《ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~》そして俺達は、名実共にいわゆる”人”というやつになった。

の中間テスト終了から一週間後。

今回の一件の中で、実は付き合ってからまだデートすらしていないという事実を知った俺となごみは、本日遂に付き合ってからの初デートを実行することに。

本來であればドキドキワクワク、甘酸っぱい青春の1ページを満喫するはずだったのだが……

「この炎天下の中、園とか……マジで死ぬ……」

「ほら、奏太君。何をモタモタしているの? それでも人間?ここにいる達でももっとキビキビ歩けるわよ?」

「いや、園って本來キビキビ歩くような場所じゃないと思うんだが……」

カレンダー的にはまだ6月中旬だというのに、本日の気溫はなんと驚愕の30度越え。こんな真夏日にデート場所に園を選んでしまうという大失敗。藤岡奏太史上ワースト3にるくらいの失敗だ。

大好きなごみさんはというと、張り切りまくりで朝からずっと園を駆け回っているのだが、それに付き合わされている俺はというと、まだ晝前だというのに既にヘロヘロのグロッキー狀態。まさに明暗別れるとはこのことだ。

「見て! 奏太君!! キリンよ!! 知ってる? キリンって一日に2時間くらいしか寢ないらしいわよ?」

「そ、そうか……ところでなごみさん? そろそろ休憩でも――」

「奏太君、次はパンダを見に行くわよ!? 普段はかなり人だかりが多い人気スポットだけど、お晝時の今なら多は人もなくなっているはずよ」

「あの……俺の話聞いてます……?」

一面大好きな達に囲まれ興狀態の彼に、最早俺の聲は屆いていなかった。

せめて普段學校で見せる“毒舌ドSモード”じゃなく、“素の狀態”の優しいなごみだったなら、しは俺のことを気遣ってくれたかもしれないが……。いや、コイツ興狀態になると周り見えなくなるし、殘念ながら変わらんだろうな……。

ちなみに、なぜ我が彼殿が二人きりなのに“素の狀態”じゃないかというと、『ここは學區だからクラスメートに遭遇する可能があるから、念のため今日は“人前用”でいく』ということらしい……。もう一度言おう。マジで園デートは失敗だった……。

「あぁ、今なら小さい子供を連れたお父さんの気持ちがよくわかるぜ……」

しかし、なんやかんや文句をこぼしつつ、悲鳴を上げるに鞭打ち、楽しそうに數メートル先で振り返りこちらに手を振っている可い彼を追いかける。まったく、俺って奴は……なんて健気なんだ。と、誰も勵ましてくれないので、とりあえず自分で自分を褒めながら、上機嫌で先を行く彼について行く俺であった。

※※※※

「マジでもう無理……もう一歩もけん……」

しかし、時刻も午後4時を回った頃。遂に俺のライフポイントが底を盡きた。

閉園時間が近付いているということもあり、退場ゲートをくぐっていく客が大勢を占める中、俺達は比較的人通りのない、退場門からし離れたところにあるベンチに座り、休憩中。

しかし、

「だらしないわね。普段から部屋に籠って毎日何時間もエロ畫ばっかり見てるからよ。しは運でもした方がいいんじゃない?」

「おい、勝手に俺の休日の過ごし方を“AV鑑賞”にするな」

「え、違うの? 私、今年の奏太君への誕生日プレゼントはAV1萬円分にしようと思ってたんだけど……」

「よし! 今すぐにその計畫は中止しよう! 実行したとしてもお互いに気まずい空気になるだけだから!!」

「大丈夫よ。私はそういうのに理解のあるだから。たとえ『このAV一緒に観ようぜ!』とか言われても気にしないから――まぁ、せいぜい軽蔑の目を向けるくらいかしら」

「気にしてるじゃん! それ、思いっきり気にしちゃってるじゃん!! 全然理解あるになれてないからね!? っていうか、彼と一緒にAV観ようとか言わねぇから!!」

隣に座るからの嘲笑じりの毒舌攻撃は留まることを知らず、俺のライフポイントは一向に回復しないまま時間は経過していき、

『間もなく閉園時間となります。本日はご來場いただきまして誠にありがとうございました。またのお越しを――』

気付けば園には閉園時間を告げるアナウンスが響き渡っていた。

あぁ、これで初デートも終わりかぁ……。疲労は半端じゃないし、結局カップルらしいことって何もしてないよな……。まぁそれなりに楽しかったし、今回はこれで良しとするか。

「じゃあ、そろそろ俺達も帰るか……」

あっけなく終わってしまった初デートの慨に浸りつつ、疲れ切ったに鞭打ち立ち上がる。だが、

「ちょっと待って」

「うおっ!ちょっ!!」

隣に座る毒舌娘に強引に手を引かれ、俺は強制的に再びベンチへと座らされた。

「なんだよ急に――」

「……まだお禮をしてないわ」

「……は?」

隣を見ると、そこには頬を朱に染めながら、まっすぐこちらを見ているなごみの顔が。――こ、これは……もしかして!?

「今日デートにってくれたお禮……それからテストで一生懸命勉強を教えてくれたお禮、まだしてないでしょ……?」

顔を赤らめ、俯き加減にチラチラと上目遣いでこちらを見上げてくる人。おまけに周りには人っ子一人おらず、二人きりというシチュエーション。

恥ずかしそうに手をモジモジさせているなごみの仕草、日が沈みムード高まる景……これは間違いない! 待ちに待った“アレ”がくるに違いない!!

「お、お禮とか別にいいっつーの! 別に見返り目的でやったわけじゃねぇし!?」

普段通りクールに振る舞おうとしているものの、張のせいか自分の意思とは裏腹に聲は裏返り、目は泳ぐ。

「わかってる……それでも、ちゃんとお禮がしたいの――ねぇ、奏太君……目、瞑ってくれる……?」

キタ―!!! これはもう間違いないでしょう!! の子が恥ずかしがりながら『目、瞑ってくれる?』なんてきたら、これはもうラブコメの王道、“お禮にキス”しかないでしょう!!! 俺は勝利を確信し、心の中でド派手なガッツポーズ。

「お、おう」

そして、心の中の歓喜がバレないよう、必死に何でもないフリして言われた通りに目を閉じる。

あれ? 俺、口臭とか大丈夫だっけ……? ヤベッ、晝飯ハンバーガー食っちまったじゃん。っていうか、俺のちょっとカサカサしてね?

そんなどうでもいい心配事をしながら待つこと數秒。おや? どういうことだ……?一向にに何かが當たるはしないし、それどころか、顔が接近してくる気配すらないぞ?

いや! ちょっと待てよ!? まさか……ドッキリ!? 可能は大いにある。相手は“素のなごみモード”ではなく、俺をからかうことが大好きな“毒舌ドS”。キスすると見せかけて目の前で笑い堪えているなんてことは十分考えられる……。

クソ、俺としたことが! ちょっと都合が良すぎるなとは思ったんだよなぁ……。心の中で、決定的な場面を外したサッカー選手並に悔しさをわにする俺。

だがしかし、俺だって男だ! もう後には退けない! ――こうなれば強引にを奪ってやる!! 俺は決めたぞ! ――なごみよ、安易に俺をからかいその気にさせてしまったことを後悔するがいい!! と、なごみに仕返ししてやるため、目を開いたその時……

「なごみ! かくごぉ!?!?」

チュッ

俺のは何からかいものによって塞がれた。

「……も、もう! いきなり口開かないでよ……! びっくりするじゃん……!!」

「!!」

よく見ると、目の前には顔を真っ赤に染めて恥ずかしさで目を反らしつつも、チラチラこちらを窺うの姿が。

そして、そのはいつの間にか先程までの“毒舌”ではなく、素の狀態の“波志江なごみ”になっていた。――あれ……?ビックリしたせいか、言葉が全く出てこない……。

「も、もしかして、嫌だった……?」

「い、いや、別に!?」

「そっか……ならよかった!」

お互いに張と恥ずかしさでぎこちない雰囲気が流れそうになり、それを誤魔化すように先に立ちあがったのはなごみの方だった。そして、

「こ、これが今回のお禮よ! い、一応ファーストキスだったんだから謝することね!」

「ぶはっ!」

こちらを振り返り、頑張って“毒舌モード”に戻ろうとするも、それは口調だけ。顔を真っ赤に染めて完全に素丸出しのなごみのまま。その姿に、俺は思わず吹き出してしまった。

「ちょ、ちょっと! 奏太君!?」

「あはははっ! 悪い悪い! あまりにもいつものキレがなかったもんだから」

「……もう、知らない!!」

尚笑い続ける俺に、ム―っと頬を膨らませ、ジト目を向ける俺の可い彼。そんな昔と同じような景に、お互い自然と張は解けていった。

「もう……まぁいいや――奏太君、これからもよろしくね」

「おう!」

雨降って地固まる――今の狀況にこの言葉が當てはまるのかはわからないが、一度危機的狀況を経たおかげで俺達は遅ればせながら、いわゆる“人としての第一歩”を踏み出せた。

そして、めちゃくちゃ苦労はしたが、俺は生まれて初めて中間テストという行事に謝した。

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