「翼！　翼！！　無事か！！？　どうなっている！！！」

ドアの向こうで、激しく戸を叩きながら男の大きな聲がする。

古柴こしば空也くうや。俺のルームメイトだ。

「空也ソラ！」

すぐさま呼び名で応答する俺。

空也ソラが続けてぶ。

「鍵がかかっていないのに、ドアが開かないぞ！！！」

「ちょーっと部屋に侵者がだなぁ……」

「なにぃ！！？　分かった！！　今からドアを開ける！　なるべく離れろ！！！！」

「はっ？」

俺が詳しく説明しだす前に、勝手に納得した空也ソラがんでいる。

嫌な予がした俺は、話をしようと近づいたドアから一目散に離れる。

部屋の奧に転がる遙はるかの近くに著くかどうかで、部屋のり口が、音と共にはじけ飛ぶ。

「翼つばさ！！」

「おま……っ、何を……っっ」

舞い散る埃と破片に思わずむせる。けぶる向こうから現れたのは、巨大な馬上槍ランスを持った眼鏡の大柄な男。

通稱：話を聞かない眼鏡野郎、こいつが古柴こしば空也くうやだ。

俺の橫に転がっている遙はるかを見下ろして、空也ソラが呟く。

「なんでここに遙はるかがいるんだ？」

「空也ソラぁ～。助けてぇ～」

「えっ」

けない聲で呼びかける遙はるかに空也ソラが戸う。

「おい、わされてるんじゃない。こいつが侵者だ」

「ん？」

首をかしげている空也ソラに、先程までのことを軽く説明する。

一通り聞いた空也ソラが尋ねてきた。

「で、遙はるかは何をしに來たんだ？」

「夜這い♪」

「黙っとけ説明がややこしくなる。あー、まぁ強盜とか盜りの類だ。未遂だが」

「遙はるかはそんな悪い奴じゃないぞ」

しれっとそう言う空也ソラに俺は頭を抱える。

「ああーー……。ま、とにかくっ、男子寮に子生徒がるのは寮則違反だ。規則は守らなきゃいけないだろ？」

「ふむ」

「つーわけで、こいつを宿直室まで運ぶ……。とその前に」

俺は遙はるかをつつき、大破したドア付近を指差して言う。

「おい遙はるか。このドア直せ」

遙はるかはむくれてそっぽを向きながら呟く。

「壊したの私じゃないもーん」

「そもそもの原因はお前だろうが」

俺が言い返すと、遙はるかがこっちへ向き直り、笑顔を浮かべて懇願してきた。

「えー。じゃあせめて腕出させてー」

「アホか。そんなことしたら絶対逃げるだろうが。短詠唱てぬきするんじゃない」

「手抜きじゃないもん……」

遙はるかは不満そうにぼやいたあと、しばらく唸りながら考えて、深呼吸をする。

そして、今までとは全く違う落ち著いた聲で、詠唱を始める。

「【――理に逆らい、ありし姿を想う我を許したもう

――室の口、囲う門

――時を還り、相応しき形へ寄り戻りたまえ

――復元修復リストレーション】」

遙はるかの聲に呼応するように、がれきがゆっくり浮き上がり、壁やドアに吸い付いて元通りに戻っていく。

詠唱が終わる頃には、まるで何事もなかったかのような部屋があった。

「これでいーい？」

々不機嫌な聲で遙はるかが呟く。

「ああ、上出來だ」

「私は不出來に不満」

頬を膨らませる遙はるかの頭を軽くでる。

遙はるかの機嫌がし直ったのを確認して、空也ソラに向き直って言う。

「さて、運ぶか。空也ソラ、肩の方と足の方、どっち持つ？」

「え？」

「上半の方が重そうだな。肩を持とう」

「あ、いーや。うっかり上半を持つと『空也ソラがおっぱいったぁ』とかぬかしやがるぞコイツは。俺が上半持つわ」

「はっ、その手が。って、なんで私、米俵みたいに擔がれてるの！？　むしろ子牛？　ドナドナ的な？　あーあーーゆれるうああああ」