《聲の神に顔はいらない。》382 運命の日 17

「お久しぶりです」

「あーいえいえ、こちらこそお久しぶりです」

「いえいえ」

「いえいえ」

なんかそんなやり取りが続く。そしてなんとなく言葉の押収が止まって、気まずい雰囲気が続く。

(とりあえず挨拶は終わったし、これで目的は果たした……よね。この前會ったのに挨拶もなしの失禮な奴……とかはこれで思われない筈……)

私はそう言い聞かせて、そそくさと戻ろうとおもった。でも、ちょっと考える。

(ここで戻ったら、一歩進んてで半歩くらい戻ってるんじゃ……)

半歩でも進みだしたら上出來かもしれない。こういうのは踏み出すのが大事だっていうし……でも私は常々、変わりたいとおもってた。そのきっかけが今で、追い詰められてようやくき出した様な私が今、再び逃げたら駄目なんじゃないだろろうか?

私には後がない。人間関係って事でじゃないけど……踏みださないと、このまま全てが終わってしまう気はしてる。だから私は踏みとどまった。

「えっと……田中さんもこのオーディションをけるんですね」

私は必死に脳細胞を活化させた。天気の話しなんてしたら詰むことはわかってる。だから、やっぱりオーディションの事が無難だろう。

「ええ、幸いな事に事務所が私にオーディションを回してくれたんです。そう言えば殘念でしたね」

「え?」

「あの日のオーディションです」

「ああ……あれは仕方ないというか」

「そんな事無いです!!」

いきなり彼「田中一」ちゃんが大きな聲を出したから、部屋の視線が一気にこっちに集まった。

「こ、コホン、すみません」

そんな事を周囲に言って、再び喧騒が戻ってくる。どうしたんだろうか? なにか私、怒らせる様な事をいっただろうか? コミュ力が低すぎて、そこら辺よくわからない。私はガクガクブルブルだ。

「私は、あの時の貴方にしました。だから、現場で貴方が居なかっとき、信じられなかったんです」

「うーんでも……私はあのとき、暴走してたので……そこらへんが原因ではないかな?」

あのソシャゲのオーディションでは結構やらかした記憶がある。いや自分的にはうまくやれたと思うが、臺本とか無視してたし……てかなかったし……しょうがないんだけど……

「ですが、明らかに私達よりも貴方はレヘルが高かった。きっとどんなキャラでも、貴方ならやれたはずです」

「ありがとう……そう言ってもらえてうれしい……です」

まさかそんな風にめっちゃ高く買ってくれてた事に驚きだ。良かった喋りかけて……心からそう思った。

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