《-COStMOSt- 世界変革の語》Prologue
有史2000年、それよりも遙か昔から人類は存在していました。舊人類と呼ばれる字の使えない人間は30萬年、それから先の我々新人類は20萬年の歴史があるそうです。
人間は50萬年も生きている、それなのに何故"みんなが幸せな世界"は未だにできないのでしょう? 我々人類は、そんなに馬鹿で不完全なのでしょうか?
――否、それは違います。我々には知恵があり、今のテクノロジーを築き上げた。もう十分な技がある。あとは私達人間の心の問題と、どんな世界が"理想郷"なのかの発想力が問題なんです。
それなら――私が用意しましょう。
私は齢よわい15のですが、これまでの人生は世界のために捧げてきた。あとは人材さえ揃えば、この國はきっと良くなる。
だから、貴が育つのを待っています。
「――神代晴子――」
◇
 ――カタカタカタカタ
デスクの前にある2臺のデスクトップPCのキーボードに、私は片方ずつ手を置いて作業をしていた。1つの畫面にはコードを打ち込み、もう1つは個人報のデータがめくるめくスピードでウィンドウが開いては添削して閉じる作業を繰り返す。
我々の手は2本ある。キーボードと畫面も2個あれば作業効率は2倍で、無駄が省ける。勿論、畫面を2つ見て分けながら考える脳と集中力がある人間でないと不可能な事だ。
手も疲れてきた頃、デスクに置かれたスマートフォンが小刻みにバイブレーションを繰り返し始める。
作業をしながら、すかさず右手でスマートフォンを取り、通話ボタンを押して肩に挾む。そして空いた両手で作業に戻りながら、ここ數時間閉じていた口を開いた。
「もしもし?」
私の問いかけにまず応じたのは、私と同じぐらいけたたましい音を鳴らす、電話越しのキータイプの音だった。こんなことができる人間は世に何人もいない。発信者は見なかったが、私は即座に相手が誰か理解する。
《ああ、どうも競華せりか。ご無沙汰してます》
「黒瀬瑠璃奈くろせるりな……何の用だ? 今日は夏休み最後の日、宿題がわからんか?」
《冗談はよしてくださいよ……。私が宿題なんてやるわけないでしょう?》
「そうだな」
私も彼も高校1年生、宿題があるにはあるが、それをやるのは本人ではない。あんなものは下請けにやらせればいいんだ、答えだってネットを使えばすぐわかる。私達はパソコンをいじってる方がに合う。
「それで、要件は?」
《えぇ、大したことじゃないのですが……貴の高校に人を送りました。明日の始業式で會うかもしれませんね》
「人?」
私は首を傾げ、落ちそうになったスマートフォンをかろうじてけ止めた。
私と黒瀬瑠璃奈は通う高校が違う。彼は都立トップの高校に裏口學し、私は地元の友人たちと同じ普通の公立高校に學していた。偏差値も普通、部活の実績も県大會に出たかどうかの高校。
そこに、人を送る……?
「それは誰で、どんなことができるんだ?」
《北野きたのね椛もみじという名前の、貴と同年代のの子ですよ》
「それで?」
《北野さんは悪い人なので、晴子さん・・・・と敵対するでしょう。貴から聞く晴子さんの報だと、彼の長は乏しいはず。北野さんに頑張ってもらいましょう》
「…………」
私は言葉を返さなかった。
私の同級生、神代晴子かみしろはるこ――中學生からの友人にして、天才の。聖徳太子のように人の聲を聞き分けて會話をするようなで、尚且つ全國模試100位圏にる優等生。
私は彼の友として、中學から3年以上肩を並べてきた。だからこそ言える。
「雑魚を敵対させた所で、取り込まれるのがオチだぞ?」
《わかっていますよ。北野さんも自分なりの知恵と力を持っています。晴子さんと対立したとしても、すぐには負けないでしょう》
「ふむ……。なら良いのだがな」
私は手を休め、ギジリと椅子の背もたれに深く腰掛けた。
話を聞く限りだと、し晴子を揶揄からかってやろうというところか。まったく、このはタチが悪い。
《それから、北野さんは"理想郷"について知ってるわけではありません。無知なままそちらに転校させましたので、貴も何も教えないでください》
「私に何もするなと言うのなら、何故電話をした?」
《それぐらい自分で考えてくだ……あ、いや、すみません。ちゃんと言います。北野さんは薬品會社の後継なので、弾とか気を付けてくださいね。以上です》
「は? おい、ちょっと待て――!」
咄嗟に出た私のびは、攜帯の向こうに居る彼に屆かなかった。ツー、ツーという寂れた機械音が耳につくと、私はゆっくりとスマートフォンをデスクに置く。
弾に注意しろ――その呼び掛けは果たして、対策の練りようがあるだろうか。おそらく、學校に行かない、以外に対策はないだろう。他にどうしたらいいんだか……。
「まったく、どうしろというんだ……」
私は疲れたように溜息を吐き、ひとまず考えを後回しにして仕事に戻るのだった。
◇
夏休みも最終日。そう思えるほど休んだ記憶もなく、僕は今日もまた、機の上に參考書とノートを広げていた。
いろんな人が言う、勉強は暗記だと。実際その通りだし、暗記と計算の速さ――詰まる所、頭の回転の速い人を、人々は"賢い人"と呼ぶ。
"賢者"と呼ばないところが一つのキーワードだと、晴子さんは言っていた。賢者とは高徳者を指す言葉であり、理的で、人のためになる知恵を與える人間であると。そんな、言葉の足をとって並べたような事を考えるのが、彼は大好きだった。
今日は夏休み最後の日、彼は何をしているだろうか。また六法全書でも読んで、改善點を出してはレポートにまとめてるんだろうか。よくもまぁ、そんな事をして文科省に直談判するもんだ……。
僕は僕で、今日も勉學に勤しむ。彼と肩を並べるために。
従兄弟いとこの瑠璃奈も、晴子さんも、みんな理想郷という言葉に敏で、僕はせめて彼等の役に立てるようにと、勉強を続けている。
晴子さんも偏差値がトップの某國公立大に進學するつもりらしく、僕もそうするつもりだ。
進路を決めている以上、勉強はするし、そのために必要なスキルを手にしている。TOLEIC990點、漢検1級……中學から毎日勉強だけしていれば取れるもので、僕も晴子さんも、友人の競華も取得している。
どうしてこんなに頑張るのか……きっと、晴子さんが"理想郷"という言葉に取り憑かれたからだろう。彼が「世界を変えよう」などと言いださなければ、こんな事にはならなかったと思う。
世界を変えたい、そう思う人は幾らでもいるだろう。くだらない事を一日中議論する國家、立場の弱い人間を狙うマーケティング、減らない犯罪……有識人なら、將來この國には頭の悪い人しか殘らないと考え付くはずだ。
否、きっといつの時代もそうだった。天才はほんの一部、その他の大衆は目先のばかり考える汚れた存在だったはず。
これからの時代は、大衆すら有徳者にしてしまおうと晴子さんは考えている。明確な方法はまだ聞いていないけれど――
高校一つ手玉に取る彼なら、本當にやってみせるだろう。
僕はそれに付いて行き、補佐するだけだ。
僕は天才じゃない。人をかすような事も、何かを作り上げる事もできない。
僕は騎士になる。貴を守り、仕える存在に。
武は詭弁と知識、この矛で貴方を守り抜き――
――この世界の"王"にしよう。
◇
20XX年8月31日、全てはここから始まる。
これは、新たな秩序を生み出す語、その準備段階。
Preparing for "Change the world"――。
【書籍化・コミカライズ】実家、捨てさせていただきます!〜ド田舎の虐げられ令嬢は王都のエリート騎士に溺愛される〜
【DREノベルス様から12/10頃発売予定!】 辺境伯令嬢のクロエは、背中に痣がある事と生まれてから家族や親戚が相次いで不幸に見舞われた事から『災いをもたらす忌み子』として虐げられていた。 日常的に暴力を振るってくる母に、何かと鬱憤を晴らしてくる意地悪な姉。 (私が悪いんだ……忌み子だから仕方がない)とクロエは耐え忍んでいたが、ある日ついに我慢の限界を迎える。 「もうこんな狂った家にいたくない……!!」 クロエは逃げ出した。 野を越え山を越え、ついには王都に辿り著く。 しかしそこでクロエの體力が盡き、弱っていたところを柄の悪い男たちに襲われてしまう。 覚悟を決めたクロエだったが、たまたま通りかかった青年によって助けられた。 「行くところがないなら、しばらく家に來るか? ちょうど家政婦を探していたんだ」 青年──ロイドは王都の平和を守る第一騎士団の若きエリート騎士。 「恩人の役に立ちたい」とクロエは、ロイドの家の家政婦として住み込み始める。 今まで実家の家事を全て引き受けこき使われていたクロエが、ロイドの家でもその能力を発揮するのに時間はかからなかった。 「部屋がこんなに綺麗に……」「こんな美味いもの、今まで食べたことがない」「本當に凄いな、君は」 「こんなに褒められたの……はじめて……」 ロイドは騎士団內で「漆黒の死神」なんて呼ばれる冷酷無慈悲な剣士らしいが、クロエの前では違う一面も見せてくれ、いつのまにか溺愛されるようになる。 一方、クロエが居なくなった実家では、これまでクロエに様々な部分で依存していたため少しずつ崩壊の兆しを見せていて……。 これは、忌み子として虐げらてきた令嬢が、剣一筋で生きてきた真面目で優しい騎士と一緒に、ささやかな幸せを手に入れていく物語。 ※ほっこり度&糖分度高めですが、ざまぁ要素もあります。 ※書籍化・コミカライズ進行中です!
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