《ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~》彼のいない日々なんて……
翌日。本來なら解放に満ち溢れ、テンションも通常の3割増しくらいになっているはずのテスト期間終了後、最初の土曜日だというのに、
「お兄ちゃん! もう11時だよ!? 早く起きなよー」
毎日たのしみにしているしの妹からのモーニングコールをけている今現在でさえ、俺の心はブルーなまま。
「悪いが栞、お兄ちゃんは今落ち込んでるんだ。起きてほしいなら『お兄ちゃん大好き!』と言って抱きつくくらいしてくれなきゃ――」
「大丈夫、それなら起きなくていいよ」
可い妹からもぞんざいに扱われ、俺の心はさらに濃い青へ……。再び布団を頭から被って起床ボイコットを継続した。
「もう! そんなことなら別れたりせずにコッソリ付き合ってれば良かったじゃん!」
兄のそんな姿に栞は頬を膨らませてあきれ顔。――うん、さすがは我がしの妹。呆れ顔も可いな。
まぁ、栞が呆れるのも無理はない。昨日なごみとの人及び婚約関係を一旦白紙に戻すことにしたものの、家に帰ってきてから徐々にダメージが蓄積されていき、気付けばこの様。
え? 昨日なごみにあんなに調子の良いこと言っておいて、落ち込んでんじゃねぇよ! って? 仰る通り。全く反論のしようもございません……。俺自、自分にこんな乙な一面があったのかと、驚きを隠せない今日この頃である。
「栞……殘念だが、男には自分の気持ちを押し殺してでもやらなきゃいけないことがあるんだよ……」
「いや、そういうカッコいいセリフはせめて布団から出てから言ってしいんだけど」
ちなみに、なぜ栞が俺となごみが別れたことを知っているかというと……
「っていうか、お兄ちゃんもなごみちゃんも二人して私のこと頼り過ぎじゃない?」
昨日なごみから、『今日奏太君と別れることになりました。しばらく距離を置くことになるので、奏太君に何かあった時はよろしくお願いします』というメールをけ取った栞に問い詰められた俺に黙権の行使は認められず、洗いざらい白狀させられたというわけだ。
「そ、そうだな。なごみには俺から、『うちの可い妹に迷を掛け過ぎるなよ』って伝え――」
「お兄ちゃんもだよ!」
「お、おう……」
おかげで栞の俺に対する當たりも3割増しになっている気がするのだが……気のせいだろうか? と、妹までもがまさかのSキャラになってしまうのではないかと心心配していると……
「っていうか、お兄ちゃんも、なごみちゃんも、そんなに寂しいなら電話とかラインとかすればいいじゃん」
「……え?」
その妹の口から予想外の言葉が飛び出した。
「い、いやいや、栞。俺となごみはもう人関係でも婚約者でも――」
「でも、馴染なのは変わらないでしょ?」
「!!」
確かに、一理ある……。
「一応別れたわけだし、お兄ちゃんが波志江おばさんの出した條件を守るつもりなら休日とか放課後とかに二人で會うのはグレーゾーンだけど……電話とかラインまでは気にする必要ないんじゃない? だって、人とかじゃなくても“馴染”なら電話もラインも普通するでしょ?」
「なるほど……。確かに“別れろ”とは言われたが“一切関わるな”とは言われてない。つまり友達同士でもやっているようなことなら特に問題なしってことか!」
突然降ってきた希のに、俺は頭から被っていた布団をはねのけ、勢いよく起き上がった。
つまり、一時的に別れたとは言っても電話もラインもできるし、學校にいる時は普通に喋れる。さらに一緒に弁當を食べることも……。
「なんだよ! 結局別れたところで付き合ってた頃とほとんど同じことできんじゃん!!……って、あれ?」
が、しかし。ハイテンションになりかけていた俺は、不意にあることに気付いてしまった。
「ただの馴染に戻ってもほとんど付き合ってた頃と変わらないって…もしかして…」
振り返ってみればなごみが転校してきたからというもの、新町達から目を付けられて……二人揃って拉致されて……栞と一悶著あって……なごみの母ちゃんが出した條件をクリアするために懸命に勉強して……
「俺達、付き合ってから人らしいこと何もしてねぇじゃん!!」
初験どころかキスすらしてない! ――いやいや、っていうかそれ以前にハグも手繋いで下校したりもしてないぞ!? つまり……
「俺は彼持ちという立場にありながら、男としての経験知を何も積むことなくその立場を追われてしまった愚か者だということか……!!」
ガクッ…
俺は膝から崩れ、地面に両手をついた。
「あの……お兄ちゃん?」
俺とて男のはしくれ。常日頃から下ごころは持ち合わせていたはず。チャンスもあった。それなのに……俺はそのチャンスを不意にしてしまっていたのだ。全く俺って奴は……。悩みの種があったり、キャラの変わったなごみへの振る舞い方に戸ったり、問題に巻き込まれたりといろいろ事があったにしろ、男として不甲斐ないにも程があるだろう……!!
「俺としたことが! なんたることだ!!」
「あの、お兄ちゃん? 聞いてる?」
悔しさからか気付けば地面を叩きつけていた。俺は間抜けにもチャンスをフイにし続けていたんだ……。チャンスはいつでも與えられるわけじゃないのに……。そして、次のチャンスは最短でも3カ月後……。
「クソッ! こんなことなら雰囲気とか関係なしにキスくらいしとくべきだった!!」
「……うん。これはしばらく放置するしかないね」
と、妹に見捨てられているのに気付かず、一人後悔の念に駆られていると……
ブーブーブー
不意にスマホのバイブ音が。
「これ、お兄ちゃんのスマホじゃない? 私のスマホは自分の部屋だし」
「ん?」
栞に指摘され、ふと自分のスマホを見てみると、
「ああ、確かに俺の方にライン屆いたみたいだ――て、えっ!?」
そのラインの差出人は、ある意味俺達兄妹の中で話題沸騰でありながら、全く予想外な人だった。
「なごみの……母ちゃん!?」
その予想外の差出人の名に、思わず目を剝きながら肝心の容の方を見てみると……
『奏太君、元気かな? ところで、この前約束した條件のことだけど……君、何か盛大に勘違いしてるみたいだから、ちゃんと説明してあげる(笑)これからうちに來なさい』
そこには俺を困させる容が……。盛大な勘違い? どういうことだ? まったくもって意味が分からん。
そもそも、この“勘違い”の容が俺にとっていいことなのか悪いことなのか……それすら分からず、思わず顔をしかめた。だが……
「……まぁ、とりあえず、行ってみなきゃ何も分かんねぇよな」
俺はそのラインに『了解です』と短く返信し、
「悪い、栞。ちょっと行ってくるわ」
「え、ちょっと! お兄ちゃん!?」
居ても立ってもいられず、このラインの差出人の待つ波志江家へと走った。
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【書籍化・コミカライズ企畫進行中】 「私は父に疎まれておりました。妹に婚約者を取られても父は助けてくれないばかりか、『醜悪公』と呼ばれている評判最悪の男のところへ嫁ぐよう命じてきたのです。ああ、なんて――楽しそうなんでしょう!」 幼いころから虐げられすぎたルクレツィアは、これも愛ゆえの試練だと見當外れのポジティブ思考を発揮して、言われるまま醜悪公のもとへ旅立った。 しかし出迎えてくれた男は面白おかしく噂されているような人物とは全く違っており、様子がおかしい。 ――あら? この方、どこもお悪くないのでは? 楽しい試練が待っていると思っていたのに全然その兆しはなく、『醜悪公』も真の姿を取り戻し、幸せそのもの。 一方で、ルクレツィアを失った実家と元婚約者は、いなくなってから彼女がいかに重要な役割を果たしていたのかに気づくが、時すでに遅く、王國ごと破滅に向かっていくのだった。
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