その日の午後。

中庭で他の生徒が見守る中、遙はるかと千晴ちはるが向かい合って立っている。

俺は、悩んだあげく、近くで見るのは止めて、中庭が見える廊下から眺めることにした。

「ルールは標準スタンダード、先に傷を追った者またはけなくなった者、負けを認めた者が敗者とする。よろしいですね？」

「ええ」

「はーい」

生徒會の役員であろう生徒が二人の間に立ってルールの確認をしている。

――現代の日本において、決闘は止されている。俺も詳しくはないが、普通に喧嘩やリンチをするよりも重い罰があったりする。

――しかし、魔師や魔を學ぶ學生が言う「決闘」はし事が違う。

――第一に、魔で人殺しはできない。

――通稱「抑止力」と呼ばれるもので、致命傷や意識が飛ぶレベルの重傷を負わせようものなら、先に者が倒れてしまう。

――それほどでもない怪我でも、やはり魔を使う方が苦しむことになる。原因は、よく分かっていない。

――第二に、魔は言葉による詠唱で行使できる。例外はある、空也ソラの馬上槍ランスのような。今回は割。

遙はるかと千晴ちはるは、それぞれ三歩ずつ後ろに下がって位置につく。

代理人の合図で二人が同時に詠唱を始める。

「【紡つむぎしは氷雪ひょうせつ、彼かの者に與えん――】」

「【とばしていくよー！】【消し飛べ！　太面発ソーラーフレア！！】」

――そして、詠唱は長々と唱える必要がある。本・來・は・。

千晴ちはるが生真面目に氷の魔の詠唱を長々とする中、遙はるかは速度アップの魔と、片足で地面を強く踏み、千晴ちはるが練っていた魔を打ち消す魔を、どちらも短詠唱で唱えていた。

「相変わらずひでえな」

いつの間にか俺の橫に來ていた空也ソラがぼやく。

――短詠唱は誰でも使いこなせるものではない。だいたい高等部を卒業する頃に出來るようになる奴が半分くらい、らしい。その上、できても得意分野だけ。

しかしながら、遙はるかの場合、ほぼ全種類の短詠唱が、學院転前から可能だったという化けだ。

「いつも手加減はしてねえからな。幻げんじゅつ封じはしてるらしいが」

遙はるかの得意魔、幻視幻聴の類を見せる幻。

決闘の場合、幻が見えるのは対戦相手だけなので「勝った出ないから」と言って使わない。

遙はるかの踏んだ足から放たれた熱波が、千晴ちはるの頭上に形された氷の塊を砕し、白い蒸気が辺りに広がる。

千晴ちはるが混して周りを見渡していると、霧の中から、青くる氷の剣を持った遙はるかが飛び出してきた。

遙はるかは、大きく剣を振り回して切りかかりながら、千晴ちはるに話しかける。

「ねェ。疲れるだけだし、降參してくれないかなァ」

千晴ちはるは制服に防護魔をかけながらなんとか防いでいるが、剣がぶつかる度に解けてしまっていた。

何度も魔を張り直しながら、苦しそうに応える。

「誰が！」

「貴がだよ」

「おことわりですわ！」

「ま、そうだよねェ」

遙はるかが後ろに跳び退いて、距離をとる。

彼が小首をかしげながら、千晴ちはるに尋ねる。

「決闘は貴族の嗜みなのかな？　途中で投げ出すのはプライドが許さない、みたいな」

「【紡つむぎしは氷雪ひょうせつ――】」

「あ、詠唱してちゃ答えられないか。【奏でよ賛歌さんか！】」

遙はるかの問答に付き合う気がないであろう千晴ちはるが再び詠唱を始めたのを見て、遙はるかは剣を振り上げんだ。

氷の剣が短く高い音を奏で、まとっていた青いを波狀に飛ばす。

の波に當たった千晴ちはるの魔が、一瞬で蒸発した。

「無詠唱！？」

「いやいや、そんな人を人外みたいに言わないでくれる？」

慄おののく千晴ちはるに遙はるかは苦笑じりに応える。

千晴ちはるはをかみしめ、先ほどより短めの詠唱で氷の剣を生し握りしめる。

「懲りないなァ」

遙はるかがぼやいて千晴ちはるに切りかかる。

千晴ちはるは剣も使わずに避け続けている。遙はるかの剣に當たると魔が解除されてしまうので、なるべくかわそうとしているらしい。

「あんまり痛いことはしたくないんだよォ。てか疲れてきたよォ」

遙はるかがだるそうにきを止めた。

その隙を逃さないように、千晴ちはるがすぐさま切りかかる。

遙はるかがニヤリと笑ってターンし、千晴ちはるの剣を叩く。

叩き折られた千晴ちはるの剣が半分の長さになった。

愕然とする千晴ちはるに、遙はるかが言う。

「ほとんどの人が、徒黨を組んで口を言うだけなのに、貴は一人で來た。それは褒めてあげる」

遙はるかが剣先を下にして一振りすると、砕けた氷が舞い上がり、たくさんの細い針になる。

「自分に自信があって、翼つばさ君のことも認めていて。……でもね」

剣を上に掲げると、氷の針が一斉に千晴ちはるに向けられる。

「翼つばさ君は、私の彼氏なの。彼の隣に立っているのは、私だけよ」

遙はるかの言葉を聞いた空也ソラが、俺・の・隣・で・自分を指さしながらとぼけた顔をしている。そういう意味ではないぞ。

遙はるかが剣を千晴ちはるにゆっくり向けると、氷の針が千晴ちはるに放たれる。

千晴ちはるが咄嗟に両腕で顔を覆った。

しばらくして千晴ちはるが顔を上げると、氷の針は、千晴ちはるをかわし、取り囲むように地面に突き刺さっていた。

千晴ちはるが膝から地面に崩れ落ちてうなだれる。

代理人が遙はるかの勝利を宣言し、その戦いは幕を閉じた。

周りの観客達オーディエンスが雑談をしているのが耳にる。

「いやー、よくもまぁ毎度毎度相手にするよなぁ」

「誰もあいつに勝てる奴いないんじゃね？」

「恥ずかしげもなく告白っぽいこと言うし」

「ツバサクン、されてるねー」

だが、だいたいの奴が勘違いをしている。

近づいて、口説いて、告白したのは、全・部・俺・の・方・か・ら・だ。