《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》冒険者の思い出・中編
「見せてもらってもいいですか?」
「ええ、いいわよ。でも他人が見ていて面白い話とは到底思えないけれど、それでいいのなら」
そう前置きして、冒険者は俺に手帳を差し出した。表紙は革をなめして作られているようだった。ははあ、る程。だからこのように丈夫な表紙になっているということなのだな。
表紙ばかりみていちゃ中にいつまで経ってもることが出來ないので、キリのいいタイミングで表紙をめくった。飽きたわけではないが、そろそろ見ておくべきだろう。そうでないとせっかく借りて読んでいるのに、その意味を無くしてしまうことになりかねない。だから俺はその場で見始めることとした。
中は確かに他も無いことばかりがつらつらと綴られていた。一ページに書かれている分量が疎らになっているのを見つけて、何とかそれが日付イコールページとなっていることを察した。考えれば簡単な法則だったのだ。
「……なかなかびっしりと書いてありますね」
「その日にあったことは全部書いているからね。分厚くなって當然」
「へえ……」
俺は冒険者から見せてもらった手帳のページをぺらぺらと捲っていった。その容はとりとめのないものもあるし、どのモンスターを倒したとかどういうダンジョンを攻略したとか書かれていた。かなり手練れの冒険者らしいことがうかがえる。仮に、俺が異世界の人間であったとしても。
しかし俺はそこで、あるものを目の當たりにした。
そこに書かれていた文章には、ある単語が使われていたのだった。
――メリュー。
その単語、いやおそらく人名だろう、には聞き覚えがあった。忘れもしない、というか忘れるはずがない、ある人の名前だった。
「どうしたの、店員さん?」
俺は冒険者の話を聞いて、我に返った。
「い、いや……何でもないです。ただ、かなり面白い容だな……って思って」
「そっか。ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。私も見せた甲斐があるってものだ」
そして俺は冒険者に手帳を返す。
メリューさんが冒険者の人に食事を持ってきたのはその時だった。
とびっきり大きなハンバーグが鉄板の上でジュージューと音を立てている。
付け合わせにはフライドポテトと野菜各種。ソースの焦げるにおいがとても香ばしい。
追加でライスを持ってきたメリューさんの顔を見て、冒険者は首を傾げる。
そして、廚房へ向かおうとしたメリューさんに、
「ねえ、メイドさん。あなた、どこかで私と會ったことない?」
そう、言った。
メリューさんはしだけ顔を俯かせて、冒険者に背を向けたまま、
「いいえ……。たぶん、人違いでしょう。このような人間は、ごまんといますから」
その言葉を聞いた冒険者は深く追及することなく、ただ相槌を打つだけだった。
「そっか。私の勘違いか。……いや、ごめんね。あなたによく似た知り合いがいてさ。私、彼をずっと探しているのよね……」
そして冒険者は大きなハンバーグをナイフとフォークで切り分けながら、俺を聞き手にして話を再開する。
結局、冒険者の話は食事が終わってから小一時間続くことになり、店も暇だったので俺がずっとそれに付き合う羽目になってしまったのだけれど。
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【一二三書房WEB小説大賞金賞受賞】《新・旋風のルスト:公開中です!》 <あらすじ>────────────────── 『私は家畜にはならない。たとえ飢えて痩せ衰えても、自らの意思で荒野を歩む狼の生き方を摑み取る!』 ■17歳の銀髪・碧眼の美少女ルストは重い病の母の治療費のために傭兵として懸命に働いていた。屈強な男たちと肩を並べて戦うが、女性としても小柄であり、実績も無く、名前も売れていないルストは傭兵として仕事を得るのも困難を極めていた。 だが、諦めない前向きな心を持つルストは、ついに未來へとつながる大きなチャンスを摑む。 『小隊長を任されたエルスト・ターナーです。よろしくお願い致します!』 ■そんなルストは、女の子故に腕っぷしや武力では屈強な男たちには敵わない。だが優れた洞察力と包容力と指導力、そして精霊科學『精術』を武器に困難な事態を次々に打ち破り、人々のために確かな明日へと繋がる未來を切り開いていく。 『みなさん! これは困難ではありません! 千載一遇のチャンスです!』 ■気高さに溢れた美少女傭兵が、精霊科學の殘る悠久の大地フェンデリオル國で砂漠の大帝國と戦い、人々を幸せへと導く! 孤獨な道を歩んでいた一人の少女が、傭兵となり救國の英雄となり、幸せの絆を取り戻すロマン溢れるサクセスストーリー! <⇩お知らせ>────────────────── 【一二三書房WEB小説大賞金賞受賞いたしました、ありがとうございます! これに伴い書籍化されます!】 【新・旋風のルスト ―英傑令嬢の特級傭兵ライフと精鋭傭兵たちの國際諜報戦記―】 2月26日開始しました! ──────────────── ただいま、ノベプラ・カクヨム・ノベリズムでも掲載中です
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