《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》鏡餅とお年玉・結

「まあ、それについては別に問題無いと思うけれど?」

メリューさんから言われた言葉は、俺の予想を上回る言葉だった。

正直、メリューさんから叱責があってもおかしくないと思っていたから、俺は目を丸くしてメリューさんを見つめていた。

メリューさんの話は続く。

「さりとて、あなたが鏡餅を持ってこれなかったところで、別に問題無い話では無いわよ。確かに持ってきてほしいとは言ったわよ? けれど、それについては可能であれば、と言及しただけにすぎないし、駄目ならスマートフォンで見せてくれとも言った。というか、別にわざわざ買って來なくてもそれで問題無かったのよ。……ああ、一応言っておくけれど、有難いことは事実よ? 私としては、まさか現が見られるとは思いもしなかったから」

「そうだったんですか。……じゃあ、俺の早とちりでしたね」

「まあ、早とちりかどうかと言われると微妙なところではあるけれど、いずれにせよあなたが購してきてくれた……これ、購したのよね? それについてはとても有難いと思っているわよ。何なら予算も出そうか?」

「いや、別に大丈夫です。そこまで喜んでくれるとは思わなかったので……」

俺の言葉にメリューさんは頷くと、袋から中を取り出し、『鏡餅』と初対面した。

「へえ……、これが鏡餅なのね。何というか、話に聞いていた通り獨特なフォルムをしているのね。これは見ることが出來て良かったわ。ほんとうに有難い」

「そこまで嬉しく思ってくれるなんて、心外でしたよ」

「心外、か。まあ、君がそう思うのも致し方ない、か。案外そういうものは普段の行から見られるものだとティアやミルシアが言っていた」

「いや、俺はそこまで……」

まさかメリューさんの地雷をこんなところで踏み抜くとは思っていなかったので、俺は必死で謝った。このままでは今後の関係が危ぶまれる。だからなるべく直ぐに謝らねばならない。俺はそう思って直ぐに頭を下げた。

しかしメリューさんはそんな俺に目をくれることはなく、

「……どうしたの、ケイタ? そんなことよりも、このお餅を使った料理を作ろうと思うのだけれど。手伝ってくれるかしら?」

「手伝い……ですか? というか、メリューさん、餅の調理法ご存知なんですか?」

「ミルシアの國に似たようなものがある。その國ではそれをスープで煮込んだ料理があるからな。それにしてみようと思っているよ。見た目はほぼ変わらないし、あとは味がどうなるか」

それって、雑煮じゃないか。

まさか雑煮があの國にあるなんて、そんなこと知らなかった。

「今からそれを作る、と?」

「ええ、だから手伝ってもらうわよ。晝に食べましょう。晝ご飯のアイディアが無かったから困っていたのだけれど、これで充分。別に問題無いわよね?」

◇◇◇

後日談。

というよりもただのエピローグ。

あの後メリューさんによる特製雑煮が晝に振る舞われた。味は安定のマキヤソースと、魚の出によるもの。だからどこか日本っぽさは出ていたけれど、それについては別にメリューさんに言わなかった。だって別に言わなくていいと思ったし、言ったところで『似たような味で表現すると?』といちゃもんをつけられかねない。

そうそう、お年玉については結局メリューさんの仲介を経て、その紙幣を使うときに使う國の貨幣に換することでまとまった。

それはメリューさんのアイディアをうまく使わせてもらった形になる。俺にとってはそっちのほうが有り難かったから、それにうまく乗っかったといえるだろう。

因みにメリューさんも面倒だと言いながらお年玉をシュテンとウラに差し出していた。二人は臨時収が貰えたことをとても喜んでいた。

「ケイタ、今日は帰るのか」

仕事終わり。ボルケイノの扉を開けようとしたところで、メリューさんに捕まった。

「……はい。どうかしましたか?」

「これ、お前にも」

メリューさんはそう言ってあるものを差し出してきた。

それはお金だった。しかも、俺の世界で使えるお金だった。

「お年玉、とやらだ。け取れ」

「……いいんですか? これ、俺の一日分の給料以上ありそうですけれど」

「いいんだよ。貰うものは文句を言わずに貰っておけ。それに……鏡餅を見せて貰ったからな。そのお禮も込めて、だ」

そこまで言うなら。そう思った俺は頭を下げた。

「それじゃ、いただきます」

そして俺もまたメリューさんからお年玉をけ取るのだった。

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