《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》お姫様の家出・1

その日のボルケイノは、どこか迫した雰囲気が漂っていた。

「おはようございまーす」

扉を開けながら、俺は店に挨拶する。

「あ、ケイタ! 遅いわよ!」

この聲は、ミルシア王陛下か。

毎回のように面倒事を連れてくるから、トラブルメーカーめいたところがあるけれど、メリューさんはそれをあまり気にしたことが無いらしい。メリューさんはもうしお人好し過ぎるところを治したほうがいいのかもしれない。いつかを滅ぼしそうだ。

「どうしたんですか、ミルシア王陛下。あなたがやってくるということは、またご飯を食べに來たと思いますが。それ以外にも何かあったんでしょうか」

カウンターにりながら、俺は質問する。

とりあえず會話を続けておかないといけない。會話を途切れさせておくのは、正直あまりよろしいことでは無いからだ。

「実は……」

「どうかしましたか」

「ええと……」

言葉を濁し始めた。

もしかして何か大変なことでも起きたのでは無いだろうか。だとすれば、一喫茶店の店員である俺に解決出來そうでもないし、話したがらないのも納得出來る。

「ケイタ、何をしているんだ。急いでこっちに捌けて服を著替えろ」

メリューさんがそう言ったのは、ちょうどそのタイミングだった。

そうだった。確かに今、私服で対応していた。接客業にとってそれはNG。話を聞くにせよ、先ずはいつもの格好にならなければ話にならない。

「ミルシア王陛下。ちょっと著替えてきます。失禮します」

丁寧に挨拶をして、俺はバックヤードへと捌けていった。

キッチンではメリューさんが鍋の火加減を見ていた。

「おはよう、ケイタ。先ずはお前が來てくれて助かった、といったところか。あいつと私は長い付き合いだが、人間だからな。ドラゴンメイドと話をするよりも、人間と話をしたほうがいいと思うのだよ」

「……はあ、つまり、ミルシア王陛下が何か悩みを抱えている、と?」

「そういうことだろうな。まあ、そこまでは分からない。だから、それをなんとか見つけて、できる限り癒してあげるのがお前の仕事だ。トークスキルはもうだいぶ上達してきただろう? 私も食事でアシストするつもりだ。だから、それまではなんとか頼むぞ。煮込み料理だから々時間がかかるものでね。……というわけで後はよろしく。著替えを済ませたら急いでカウンターへ戻ってくれ。恐らく、ちょうどそのタイミングくらいでミルシアのコーヒーが盡きるだろうから、お代わりの確認もしてくれよ?」

火加減を確認しているか若干早口でまくし立てて、また調理に戻っていくメリューさん。

それは面倒事を俺に押しつけただけではないだろうか――そんなことを思ったけれど、ここでメリューさんに口答えしたところで狀況が改善するとも思えない。

そう思った俺は、急いで著替えるべくさらにキッチンの奧にある更室へと向かうのだった。

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