《ぼっちの俺、居候の彼》act.11/南野津月
火曜日は休みながらも趣味に打ち込んで、たくさん寢て、充実な1日だった。
そして水曜日、俺はいつも通り朝飯を作って學校に行く支度をして、新聞を読んで登校する。
その隣には浜川戸頭姫という、黒髪ロングの可憐な子高生が並んで歩き、おかげで自転車に乗ることは葉わず、今日は持ってこなかった。
「ねぇねぇ利明? わかってると思うけど、もうテスト2週間前だから。私これでも績いいし、なんでも聞いてね?」
「……あぁ、そういやお前、よく家で勉強してたな。テスト前だったからか」
「そうだよぉーっ! ていうか、明日からもう7月だね。夏休み時間があったらさ、海行こうよ」
「バカお前……俺は夏の音楽祭に參加するんだ。毎年出てるし、儲けるんだぜ? 海だとかいう塩水の中にってジタバタするより全然マシで創造的だろ?」
「でも海は遠いからプール行こっかぁー。水著買わないとね〜♪」
「お前よく俺の話スルーするよな」
都合の悪いことは聞こえないとばかりに耳を塞ぐ頭姫。
このは……それに、今更水著なんて見たってなんとも思わないっての。
「楽しそうだよな、お前。これから期末試験がやって來て、夏休みの宿題が溜まり、俺は憂鬱だぜ」
「そんなのいつもの事じゃん。今年は新しい友達と夏を過ごせるから、嬉しくて……」
「俺、お前の友達じゃねーから」
思いっきりくるぶしと踵かかとの合間を靴底で蹴られた。
コイツ、靴れすると痛い所を……!
「そうだよねー、私達、友達以上の関係だもんねー?」
「あーあーはいはい、もうそれでいいよ……」
これ以上話していてもまた蹴られそうなので、俺は足早に學校へと向かうのだった。
いつも通り2-5の教室へ、いつも通りの席にいつも通り座る。
パソコンだけ立ち上げてソフトをいくつか起させて、いつものようにHRが始まるのを待っていた。
トントンッ
不意に、肩を2回叩かれる。
こんな事をしてくるのは頭姫だろう、俺はヘッドホンを取って彼の方を見上げた。
しかし、そこに立っていたのは頭姫ではなかった。
茶髪のツーサイドアップ、赤い眼、高校生にしては小さい軀……それは紛れもなく、昨日の新聞で見た彼で――
「アホかぁぁぁああああっ!!」
可いび聲と共に、ハリセンで俺の顔をぶん毆って來た。
白い紙束は俺の頬にクリーンヒットし、首が40°ぐらい曲がる。
「……津月」
「ツッキーだおっ☆」
「事でアイドル陥落……」
「それ言わないでよぉおお〜っ! とっしぃーっ!!!」
泣きながら俺に抱きついてくるペタンコアイドル。
ウゼェ……つーか、なんでコイツがここに?
「お前、転校してきたの?」
「そーだよぉーっ! もうっ! 寂しくて死んじゃいそうだったのに、なんで昨日、學校來ないんだよぉおおおおお!!!!」
「わかったからそういうの揚羽にやれよ。男の俺に引っ付くな。つーかEQついたし、作業するからどけ」
「うぇーん! こんなにプリティなツッキーを、とっしぃーが構ってくれないぃいいっ!!!」
「…………」
ヤバかった。
こののバカ合もそうだが、元アイドルにベタベタされる事で周りからの視線がやばかった。
普段ぼっちの俺が全國的アイドルだった子と仲が良いなんて思わないだろうから。
でも何故か頭姫の視線は人を殺せそうな域まで達してる。
お前には事し話しただろうが。
「……HR始まるぞ。話は後で聞いてやるから、席に戻れ」
「……えへーっ、話聞いてくれるんだ? そしたらさ――」
利明も話してよ――
今の家族のこと――
ぞわりと冷や汗をじるような冷たい聲で言うと、津月は自分の席へと戻っていった。
あぁ、嫌な事って當たるよな――。
憂げに頬杖をつきながら俺は窓の外を眺め、ため息を吐くのだった。
△
晝休み一番に津月は俺の席に現れ、その後に頭姫もやって來た。
ここだと目立つからと、最近夏が本気を出してきたせいで人の居ない中庭に向かった。
「ツッキーだお☆」
「死ね」
「とっしぃー酷い!! 昔はせめて"はいはいわかったわかった"ぐらいだったのに!」
「小學生の時の話だろ」
ぷっぷーっ、と口で言いながらわざとらしく怒るチビ。
俺の左側に立つ頭姫は無言で歩みを進める。
やがてベンチに腰掛け、俺を真ん中にして腰掛ける。
晝飯時だというのに、手元にパソコンが無いと不安で他ならない。
主に揚羽的意味で。
「ほんで、お前なんでアイドル辭めたわけ?」
弁當箱を開きながら、単刀直に聞いてみる。
すると津月はにこやかに笑って答えた。
「とっしぃー、私と一緒にユニット組もうぜっ!」
「真面目に答えろよ」
「自己都合退職でーすっ☆ 大人の都合で事になってるけどね? みんなが納得いく理由だし」
「……へぇ。都合? どしたん?」
「…………」
津月は一度口を閉ざし、そして目をも閉じて、そして――歌った。
ラの音に聴こえた。
ただラと言うだけ、本當にそれだけ。
なのに俺のはゾワリと震え、彼の聲しか聴こえなくなる。
心地よかった。
まるで天使に優しく抱きすくめられてるような、不思議な覚にを包まれる。
それも數秒の事、彼は口を閉ざしてニッコリと笑う。
……そうか、コイツ……手にれたのか。
「えへへぇ……"幸せの音程"です。どう? 興した?」
「しないから。でも、そうか、よかったな」
「ツッキーだおっ☆」
「それいい加減キモいからやめた方がいいぞ」
「ギャーッ!!?」
なんで奇聲を上げるのか。
パクパクと飯を食っていると、反対側からちょんちょんと肩を叩かれる。
今度こそ頭姫だった。
「ねぇちょっと……私のこと無視しないでくれる?」
「話出せばなんかしら言葉は返してやるよ。あぁでも、お前ら俺につきまといそうだし、自己紹介ぐらいすれば?」
「テキトー過ぎるよ、利明……」
頭姫はうなだれてしまい、代わりに元気な津月が手を挙げる。
「はいはーいっ! ツッキー自己紹介しまーすっ☆」
「お前の事は誰でも知ってるからしなくていいぞ」
「ひどっ!? アイドルだって、趣味とかBWHとか、そこまで調べる人って稀なんだよ!!?」
「興味ないからいいよ、BWHって、お前ペタンコじゃん。も別に大きくな――いててててっ、痛いから、やめい」
ひたいに青筋を浮かべながら脇腹をつねってきた。
コイツ……昔は暴力振るわなかったのにな。
「……ったく。ほら頭姫、自己紹介。前に立って」
「はーいっ」
俺に催促され、頭姫は弁當箱を置いて俺と津月の前に立つ。
そして優しく微笑み、津月に自己紹介した。
「初めまして、南野さん。私は浜川戸頭姫です。訳あって、今は利明の家に居候させて貰ってるの。趣味は映畫を見たり、カラオケに行ったりかな? よろしくね」
「……いそーろー?」
「うん、居候」
「…………」
途端に津月は肩から力が抜けてしまい、俺にもたれかかる。
居候で、なんでそんなショックなんだか。
「……利明、君は私よりこの子を選ぶの?」
耳元でそんな事を訊いてくる。
選ぶ? 何の話だ?
「俺は何も選んでねぇよ。頭姫の事は、何というか、必要だったから居候にした。そして、なんだかんだで助けるじになった。それだけだ」
「……ぐぉぉおおおお! 私はずぅぅぅううっと昔から利明が好きなのにぃぃぃいいっ!!!」
「はいはいわかったわかった」
「結婚しーてーよぉぉぉおおおっ!!!」
「それは考えとくわ」
「今すぐがいぃぃぃいいっ!!!」
「じゃあ死ね」
「何その2択!?」
石のように固まり、自分の膝に突っ伏す津月。
コイツには惚れられんわ、うるせぇし。
「……折角、花嫁修行のためにアイドルやめたのにっ」
「は? 幸せの音程手にれたからじゃねーの?」
「それもあるけどっ! 一番大事なの利明だからっ! これ絶対変わらない!」
「うん、わかったからし黙ろうな」
「もがぁっ!」
津月の口に、彼の弁當からコロッケをとってそのまま突っ込む。
これで30秒ぐらいは黙るだろう。
すると、とっくに座り直していた頭姫が俺の肩を叩いた。
「ねぇねぇ利明? その子とは、小學校が一緒だったんだよね?」
「そーだよ。中學からはメールとか電話で連絡とってたけどな。高校生になってからは、なんか知らんが連絡取れなくなった。あぁ、今のやり取りでわかると思うけど、稚園から俺に好き好き言ってたのコレだから」
ムシャムシャとリスみたいに頬を膨らませてコロッケを食べている津月を指差すと、頭姫は苦笑した。
「ツッキー可いのに、利明は付き合わないんだ?」
「俺別にコイツ好きじゃねぇしな。つーか初もまだだし、付き合うって想像できねーし、よくわかんねー。一緒に出掛けて、一緒に買い行って、それなら友達でいいじゃん。人ってなんだよ」
「とっしぃー、君が揚羽ちゃんに抱くのことだよ」
「そうか、る程」
揚羽の事はずっと抱きしめてたいと思うし、人ってそういうことか!
1人で納得していると、頭姫から軽くチョップを頂く。
「それ、ただのシスコンだから」
「人の心読むなよ。もうシスコンイコール人でよくね? お前らいらねぇよ、早くメシ食ってどっか行け」
しっしっと手で払うと、俺は2人から背中に蹴りを食らうのだった。
……俺、最近不憫過ぎやしないか?
こうして今日の晝休みは過ぎていく――。
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