中間テストの最終日。

はやる気持ちを抑えて、一人、自室で考えごとをしている。もちろん、勉強について考えているわけではない。

一、何のために生きているのだろう。

僕はそろそろ、その答えを出すべきなのだろう。

母さんや絵さんに勧められるままに生きてきた二回目の人生。前世とは道筋は違うものの、死ぬ直前の疑問に答えを出せなければ、同じことを繰り返してしまう。そんな予が、僕にはある。

彩瀬さんは自分の居場所と僕を守るために生きると決めたように、僕も何のために生きるのか。その意味を見つけて、神山ユキトとしての人生を歩みたい。

生きる意味――そのことについて考えるヒントは、この前の事件にある。騒が終わった後、「彼たちを助けたい」と思い行した。強い気持ちを持って積極的にいたのは、あの時が初めてだったのかもしれない。

前世の記憶がなければ、助けようとは思わなかった。これは間違いない。記憶が殘っているからこそ、この世界に違和を覚えるし、それを含めて神山ユキトという人間はり立っている。この違和こそがアイデンティティだと、今ならを張って言える。

男を求めるが満たされず、迷走すると社會

男がないが故には「何としてでも手にれなければならないと囁く本能」と「もしかしたら、手にらないかもしれない漠然とした不安やプレッシャー」と戦っている。そして、一部のはそれに振り回されてしまい、不幸な結果を生み出していた。

これが、違和の正だろう。

「男を求める。男に振り回されて不幸になるを助ける」

思わず口にしてしまったけど、悪くはない考えだ。

彼たちを全て救うことは不可能かもしれないけど、出來る限り多くのが持つ、男を満たして不幸になる人を減らしたい。もちろん、楓さんや彩瀬さんといった近にいるについても同じだ。

一人でも多くの男を満たしてあげる。そのために人生を使ってみるのも悪くはない。

「まずは、ハーレムを作るべきなんだろう」

今までは、失敗した結婚生活を思い出してしまって、について一歩踏み込むことができなかった。でも、それは楓さんや彩瀬さんのことが嫌い・無関心というわけではない。むしろに近いは抱いている。これは間違いない。だからこそ、彼たちのに応えるためにも、今度は僕の方から歩み寄るべきだろう。

中間テストが終わって落ち著いたら、指を買ってハーレムにってくれとプロポーズをしよう――と、そこまで考えて、飯島さんの顔が頭の中に思い浮かんだ。

彼は、してハーレムにりたいという願いと、お見合いとの間で板挾みになって苦しんでいる。彼は何度も「お見合いはしたくない」といったサインを出していた。彼らしい控えめな方法だったけど、僕にアピールしていたのは、勘違いじゃないと思う。

もうその先を想像して怖がるのはやめよう。僕のハーレム候補になることで、彼のが満たさせるのであれば、彼の願いを葉えてあげたい。

彼と出會って一ヶ月弱。楓さんや彩瀬さんほどのを抱いているわけではないけど、彼を見捨てられないほどには、好意を抱いている。

◆◆◆

「うーん。テスト終わったー！」

「最後までやる気を切らさずに頑張ったね。平均點は超えそう？」

しからかうようなトーンで質問をする。

「うーん。どうだろう？　自信はあるけど……ちょっと不安かな」

「いつもみたいに《自信あるよ！》って、言い切ると思ったのに意外だね。彩瀬さんでも不安になることあるんだ」

「不安にじる時はあるよー！　そんな不安な私をめて？」

そういって抱きつこうとしてきたので、カバンを盾にして避ける。止まることができず、そのままカバンに抱きついている。

「めになるかわからないけど、テストが終わったし打ち上げをしようか！　実は、男が同伴していないとれない施設を予約しているんだ」

「やったー！　もちろん行くよ！　でも、ユキトからのおいなんて珍しいね？　あ、嫌ってわけじゃないよ！　ただ、何かあったのかなと思って……」

「テストが終わったら遊びに行きたくなるものでしょ？　細かいこと気にしないで遊びに行こうよ」

「うん！」

「飯島さんもどう？」

テストが終わったのに帰ろうともせず、僕たちの會話をながめていた飯島さんにも聲をかける。彼には必ず來てしい。

「え？　私もいいの？　でも、どうしようかな……」

お見合いを希する人にとって、男と遊びに行くのはギリギリのラインだ。悩むのもわかる。でも、彼ともっと近づきたいので、ここで逃すわけにはいかない。

彼の手を取って、もう一度、お願をいすることにした。

「実は、飯島さんもの分も予約しているんだ。友達と遊ぶだけと割り切って參加してくれないかな……」

手を握られて驚き、助けを求めるように彩瀬さんの方を向く。

「え……どうしよう……彩瀬ちゃん？」

彼は、こういう時は必ず僕の意図を察して賛してくれる。彼に聞いても、僕の味方が一人増えるだけだ。

「さおりも一緒に參加しようよ！　一緒に遊びたいな！」

そう言われてしばらく悩んでから結論がでた。

「……友達と遊びに行くだけだもんね。そうだね。何も問題ないよね。お邪魔じゃなければ、私も參加するね」

その一言で、予定通り全員參加することが決まった。さっそく、絵さん・楓さんに電話で事を説明してから車でお臺場方まで移し、複合エンターテイメント施設ラウンドツーに到著した。

室にると付があり、名前を告げてから鍵を渡しもらい、個室まで移する。移する途中に一人の男とすれ違った。男を中心に三人のが囲んでいて、その後ろを五人のが離されないようにと、必死に歩いてたいのが印象的だった。

全員同じような年齢だったので、僕たちと同じでテストの打ち上げに來ていたのだろう。

予約した部屋は、三十人はれる広い部屋だった。床はフローリング、白い壁紙、おしゃれな照明。壁に掛けられたテレビ、コの字型のソファーとローテーブル。マンションの一室のような裝でだった。

飯島さんはこの手の施設には慣れていないようで、「ふぁー」と口を開けてつぶやいている。普段はそつなくこなす彼のし間抜けな表に、思わずドキッとしてしまった。

「ユキトはり口でし待っていてください。これから怪しいモノがないか調べます」

どうやら、絵さんと楓さんは隠しカメラや盜聴が隠されていないか調べるようだ。そんなこと、一度も気にしたこともなかった。たまに反省するんだけど、僕は隙が多いのかもしれない……。

部屋の隅々まで調べている二人をぼーっと眺める。調査が始まって五分、問題がないことがわかりようやく室にることができた。部屋のなかには、マイクといったカラオケ機材の他に、ゲームや映畫のブルーレイディスクなど々とあり、長時間遊べそうな道が揃っている。

「なんだか楽しくなってきたね！　思いっきり遊ぼうよう！　まずは歌う？　それともゲームでもする？」

遊び道を眺めていると、なんだかワクワクしてきた。箱り息子だから、商業施設にったことすらほとんどない。前世の記憶がなかったら、小さい子どもみたい飛び跳ねていたかもしれない。そう思ってしまうほど、気分は高揚している。

「ユキトの歌が聞きたい！」

「いいよ。その前にジュースとお菓子を注文してもらえないかな？」

「そういう雑用は私がやるから」

絵さんは雑用係に徹してくれるようで、線専用の電話付近の床に座って僕たちのことを見ている。

「絵さんありがとう」

そうお禮を言ってから曲を選び始める。男の歌手はほとんどいないので、歌える曲が極端にない。ない選択肢の中から、なんとか歌えそうな曲を見つけたので、マイクを持って歌い始めた。

実は昔から歌は得意で、お風呂や部屋でよく歌っている。日々の練習のおかげか、音を外すことなく歌いきることができた。

「ユキト歌うまいね！」

「ユキトの歌聲は心に染み渡りますね」

「男の生歌って初めて聞いたけど、すごくいいね」

彩瀬さんは拍手しながらはしゃぎ、楓さんは思い出すように目をつぶっている。飯島さんは目に涙を溜めながら褒めてくれてた。

その後もジュースを飲んでお菓子を食べて、順番に歌い、一通りカラオケを楽しんだ。今は彩瀬さんと楓さんがテレビの前にまで移して、格闘ゲームで対戦をしている。僕は飯島さんと一緒に、ソファーに座りながら一進一退の攻防を眺めていた。

「今日の打ち上げは楽しんでる？」

二人で話すには絶好のタイミングだと思い、意を決して話しかけることにした。

「うん！　今までで一番楽しい！」

先ほどのカラオケで気分が盛り上がっているようで、いつもよりし大きな聲で返事をしてくれた。視線をテレビから僕の方に向けた飯島さんは、ここ最近では珍しくなってしまった満面の笑みを浮かべている。

これならいける！　そう確信した僕は、さらに一歩、踏み込む。

「また一緒に遊ばない？」

「遊びたいけど……お見合いのことを考えると難しいかな……」

先ほどまでの笑顔から、一転して、悲しそうな表になる。ここで話題を変えたくなるけど、今は我慢をして話を続ける。

「お見合いかぁ。やっぱり大変？」

「大変というか、私がんだ形じゃないのが……殘念かな。ずっと前に諦めていたんだけど……」

そんな彼を見て、強い既視に襲われる。

自分の気持ちやを押し殺して、周りの期待に応えるために生きようとする姿勢。何より自分のみを諦めてしまったその目は、暖かい結婚生活を諦めて、ただお金を稼ぐために生きた前世の僕と同じだと気づいてしまった。

きっと、ここで行しなければ後悔する。そう思うとすんなりと決心がついた。

「飯島さんはどんなことをんでいたの？」

「素敵な男として結婚する……ことかな。お母さんには、子供っぽいって馬鹿にされるけど、今でも、小さい頃に読んだ漫畫の主人公にあこがれているの。學校で知り合って、仲良くなって、ハレームにって結婚する。贅沢だと思っても、諦めがつかななかったの」

ここが分水嶺だ。お見合いが決まってしまった彼のみを葉えてあげられるのは、僕しかいない。そう思い込むことで、ない勇気を振り絞って、告白するように張しながら考えていた言葉を口にだす。

「……ねぇ。それって僕じゃダメかな？」

「え？」

何を言われたのか理解できなかったようで首を傾げる。

ちょっと唐突すぎたかなと反省しながらも、言葉を続けることにした。

「學校で知り合って仲良くなった僕は、夢の條件に合うと思うんだ。僕に不満がなければ、もう一歩進んだ関係にならない？」

「冗談だよね？」

まっすぐな瞳で、僕を見つめてくる。

心臓の鼓は早くなり、全から汗がふきだしてくるのをじる。「言うんじゃなかった！」と後悔する気持ちが湧き上がってくるけど、それ以上に「うまくいきたい」という気持ちが強かったので、なんとか最後の一言を口に出すことができた。

「こんなこと冗談でも言わないよ。僕は本気。斷っても恨まないから、お見合いをするか、僕のところに來るか考えてもらえないかな？」

「でも……」

そういって周囲を見渡す。

今朝、學校に行く前に「飯島さんをハーレム候補にれるかもしれない」と宣言していて、みんな賛してくれている。特に、母さんと彩瀬さんは積極的だったのが印象的だった。

「さおりとずっと一緒にいたいな！」

そういって彩瀬さんが抱きつき、それがきっかけになって、彼から涙がとめどなく流れ出す。いつの間にか、格闘ゲームは遊び終わっていたようだ。

しばらくのあいだ、格闘ゲームの音楽と控えめな泣き聲だけが聞こえていた。

「いいのかな……。男に迫られるなんて、贅沢なことをされてもいいのかな……」

「良いんだよ。文句を言う人がいれば僕が守ってあげる」

心が通じた嬉しさのあまり、飯島さんの背中に腕を回して抱き込んだ。綾瀬さんや楓さんが何か言っているけど、聞こえないふりだ。後でなんでもするから、今は飯島さんとの時間を大切にしたい。

彼の溫を十分にじてから、をし離して見つめ合っていると、ようやく告白の答えを口にしてくれた。

「ふつつか者ですが、末長くよろしくおねがいします」

そう言い切った飯島さんは、今までで見た中でも一番の笑顔だった。

……さて、これで終わりだったら気が楽なんだけど、そうもいかない。

すでに決まってしまったお見合いを、どうやって斷るかだ。男のプライドに関わる問題だ。慎重にことを進めなければいけないだろう。