「……お待たせいたしました」

私はケイタに食事を持たせた後、こっそりと眺めることにした。理由は単純明快。もし私の見立てが正しければ、あのは――あのと、私は一度出會ったことがある、そう思ったからだ。

だから、それを確かめるべく――私はケイタの裏に回っている、というわけ。もちろん、ケイタには気付かれないように視覚機能を阻害する魔法をかけている。ほんと、魔法の素質がない人間はにかかりやすくて助かるよ。

……おっと、これは差別発言に取られかねないな。とりあえずいったん保留しておこう。

「いただきます」

は箸を手に取ると、ゆっくりとそれを見つめた。

の目の前にあるのは、いなり壽司が二つ。

箸でいなり壽司を丁寧に取ると、それを口に放り込んだ。もちろん、それはの口にる大きさではないことは重々承知している。殘念ながら、ここにやってくる客って男客が多いのよね。だから、どちらかというと大きい……サイズになってしまうのよね。それについては理解して貰うしかないけれど、予め知っている客はそれを把握しているから「今回は小さめで頼むよ」とシニカルに笑いながら言うのよね。誰とは言わないけれど、いつもパフェを注文する羊使いの人とかはたまにそうしているわよ。

「……味しい。やっぱり、この味だ」

は何かを理解したかのような、そんな頷きを一つした。

ん？　もしかして誰かから見聞きしたのか。それとも一度このボルケイノにやってきた、とか？　いや、それは有り得ない。なぜそこまで言えるか――というと、私は覚えが良いほうだからだ。確かにすべてを覚えておくことは出來ないけれど、とはいっても、忘れてしまうこともない。

しかし、あんな子供がボルケイノに來たことはあっただろうか？　確かあれくらいの子供だと、私が見知っている範疇ではミルシアくらいしか知らないはずだったが……。

「ごちそうさまでした！」

気付けばはすっかりいなり壽司を食べ終えていた。何というか、あっという間だ。早業と言っても良いだろう。なぜそう言ったかと言えば、ゆっくりコーヒーを嗜んでいる（仕事中に何しているんだ、あいつは）ケイタが目を見開いてしまうくらいだった。

は落ち著く間もなくポケットから銀貨二枚を取り出して――銀貨二枚だと？

いくら何でも、そのいなり壽司には合わない値段だ。確か、いなり壽司だけなら銅貨六枚で良いはずだ。ちなみに銅貨一枚はケイタの世界では『ヒャクエン』というらしい。分かりづらい単位だが、まあ、あいつの世界に行くことはもう二度とないだろうから別にそこまで気にすることもないだろう。