《男比が偏った歪な社會で生き抜く 〜僕はの子に振り回される》36話
今日はロングフィットの配信日。
學校の制服から、3Dモデルをかすスーツに著替えているところだ。
前回の配信から二週間も空いてしまったんだけど、臺本作りやリハーサルに時間がかかってしまったんだ。でも、ようやく初配信の影響も薄まってきたのでタイミングとしては悪くないと思っている。
最近は企畫や臺本を考える度に「これで正しいの?」って悩んでしまうことも多い。専門家に仕事を依頼するって方法もあるんだけど、男が関わると、この世界のは信用できなくなる。男保護の観點から、母さんは自分たちだけで作ることにこだわっている。
正直、たまに厳しすぎると思うときもあるけど、ライブ配信やSNSといったインターネット上でも活しているから、念には念をれてるんだと思ってる。
理より本能が上回ってしまうと、常識は吹き飛び、法令遵守なんて意味をなさなくなる。
何度も襲われそうになったし、セクハラ紛いなことも経験してきたから、たちの倫理観の危うさは実していた。
「著替えは終わったかしら?」
ドアのノックとともに、母さんの聲が聞こえた。
「お待たせ、終わったよ」
「開けるわね」
ガチャリと音が鳴るとドアが開いて、スーツを著た母さんがってきた。
ロッカーが一つしかない小さな著替え室だから、二人しかいないのに圧迫が強い。
「付け忘れはないかしら?」
質問はしたけど返答を聞く気はないみたい。
僕の目の前にまでくると、しゃがんで袖や足首にある部品の充電をチェックをする。ランプが點燈して電源がった。
「大丈夫そうね」
そんな様子を見ながら、僕は子供の頃に著替えを手伝ってもらったことを思い出した。なんだか懐かしい気分だ。子供って自分のを上手くかせないから、意識は大人でも頼ることも多かったんだよね。
食事やお風呂もそうだった。何でもやってくれてた。僕は男だったから、特に過保護だったんだと思う。
「ちゃんと一人でできたでしょ?」
言ってから子供っぽかったかなと反省する。
「偉いわよ、私のユキちゃん」
母さんは立ち上がると、優しく僕の頭をなでた。
十代なら子供扱いしないで! といった合に反発するだろうけど、僕の神年齢はもっと上だ。親に甘えられるのは一時だけの贅沢だと知っている。
拒否なんて絶対にしない。その優しい手をけれることにした。
「大きくなっても甘えんぼね」
「優しい母さんがいけないんだよ。僕のことばかり考えてくれるから、いつまで経っても親離れできないんだよ?」
男が貴重な世界だから、母さんは當たり前のことをしているだけ。僕だから特別に優しくしてくれているというわけではない。
そう考えてしまうとし心が痛むけど、でも僕がだった未來は存在しないんだから無駄な妄想を斷ち切る。
「あら、ユキちゃんは私から離れたいのかしら?」
「そんなことないよ」
そんなはずがない。この世界で無條件で頼れる人は母さんと絵だけ。
二人だけは本能に振り回されず、理的な人間として振る舞ってくれる。それだけで安心するし、離れがたい魅力がある。
それは、のなせる技なのだろうか。
親子、親族だから、理というブレーキがきいて本能を制している。もしくは子供がいる安心が安定につながているのかもしれない。
僕のハーレムメンバーである楓さん、彩瀬さん、飯島さん……彼たちも結婚して子供を産めば、落ち著いてくれるのだろうか?
うーん。なくとも彩瀬さんが落ち著いている姿は想像できないや。彼は子供が生まれても、元気いっぱいのままで賑やかな家庭になりそうだ。それはそれでアリだね、そう思う自分がいることにし驚く。
あれこれと脳で妄想を繰り広げていると、らかいが顔を包んだ。
「えっ?」
抱きしめられたと気づいたのは數秒後だった。
は男にセクハラだと訴えられるのを恐れていて、意外に的な接は多くない。一緒に住んでいるハーレメンバーですら、手を握ることは希なんだ。だから最初は何をされたのかまったく理解できなかった。
「最近、頑張りすぎてない? 學校に行くだけでも大変なのに、バーチャルタレント活もしてるんだから心配よ」
母さんの腕に力がこもる。ほどよい強さで、心地良い。
最近はSNSのアカウントに誹謗中傷がとどくようになっていたので、神的に疲れていることも多かった。そんな傷は、母さんの抱擁で癒やされていく。
「無理してるように見えた?」
「もちろんよ。普通の男は家事をするぐらいで、仕事なんかしないのよ。なのにユキちゃんは、學生のうちから働こうとしている。昔から無鉄砲なところが多いから、いっつも心配しているわ」
學生がバイトをする覚で始めたんだけど、どうやら考え方が甘かったみたい。
前世と今世の価値観があってないから、苦労させてしまったことは數え切れないほどある。
「ごめんなさい」
聲が震えていた。
過去にやらかしたことを思い出して、目にうっすら涙が溜まっている。
「いいのよ。ユキちゃんが生まれたときから、あなたのために生きようって決めたの。獣みたいなから守って、誓ったのよ」
「そうだったんだ……」
「もちろん、絵も同じよ。もしかしたら私より気持ちは強いかもしれないわね。無口だけど、ううん、無口だからこそにめた想いは人一倍強いの」
改めて母さんから言われると絵さん特異な點に気づく。
両親でもないのにずっと一緒に生活してるなんて、普通はありえないよね。
「話はこれで終わりにしましょうか。スタジオの準備は終わっているわ。そろそろスタジオりの時間よ」
「もうちょっと、このままでも良い?」
「仕方がないわね」
數分、母さんに抱擁されている狀態が続き、ようやく溫もりから抜け出す決心がついたところで、再びガチャリとドアが開く音が聞こえた。
パッとお互いを手放し、離れる。
けど、遅かったみたい。
「……何してるの?」
絵さんが冷たい目で僕らを見ていた。
恥ずかしい場面を見られてしまって顔が真っ赤になってしまい、言い訳が思いつかない。
あわあわと手を振って慌てていると、絵さんがいきなり両手を広げた。
「…………」
無言のまま向かい合っている。どうすれば良いのだろうか?
思考がまとまらない。助けを求めるように母さんの方を向く。笑顔だった。
「行ってきなさい」
そっと背中を押された。力に逆らわず、一歩、二歩と前に進んで、絵さんの目の前に立つ。
すると、背中に手が回って抱きしめられた。
抱擁をしたかったんだ。そういえば、絵さんに抱きつかれるのは初めてかもしれない。
「いい子、いい子」
「あら、絵がそんなことするなんて珍しいわね」
「抜け駆けはダメ。私も同じことをするの」
さっきの言葉が蘇った。絵さんもずっと、僕のことを守ってくれたんだ。気が済むまでこのままでいよう。
僕も絵さんの背中に手を回してぎゅっと抱きしめていると、頭の上で母さんと絵さんが話し聲が聞こえた。
「三人にはね」
「嫉妬する」
「そう、彼たちはまだ未よ」
「まだ早い」
「私も同じ考えよ。だから、ね」
「もちろん」
會話が終わりしばらくすると、が離れる。
「先にスタジオに戻るわ」
母さんが絵さんを連れて更室から出てしまった。
なんだか嵐が過ぎ去った後のようで、一抹の寂しさが殘っている。
「僕一人だけじゃないんだ。皆に喜んでもらえるように頑張ろ」
んな人に支えられて今の僕がいる。そんな當たり前なことを実していた。
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