《(ドラゴン)メイド喫茶にようこそ! ~異世界メイド喫茶、ボルケイノの一日~》するするさらりと味しいものを・後編
「お待たせしました」
ミルシア王陛下の前にそれを置くと、彼は中をじっと見つめたまま直してしまっていた。まあ、そうなるのも無理はないし、こんなものが來るとは想定外だっただろう。勿論、彼はそんな『想定外』をんでここにやってきているのだけれど。
しの間直していたが、咳払いを一つして、俺を見つめる。
「これはいったい何かしら?」
「こちら、お茶漬けという食べです。俺の住んでいるところではポピュラーな……一般庶民の食べるものです。さらさらとかっ込んで下さい」
「……かっ込む?」
「ガツガツと、口の中にれると言うことです。それが、お茶漬けの正しい食べ方ですから」
普通、お茶漬けをメインに據えることは無いのだが、それはこの店ならでは、かもしれない。大お茶漬けってなんかのメインが終わった後の〆の一杯というイメージが強いし。あとは胃腸が弱っている時に食べるとかかな。それは粥の方がいいかもしれないが。
俺の言葉を聞いて不審がっていたが、でもやっぱりそれが一番だろうという考えに至ったのだろう。箸を持って容を持つと、そのまま縁に口づけてさらさらとかっ込んでいった。
「……程ね」
ごくり、と飲み込んだ後言った一言がそれだった。
おおよそお茶漬けの味を理解してくれたのだろう。
「ふうん。こういう味もたまには良いものね。スープにお米をれるなんて、あまり見たことが無いわけだし。というか、王宮でこんな料理は絶対に出てこないものね。出てくるはずがない、とでも言えば良いかしら。いずれにせよ、流石メリュー。いつも私のハードルを軽々と越えてくれる。腹立たしいけれど、それがまた良い」
……ほんと、相変わらずミルシア王陛下は負けず嫌いな格だと思う。けれど、その『負けず嫌い』に対抗出來るのがここだけなのだろう。普段の場所、とどのつまり王宮、では彼は政治を執り行う人間として真面目に活しなければならない以上、巫山戯ることなど出來るわけがない。だから、ここに來て理不盡な要をする。それはある種の我儘に近い。
「……ふう。味しかったわ。今回も流石、といったところかしら」
ミルシア王陛下は空にした容をカウンターに置いて、その隣に金貨を數枚置いた。
「ま、ここに來れるのも……もしかしたら最後かもしれないのだけれど」
「え?」
「何でも無いわ。それじゃ、またね。……ケイタ」
最後の言葉は、うまく聞き取れなかった。
けれどそれを二度と聞くことも出來ず、ミルシア王陛下はそそくさとボルケイノを出て行くのだった。
その言葉と、その意味を知ることになるのは、しだけ後の話になる。
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