お晝休み、晴子さんの周りには子がたくさん居て近づき難い雰囲気だった。別に、彼が何か面白い話をしているわけではない、寧ろ聞く専門だ。

話とは、話し手と聞き手がいる。晴子さんの聞き方はとても上手い。なんせ、相手の聲のトーンに合わせて表を変える。話を聞いてるんじゃない、相手の顔を見てるんだ。

は、お喋りをする事で脳からホルモンが分泌され、ストレスを解消してると聞く。つまり、話を理解するのではなく、相手の顔と聲のトーンに合わせて表を作ると良い。

まぁ、脳別行という技能を持つだ。しっかり話を聞きつつ、脳の端で別のことを考えてるのだろう。

お悩み相談はいつでもけるの晴子さんだが、はてさて……。

「……ちょっと、幸矢くん？　目の前に可いの子がいるのに、他のを注視するのはどうかしら？」

「…………」

僕はゆっくりと、視線を正面に戻した。目の前にいる椛は不満そうに口を曲げて、僕のお弁當にパン用のジャムマーガリンを掛けていた。……高カロリーだな。

「……なにさ？　話すことでもあるの？」

「今出來たわ。そんなに晴子さんを見て、どうかしたの？　まさか惚れたとか？」

「いや……」

一応それは昔からだけど、そうじゃない。これから競華が留學し、その前に彼と戦う晴子さん。一今、何を考えてるのか気になる。あとで聞けば良いんだけど、唐突に競華が居なくなるという事で、僕も揺してるんだろう。思考が冷靜じゃない。

「……はぁ。貴方がそんなだと、私の食も失せるわ」

「君のせいで、僕の食も失せたけどね……」

目の前に置いてある、ジャムマーガリンの掛けられた弁當。僕は鞄からビニール袋を取り出し、ジャムの掛かったご飯の部分、表面だけを取って袋に詰める。おかずの類は妥協して食べよう。僕、甘いもの好きだし。

「……で、どうしたのよ？　貴方が晴子さんを見てるなんて、珍しいわね」

「……。彼がどう思ってるのか、気になってね……」

「気になる？　何を？」

「競華の留學」

「…………」

椛はポカンと口を開けたまま固まった。敵視して居た人間が勝手に居なくなるんだから、複雑な心境なんだろう。

「……いつから？」

「……さぁ。早くて明後日からかもね」

「いつまで？」

「……それは聞いてないけど、會社のことらしいから、早く帰ってくるんじゃない……？」

「それなら旅行でいいんじゃない？」

「……確かに」

短い期間なら旅行でいい。今の時代、1〜2週間からの留學もあるし、短くても2週間は帰ってこない……かな。それでも短いけれど。

「……まぁ、彼の績で留年はあり得ない。3月の期末考査に間に合わなくても、大丈夫だろう……」

「留學なんだから、その辺の心配はいらないんじゃないかしら？　ま、私の知ったことじゃないけど」

「……そうだね」

僕はそう返事を返し、臺無しになった弁當を一口ついばんだ。考え事をすれば味はわからないし、考える。

このタイミングでの留學は、間違いなく晴子さんの演劇が終わるのを待っていた。きっと、あの演劇に何か意味があると思ったのだろう。……結果だけ見れば、競華はいつも通りで何か得た様子はないけど。

晴子さんは、僕に長してしいとも言っていた。僕自、何か長したわけではない。ただ、思い出しただけだ。

あの日――手をばした。

1人のの子に手をばして、立ち上がらせ、そのは僕よりも大きくなった。椛はこれからに期待だけど、晴子さんは大きくなり過ぎた。

そして今度は、僕が手をばされた。友達になってしい――それに一どんな意味が含まれてたのか、未だにわからない。

この意味がわかれば、僕は長するんだろうか。今回の演劇で言ってた、寂しさとか友とか、家族が死んでよくわからなくなってしまったけど――晴子さんはきっと、僕に明るく戻ってしいんだろう。そういう意味での、長。

今は一心に家族事を背負っているけれど、代が學してくれば友人達に話さなきゃいけなくなる。そうすれば肩の荷も降りて、この疲れた表も取れるかもしれない。

「……お弁當、なくなってるわよ」

「ん……？」

椛に指摘されて気付くと、僕は空の弁當箱をつついていた。々考えて、思い出して、時間を忘れていたようだ。

「何を考えてたのかしら？」

「……。僕自の事、かな……」

「聞いても？」

「……君に話すには、親度が足りないかな」

「あら、急に乙ゲーになったわね。親度を上げるために、デートをしてもらおうかしら？」

「……だから、それも好度が足りないよって……」

ため息を吐き、僕は弁當箱をしまった。好度の足りないは頬杖をついて僕のことを見ている。

一応好かれてるとしては、椛との好度を保っていた方がいいし、スキンシップぐらいはいいだろう。僕は椛の頬に手をやり、優しくでた。椛は何も言わず、目を細めてされるがままにでられる。

「……幸矢くん、指が細長いのね。の子みたい」

「生まれつきのことを言われてもね……」

「顔も、しの子っぽいんじゃなくって？」

「……こんな目つきの悪いの子、いたら嫌だろ？」

「そうね。男の子だから、いいのよね」

「…………」

頭も優しくでてみる。椛は何も言わず、よく懐くペットみたいに自分から僕の頭に頭をり付けてくる。

……こうしていれば、ただの可いの子なんだけどな。あれからきがないから怖い。

「……僕としては、君がどうするのかわからなくて怖い。競華は留學、晴子さんを討ち取るなら、今だろう？」

「…………」

率直にそう言うと、彼は頭にある僕の手を取り、搦めとるように指と指をうように繋いだ。俗に言う、人繋ぎというやつだろう。

「……今は爭うより、仲良くする事を務めるわ。何かあるかもしれないから、ね？」

「……そのために、この繋ぎ方をするのか」

「ええ、わかりやすいでしょう？」

優しい指に僕の右手は包み込まれる。わかりやすい、確かにそうかもしれない。それにしては――

「――――」

晴子さんが、こちらを見ていた。

仲良くしている様子を彼に見せつけているようにしか思えない。依然として仲が悪いな、この2人……。

「……ねぇ、幸矢くん？」

「なにさ……」

「晴子さんって、貴方の事好きなんでしょう？」

「…………」

僕は黙った。たとえそれが真実だとしても、人の気持ちを勝手に言いふらすものじゃない。

僕が口を閉ざすと、椛はお喋りになる。

「フフッ、の子はそういうのわかっちゃうのよ。貴方はそういうことに疎いかもしれないけど、ああやって嫉妬してるのを見ると一発でわかるわ」

「……。嫉妬、か……」

嫉妬って、怖いな。めちゃくちゃ怒ってるだけにしか見えない。晴子さんは俗に言う"キレる"という行為をしないから、笑顔で怒るのがとても怖い。

あれでも昔は、「こら〜っ！」って言いながら追い回して來たんだよな……。

「はぁ……」

「……なによ？　急にため息なんか吐いて？」

「いや……人の長って、悪い方にもあるんだなって……」

「當たり前じゃない。目の前にその例が居るのに、今更なに言ってるの？」

「……自はやめなよ」

僕はまたため息を吐き、晝休みが過ぎ去るのを待つのだった。

◇

家に帰って、ご飯を作って食べて、多の筋トレをしてから勉強を始める。流れ作業のように一連の作をこなすも、心複雑というか、明日どうなるのか考えると手が止まりそうだった。勉強に沒頭すると悩みも小さくなるけど、それでもし心配だった。

《ピロン♪》

「…………」

考えてる側から、スマホに通知が來る。僕は椅子から立ち上がり、ベッドに投げ出されたスマホを拾い上げる。

送り主は晴子さんで、容はこうだった。

〈競華くんから明日の容を伝えられた。キミにも手伝ってしい〉

「…………」

僕は無言でmessenjerを開き、返信する。

〈容次第だよ〉

短い文を送ると、すぐに既読がついて電話が掛かって來た。文章を送るより電話で伝える方が早い、當たり前か。

僕は通話に応じ、耳元にスマホを當てる。

《やぁ》

「……やぁ」

《さっそくだけど、話させて貰う。明日、何をするのか……ね》

「…………」

僕は無言を続け、晴子さんに次の言葉を催促した。天才と天才の戦い、一どんな戦い方を選ぶのだろう。

僕が期待を膨らませると、晴子さんは不敵に笑ってこう言った。

《フッ……勝負容はね――

――鬼ごっこ、だよ――》