「……そこまで言うなら、食べてあげてもいいでしょう。ほんとうは亜人の作るものなど口にれたくはありませんが」

言い訳を繰り返した挙句、やっと魔はモンブランを口にれた。なんというか、一つの行にいちいち言い訳をしていかないと行出來ないのだろうか？　正直、非常に面倒な行原理だと思うけれど。

さて、魔はモンブランを口にれてからどうしたかというと、直していた。ちょうどそのタイミングで氷漬けにでもさせたような、そんなじだった。

魔はずっと一口分消えていたモンブランを見つめていた。余程モンブランが気になっていたのかもしれないが、いずれにせよ何らかの反応を示していることには間違いない。食べる前と後で、反応が大違いだ。

そして、ゆっくりと魔は顔を上げて、顔を震わせながら、呟いた。

「お、味しい……」

魔が甘味に屈服した瞬間だった。

「な、何よ。このスイーツは！　まったくもって理解ができない。今まで、食べたことの無い味だわ！」

「特殊なものは何一つ使っていませんよ」

メリューさんは魔の思考を読み取ったのか、そんなことを口にした。

魔はそれを聞いて目を見開く。

「それなら、これは……」

「強いて言うなら、」

答えたのはメリューさんでは無く、その隣に立っていたリーサだった。

ということは、このモンブランを作ったのはメリューさんでは無く。

「まさか、リーサ。これを、あなたが？」

こくり。リーサはしっかりと頷いた。

それを聞いた魔は、それでもリーサが言った言葉を理解出來なかったのか、もう一口モンブランを口にした。

しかし、何口食べようとも味が、評価が、変わることは無い。

「味しい、味しい……。これほどまでの料理を、あなたが作ることが出來るだなんて」

「未だ修行中のではありますが、それでも食べた人に評価してもらえるを作ることが出來るようにはなりました」

神妙な面持ちで告げるリーサ。

それにしても初めて知ったな。まさかリーサがこれほどまでに味しそうなモンブランを作れるなんて。

「……あなた、ここでずっと暮らしていくつもり？」

「なくとも、ここではあの學校で學べなかったことを學べていますし、充実しています。だから、今の私はとても幸せですよ」

それを聞いた魔は小さく笑みを浮かべる。

「……そう言われてしまったら、何も出來ないわね。分かったわ。ご馳走様でした、味しいスイーツだったわ」

立ち上がると、魔は數枚の銀貨をカウンターの上に置いた。

そしてリーサを見つめながら、魔は言った。

「流石にこのスイーツを食べて、無料で帰ろうとは思わないわ。でも、私はまだ諦めていないし、あなたをいつでもけれる準備は出來ている。それは忘れないでね」

そして、魔はボルケイノを出ていった。

どこかすっきりとしない、そんなじを俺たちに殘していきながら。