《-COStMOSt- 世界変革の語》第18話:背面世界①
8畳ほどのフローリングがある室には、機やその他ベッドなどの家、そしてサーバーその他機械の乗ったラック、加えて整然とダンベルやバーベルなどのトレーニンググッズの置かれた部屋。
その部屋の主人は機の前でデスクトップPC二臺の電源をれ、待機中にスマートフォンを肩と耳で挾んで通話を試みる。何度コールしても通話には応じず、パソコンの方が點いたが、漸く"彼"は通話に応じた。
《なんですかぁ、競華せりか? 貴最近電話する頻度多過ぎますよ。私の事好き過ぎでしょう》
気怠そうな聲がスマートフォン越しに伝わってくる。敬語で暗い聲の――畫面の向こうに居るのは、黒瀬くろせ瑠璃奈るりなだった。
彼の聲に混じってキーボードの音が伝わってくる。瑠璃奈が忙しなく働いているのが、競華には伝わった。
とはいえ、軽口を叩くほどの余暇があるならよいと、気にせず話す。
「託はいい。聞け」
《はいはい……なんです?》
「北野きたのね椛もみじが晴子の名を使い、SNS上で援助際活を行なった」
《…………》
畫面の向こうからの音が止む。キーボードから手足を離すほどの驚愕だったのを競華は理解する。こんなことになるとは、思わなかったのだろう。
《……普通に考えれば、本名を使うとネットに永久に殘るから、使わないとわかるでしょう。就活の時もなんとかなると思いますが……でも、まぁ、そうですか》
「ネットの方での履歴は會社のメンバー數人で削除に回った。アカウントも3つあったが、全部消したぞ」
《さすがグル級、助かります》
「禮はいい。それより、北野はどうする?」
《…………》
再び沈黙が訪れる。北野がこれほどの迷行為をするとは、困りものだった。
弾ならまだいい。名前が知れ渡ったりしないから。でも、名前を汚し、知れ渡らせるような真似は、高貴な気質の持ち主である2人も許せなかった。
高貴――それ故に、瑠璃奈は決斷する。(※1)
《……晴子さんに任せましょう。データについては彼は門外漢でしょうから、消しといていいとは思います。しかし、それ以上の事は見ず知らずのれずらず存ぜぬで――》
「煩うるさい」
《――ま、手助けは無用という事で。彼なら、なんとかするでしょう?》
「まぁ、な」
瑠璃奈の言葉を競華が肯定する。晴子は競華と違い、パソコンを弄るのは得意ではない。人と向かい合うことが得意なのだ。
時には味方と、時には敵と。向かい合い、言論をわすことが彼の力である。
もしくは、力技に出るかもしれない。
彼をとてつもない程に侮辱したのだから――。
《だから、我々は見守りましょう。……まったく、送って1月経たずでお陀仏とか、嫌ですよ?》
「ならばお前が來い。楽しめるぞ?」
《そこまで暇じゃないので。今やっと"プロトタイプ"が形になってきたんです。はぁ……ここまで長かった》
「……。プロトタイプ、か……」
瑠璃奈の発したその単語に興味を示し、競華は目をらせる。
プロトタイプ――それは瑠璃奈の思い描く理想郷の話だ。ついに実験段階にると知り、研究に関わる競華もが滾る。
「……私も參加できるんだよなぁ、瑠璃奈?」
《ええ……長らくお待たせしました。始は2月からの予定ですが、どうです?》
「1月は晴子の舞臺が終わるから、それに合わせたのか。クク……有難い話だ」
――我は競い勝つ勝利の華、全て倒してみせよう。
勝気な競華の言葉を聞いて、畫面越しの瑠璃奈もまた笑うのだった。理想郷プロトタイプ、晴子の知らぬところで胎を始める――。
◇
打ち上げが終わり、私は電車から降りてフラフラと暗い道のりを歩いていた。
クラスをまとめ、生徒會の職務を全うし、打ち上げも盛り上げるために――というかほぼ強制參加だった。楽しかったけれど、來なかった幸矢くんがしだけ羨ましい。
とはいえ、長い長い文化祭が終わった。たった2日なのに、々とあり過ぎて頭もも疲れ果てている。
競華くんから連絡が來て、私が援助際活をしているなどという下劣な行為はいくら私の名前で検索しても見つからなくしたようだ。彼には世話になりっぱなしだ、論爭や會議で困っていたら、恩を返そう。
北野くんは橘くんを助けたことが功をし、"実は良い奴"という烙印を押され、打ち上げにまで參加していた。その中で私は善人らしく、
「北野くん、橘くんの代わりを務めてくれてありがとう」
そう言って握手までした。もちろん、腹の底では「どうやって目の前から消してやろうか」と考えていたが、それは彼も同じだろう。優しく握り返されたのが印象的だ。
あの時の剣幕は凄かったが、他のクラスメイトにはわからないだろう。腹の探り合いというか、お互いに腹黒い人間だから仕方ない。なんとも複雑な世界で生きているものだな、私達は。
不意に私は空を見上げる。
我々は誰もが同じ空の下を生きている。しかし、それぞれの生き方、考え方といった生きる方向は別々だ。同じ世界にいるけど、方向はバラバラ。だから対立し、人を貶めることがある。
だけど、人の思考を統一すれば、それは最早人間ではなく機械だ。しかし、思考は統一するところも必要。
つまり、どこを統一するかが重要なのだろう。
これも1つの勉強だ――なんて思っていると、前方から見覚えのある小さな人影が見える。その人影は月明かりに照らされて姿を見せると、私の3m手前に立ち止まった。我々が対話をする時、距離を開けすぎだと思う。
「……こんな時間に何の用かね、競華くん」
優しく笑って問いかける。しかし、競華くんは相変わらずの仏頂面で返した。
「今日は隨分と慌ただしかったな。貴様も痛しただろう、出る杭は早めに打つべきだと」
「……北野くんのことかい? 確かに、今回のようなことを繰り返されれば堪らんな。キミが居てくれて本當に助かったよ」
「これからはネット社會だ。貴様も覚えれば良いものを」
「私は今、手一杯だからなぁ……」
勧められても、勉強には事掻きたくないし、私には生徒會の仕事があるし、放課後はクラスで勉強を見ている。土日祝日も論文や本を読んだりと勉強しているから、今からプログラミングを始めるのはね……。
私がげんなりとした顔を見せると、彼は細い目をさらに細めて鼻を鳴らす。
「ふん、話題逸らしとは隨分余裕だな。北野を倒す算段はついたのか?」
「ん、一度懲らしめるぐらいなら良いかと考えているよ。ただ、私から挑戦することはできない。わかるだろう?」
「貴様は"良い人"だからな。それぐらいわかっている」
「うむ」
私は頷きを返し、間を置いた。
私は自分から懲らしめることは出來ない。いや、彼を拉致監すれば話は別だが、その懲らしめた後に、私が"悪いこと"をしたと噂立つのはよろしくない。
つまり、北野くんに悪いことをさせて、私が北野くんを敗する等、彼から私の方へ來てもらわないとならんのだ。そういうわけで、私は余裕ぶって彼に挑発せねばならない。それを、彼もんでるだろう。
「競華くん、私達の様子を見學するかい?」
「死なないように、しは見といてやろう」
「ハハッ、それは頼もしいね」
後ろ盾があるとありがたい。――とはいえ、私は負ける気がしないのだがね。
さぁ、私は善人であるが故に裁く事に対して容赦はしない。善き世界から冷酷無比な世界へと落ちていこう。
善なる私と対極の私が映る、背面世界へと――。
※1:気品がある故に、"認可のない橫槍"という無粋な真似をしない。
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俺は20代獨身。性別は男。何もない所にいきなり連れてこられ、世界を創造し異世界を侵略しろと言われた。些細なイレギュラーにより、序盤ではあり得ないチート魔王が出來ちゃったのでスタートダッシュと灑落込むぜ!あー彼女欲しい。
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