《ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~》まさか俺が修羅場を経験することになるなんて…
「は、はじめまして!栞ちゃんの友達の日野奈子です!よ、宜しくお願いします!」
「俺は栞の兄の藤岡奏太。で、こっちは俺の…彼の波志江なごみだ」
「…波志江なごみよ。よろしく」
「こ、こちらこそ、宜しくお願いします!」
とりあえず一緒にやってきた栞の友人と自己紹介する俺たち。
しかし、心では焦りまくって冷や汗出まくり…。
それもそのはず。ただでさえ栞への対応をまだ何も考えていない狀況での本人登場。それだけでも焦るというのに、どうやら狀況はさらに厄介な方向に進んでしまっているらしい。
「ふーん。なるほど」
何やらなごみに対して敵意を向けている様子の我が妹…。まるで嫁の至らぬところを探す悪な姑のような目を向けていた。
「栞ちゃんも久しぶりね。元気にしていたかしら」
「うん、まぁ…」
「そ、そう。それは何よりだわ」
一方のなごみの方はというと、やはり俺同様焦りまくっているようで、余裕たっぷりで上から目線なのは口調だけ。頑張って普段學校で使っている人前用の格を必死に演じているものの、目は泳いでいるし、若干聲も裏返ってるし…揺しているのは一目瞭然。
っていうか、俺の妹にまで無理して人前用のキャラ使う必要あるか?…いや、日野さんもいるから仕方ないのか…。
「し、しーちゃん…やっぱりやめといた方が…ほら、まだ波志江先輩のことだってはっきりとは――」
「ダメよ。言うなら早く言っておかないと、どんどん手遅れになるかもしれないし。それに、ここまでのやり取りでなごみちゃんのことも大把握したから」
そして、栞の付き添いである日野さんはさらに気まずそう。
そりゃそうだ。友達の修羅場…それもその友達が実の兄を彼から奪おうという狀況に巻き込まれてるんだ。気まずいことこの上ないだろう。
っていうか栞の奴、わざわざこんなところまで何しに來たんだ…?まさか、なごみに宣戦布告とか?……うん。今の栞の様子を見れば十分あり得そうで怖い。
二人のに奪い合われる…周りで見ている分には羨ましい限りだが、実際自分がその中心となると話は別だ。――平、ごめんな。お前の苦労、今ならし分かる気がするよ。
だがとりあえず、こんなドロドロでギスギスしたじ、俺は免だ。そうなる前になんとかしないと…!!
――と、俺が一人で頭を悩ませる中、
「お兄ちゃん、ちょっと話があるんだけど」
先に話を切り出したのは栞の方だった。
「な、なんだ?」
顔を引きつらせなから、恐る恐る答える俺。すると…
「お兄ちゃん、今すぐなごみちゃんと別れて。今のなごみちゃんはお兄ちゃんにふさわしくない」
「「!!」」
予想していた中で最悪の部類の言葉が返ってきた。
なごみが完全にフリーズする傍ら、ある程度この言葉を予想していた俺は何とかここから栞の説得へと舵を切ろうと言葉を探す。
しかし…
「おい、栞、なんでそんなこと――」
「お兄ちゃんが好きなのは昔のなごみちゃんでしょ!?今のなごみちゃんに、お兄ちゃんを幸せにできるとは思えない!!」
真剣に、必死にぶ栞。
「私、知ってるよ?なごみちゃん、こっちに転校してきて初日にお兄ちゃんの婚約者だって宣言したり、いろんな人に憎まれ口叩いてたり、お兄ちゃんのことも馬鹿にするようなこと言ったりしてるって…。――そんなんで、お兄ちゃんが楽しいわけない!そんな人がお兄ちゃんを幸せにできるわけがない!!」
そのあまりの熱量に、俺が言葉を差し挾める余地はまるでなかった。
実の妹からここまで大事に思ってもらえる自分が誇らしくもあり、逆にここまで心配をかけてしまっている自分がけなくもあった。
まぁでもよかった。どうやら栞が怒ってるのは“なごみの変化”が原因っぽいし。これに関してはちゃんと事説明すれば大丈夫だろ。
(なごみ、言ってもいいよな?)
(…わかった。その代わり栞ちゃんの友達にはちゃんと口止めしておいてね…?)
――きっと事を説明すれば栞もわかってくれるはず…これで一件落著だ。
小聲で栞に説明する許可をもらった俺は、一つなごみに頷いてから栞の方へと向き直り、面と向かってから切り出した。
が、しかし…
「栞、心配してくれるのは嬉しいが、今お前が言ったなごみの件についてはちょっと事があってだな――」
「そんなの関係ないから」
真剣な口調で切り出した俺の言葉は、途中で栞に遮られ…
「…え?」
「どんな事があるにせよ、今のなごみちゃんが昔とは違うっていうのは変わらないだから」
「…え?」
栞からの予想外の切り替えしに、思わずフリーズする俺。
「なるほど、分かったわ。じゃあこれからは栞ちゃんに対しても昔みたいに――」
「言っとくけど、私にだけ昔の格で接してもダメだから」
「…え?」
さらに、栞の言葉を“お兄ちゃんに頼ってないで自分の口で説明しろ”という風に解釈したであろうなごみが口を開くが、どうやらそういう意味でもなかったらしく、俺と同じく一刀両斷。
「どんな事があるのせよ、今のなごみちゃんと付き合ってたらお兄ちゃん絶対に苦労するよ!もしかしたら、なごみちゃんの言が原因で大きなトラブルに巻き込まれるかもしれない!それが目に見えてるのに、黙って見てられるわけないじゃん!!」
栞、もしかして、お前エスパー…?とりあえず栞の言っていることが正しいことは経験則で分かった…。これからは栞のアドバイスはしっかり聞こう…。
「もしかしたら、何かのきっかけで昔の格に戻るかもしれない。でも、お兄ちゃんがそんな不確定なものをずっと待ってるなんて私は我慢できない!――だって、私…お兄ちゃんには絶対に幸せになってしいんだもん!!」
ここは絶対に譲らないと言わんばかりの目で俺をまっすぐ見據える栞…。
「言っておくけど、なごみちゃんの格が元に戻ったって判斷できるまでは二人の際は認めないから!!」
いや、際は認めないって…妹にそんな親みたいなこと言われたって…。
でも、栞の奴こうなると頑固なんだよなぁ…。普段ならその頑固さも可いと思えるんだが、今回ばかりは頭が痛い…。どうするべきか…。
思わず頭を抱える俺だったが、悩みはこれで全部ではなかった…。
「ちなみに、なごみちゃんと別れるか昔のなごみちゃんに戻ったと判斷できるまで、私、お兄ちゃんと口聞かないから!」
「……え?」
「聞こえなかったならもう一度言ってあげる。――なごみちゃんと別れるか、なごみちゃんの格が元に戻るまで、私、お兄ちゃんと一切口聞かない!勿論學校だけじゃなくて家でも」
「…ま、マジで…?」
「大マジ」
頭が真っ白になるとはこのことだろう…。
栞が俺と口を聞かない、だと…?ってことは、朝起こしてくれるのも、食事時の楽しい會話も、夕食後のスキンシップも…全部無し…?
「そんな生活、耐えられん…」
俺は思わず両手を地面についた。
栞との流無しに、俺は一何を楽しみに家に帰ればいいんだ…。
「嫌ならさっさと別れるかなごみちゃんを元に戻して!いい!?」
「はい…」
現時點でなごみの事を知ってる奴なんていないし、そもそも俺もなごみも頼れる奴なんてそうそういない。それに、誰かに証人を頼むにしてもそいつに事を説明したりと、どうしても時間はかかってしまう…。つまり、どうしても數日は栞との流ができないことに…。
そんな絶に打ちひしがれた俺は、がっくりと項垂れることしかできなかった。
「行こっ、みなちゃん!」
「う、うん!――あの、すみません…」
そんな俺を放置した栞は、最後になごみをキッと一瞥すると、申し訳なさそうにしている日野さんを連れて去っていく。
「さっさとなんとかしてよね……私だってお兄ちゃんと喋れないのは寂しいんだから」
「ああぁぁ…なんてこった…」
去り際、栞がこちらに向かって何か言ったような気がしたが、その聲は自分自の絶の聲にかき消され、俺の耳には屆かなかった。
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