《聲の神に顔はいらない。》394 運命の日 29

運命……それがあるというのなら、私と先生はまさに運命の男だと思う。私は安っぽい扉を開けてオーディオ會場の方へとる。さっきまで居たのはいわゆる休憩室だからね。ここが本番の為の部屋。けどいままで私が見てきたブースでは多分一番ショボい。だってあるのはマイク一つに、その向こうに長機があって、審査員の監督や先生たちが長機とパイプ椅子に座ってる。それだけだ。一応マイクはなにか機材につないであるけど……スピーカーには見えない。録音するためのものかも。一人機の端に座ってる人がヘッドホンを付けてるし、そのケーブルの先にある機材にこっちを向いてるマイクもガッチャンコされてるから、きっとあの人が録音ちゃんとされてるかチェックしてるんだと思う。

「お願いします。クアンテッド所屬、靜川秋華です」

皆さん知ってるでしょうけど、ちゃんときちんと挨拶する。これは基本だ。まあこの業界に居て、私を知らないなんてありえないことだ。けど、挨拶は大切らしい。とりあえず私は先生に向かってウインクする。すると恥ずかしがり屋な先生は視線をそらした。全く、恥ずかしがり屋なんだから。

けど今バレルのは不味いのか。本當は堂々と先生とイチャイチャしたいのに……それにここ數ヶ月、私は殆ど先生と接してない。事務所からの監視がひどかったからね。いつもなら仕事が終わったら、何が何でも先生の家に突撃仕掛けるんだけど、ここ數ヶ月はそれができなかった。

だから先生が目の前にいるのがヤバい。抱きつきたいし……匂いかぎたいし……抱きつきたい。けど、それはまだできない。私は我慢ってめっちゃ苦手だ。でも……これも私と先生が結ばれるためだ。それを思えばこのくらい……それにこのオーデションにかれば、合法的に先生に會える機會が増える。私のやる気はこれまでの比ではない。これに賭けてると言っていい。

(とても満足行く機材なんてないけど……でもだからこそ、自力がきっと出るよね。伊達に私だってNO1聲優なんて呼ばれてないって教えてあげるよ先生)

普通収録ブースというと、聲が一番キレイに撮れる、聞こえるようになってる。他の猥雑な音なんてすべて遮斷して、反響もなくして、綺麗な音を取る――そのための場所だからだ。

でもここは違う。普通の部屋だ。それに會社の一室で會議室くらいはある。ようは広い。それにものも殆どないかから反響とかもするだろう。はっきり言って聲優には悪條件。でも皆がここでやってる。理不盡はない。なら、私が負ける要素なんてない。

(なんとまあ)

赤いランプが付いてオーデションのセリフを読むのが普通だけど、そのランプがなんかパトカーとかの上にある奴なんですけど……どこで買ってきたのやら……なんかが途切れちゃうが、私は臺本を片手に希する役のセリフを口にする。

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