彼は待をけていたのだ。

母親の再婚相手は咲希さんに対して毆る蹴るの暴行を加えていた。

その傷跡を他の人にバレないようにいつも長袖を著ていた。

どれだけ日が強く暑い日でも彼は長袖を著て過ごしていた。

恐らくこれに気付いているのは僕だけであろう。ある日、疑問を抱いた僕が彼に話を聞こうと腕を摑んだ際に顔を歪ませていた。それは四月の頃、彼が待をけ始めていた頃のことだっのだ。

まだまだ腕にできたアザや傷跡に慣れておらず、摑まれた時には痛みが彼の腕から脳に伝わったのだろう。

それが彼が待をけていることに気づいたきっかけだった。

たった3年間耐えればいいだけだから、と彼はこのことを緒にしてくれと頼んできた。

もちろん、最初は反対した。

これはすぐにでも警察に報告すべきだと言った。

しかし彼はそれを拒んだのだ。

これ以上、母親を苦しめたくないと。

前の夫に裏切られた母をこれ以上悲しみに暮れさせたくないと言ったのだ。

彼は優しすぎた。優しすぎるのだ。

そして僕は弱すぎた。弱すぎるのだ。