に曬したくないという親さんの気持ちもわかる。そもそもが、私は部外者なんだけど……でもここまで関わったら宮ちゃんだけに任せるってのも……でも私が宮ちゃんのご両親に何か言うの違うような……やっぱりここは宮ちゃんの背中を押すじだけでいいだろうか?

「わかりません。私、ずっといい子でしたから。聲優は私の數ないわがままだったから両親は許してくれたんです。でも危険があるとわかったら……両親は……」

宮ちゃんがいい子なのは想像できる。今もそうだし……だからこそ、きっと寶の様に可いんだろう。そんな宮ちゃんを危険に曬すなんて出來ないのは私も同意だ。宮ちゃんは奇跡の様な子高生だ。この年でここまで純粋なんてこの國中を探したってそうそういるわけない。

そんな宮ちゃんは守られるべき存在。でも私はあおった手前、宮ちゃんだけに押し付けるのは間違い。でも私が行くのもやっぱり違う。それは私の役目じゃない。

背中をおすっ事……それは……

「宮ちゃん! 會社に、マネージャーに連絡して。それらか會社とご両親を挾んでちゃんと宮ちゃんの気持ちを伝えてどうするか、話し合うべきだよ。宮ちゃんだけでも、両親の意向だけにも従うとかそれじゃあきっとダメだよ。

ちゃんと納得できる落としどころを見つけるの。いい?」

「…………はい」

そう言って宮ちゃんはマネージャーさんに連絡を始めた。私は橫でそのやり取りが終わるのを待つ。これがきっと最善だ。私は丸投げしたわけじゃない。私が出しゃばる事じゃないからだ。私が気持ちだけで訴えたってそれはきっと屆かないだろう。そういうので心をかされるのはそれこそドラマやアニメの中だけだ。

だから……私の役目はこれで終わり。

「匙川さん……ううん、ととのさん。一緒にいてくれませんか?」

「へ?」

かわいいに手を握られて潤んだ瞳でそういわれて、拒否する事が出來る奴がいるだろうか?

いやない!! ってなわけで、なんかまだ私の役目は続くようだ。

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