《聲の神に顔はいらない。》391 運命の日 26

「まあ確かに、今の君にふさわしいライバルが誰かと言えば、僕も匙川さんと思うけど」

「んな!?」

「そんな!!」

先生は何を思ったのか、なんとまあ余計な事をいきなりいいだした。靜川秋華の突拍子もない事には先生だって否定的だったじゃないですか! なんで今いきなりそんな肯定的になっちゃうんですか? ちょっと意味がわからない。先生はおかしな事には加擔しない人だと思ってたのに……そもそも先生くらいしかこの場では靜川秋華を止められる奴なんて居ないんだから、さっさと否定してくれれば……いや、否定せずとも曖昧な顔で笑ってくれればそれでよかった。だって……

「まさか先生があんな事を……」「もしかして知り合いとか?」「ええーそうなの?」

――とかなんとか、外野が騒ぎたした。だよね。先生が庇うなんて事もそうだけど、私はまだオーデション事態をやってないわけで、彼達の覚からして向こう側……つまりは製作サイドが事前に聲優を知ってる……なんてことは普通ない。

いや、靜川秋華や他の売れっ子聲優たちなら別だよ。彼たちは知名度がある。それに最近は聲優自出もおおいし、それで誰かわかるだろう。

でもほぼ、私は知られてない。一部、ちょっとだけ前のアニメで名前だけは知られたけど、既に今季には何にも出演してないからね。聲優の壽命なんて早いもので、三ヶ月経てば忘れされるものだ。

それに私はまずイベントとかでないし、顔が出る事もない。これだけ聲優が集まってても、私を知ってる奴なんて馴染みの人達を除けば、それこそ片手で足りるくらいだと思う。

つまりは売れない聲優なんてその程度の知名度しかないってことだ。それなのに、先生は私を知ってた――とみなされてる。まあ実際私たちは知り合いだけど……でもこれって不味い。

(だって原作者と知り合いで、オーデションにかったりしたら……それこそ出來レースとか思われるじゃん)

そこら辺を考慮しない先生ではないと思ってた。いらない火種は撒かない人だと思ってたのに……どうにかしたい所だけどここで必死になにか否定しようものなら、火に油を注ぐ行為と同じだ。

人は必死になればなるほどに、墓にはまる生だと知ってる。會話のなかで自然と「ああ、違うんだ。やっぱりね」と思わせるのがベスト。頑張れ私、これは自分のためでも有るけど、先生のためでもあるのよ。コミュ障だけど、私は自然と否定する方向に導するような會話を組み立て――

「先生、彼ではどうみてもお姉さま――靜川秋華さんの対抗馬にはなりえないですわ! 彼よりも私の方が相応しいはずです!」

本郷さんが、納得行かないと講義する。やめてね先生。余計なことは言わないで。ここで私が「うんうん、私なんかじゃ……」とか言って収めるから!

「ええっと本郷さんだったかな? 君が言ってるのは、ビジュアル面での事だよね。自分は人様の外見をとやかくいう気はないよ。ただ、僕が言ってるのは、聲優の本質である聲について。そしてその技力だ。

匙川さんの出た作品を見て、聞いて。自分は彼にはそれだけの実力が有ると判斷してる」

トゥンク――とが高鳴る。におちてはない……けど、はっきり言ってときめいてはいた。だって……先生はまっすぐに、そしてはっきりとそういったからだ。

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