《ACT(アクト)~俺の婚約者はSな毒舌キャラを演じてる…~》どうやら俺が踏んだ”巨”という名の地雷は、思った以上の破壊力だったらしい……
超巨の持ち主駒形先輩との出會いにより、なごみの機嫌を損ねてしまった翌日。
「奏太君、暑いわ。仰いでくれる?」
「はい」
なごみからの宣告通り、俺は彼の従順な下僕としての生活をスタートさせていた。
「奏太君、が渇いたわ。自販機でジュースを買ってきてくれる?」
「りょ、了解…」
多分この場面を傍から見ている奴らにとっては、俺達の関係は彼氏彼などではなく、王様と下僕のように見えていることだろう。
しかし、日頃のなごみと俺のやり取りを知っているからだろうか。
朝、奇異の目を向けられ後ろ指を指されていたのも既に過去のこと。放課後となった今では『いつものこと』と言わんばかりに誰も気にしていない。
「あの、なごみさん? 今日1日、大分盡くさせていただいたと思うんですけど……そろそろお許しとかは……」
とりあえずは試しということで、お許しを貰えないかと聞いてはみたものの、
「あら、最初に1週間って言ったはずだけど? 殘念ながら私は奏太君と違って自分の言葉に責任を持つタイプなの。分かる?」
「で、ですよね~」
彼の口から返ってきたのは皮だけ。まだまだお許しは出なさそうだ……。
「平~なんとか――」
そんな狀況に思わず前の席に座るモテ男の力を頼ろうとしたところで、間一髪俺は踏みとどまった。なぜなら……
「まずは映畫でしょ~、それからランチはおしゃれなカフェで食べて~、それからそれから~」
「あの、穂さん? その、さすがにそれ以上は経済的な事故勘弁いただきたいといいますか……」
「あ、ちなみに、これ全部平君の奢りだからね」
「何卒ご慈悲を~!!」
彼は彼で、昨日の禊の真っ最中なのだから……。
本來昨日のビンタで平の禊は終了したはずだったのだが、どうやらなごみに発されたようで、追加ペナルティが発生したらしい。……平、なんかすまんな。
「まぁ、金銭的な負擔が無いだけ俺の方がまだマシか……」
自分が不幸な目に遭ってしまった時、自分より不幸な人間を見つけると安心を得られると聞くが…どうやらその噂は本當だったらしい。と、そんなことを考えていると、
ガラガラガラ
「お~悪いな、お前ら。遅くなっちまった」
帰りのホームルーム開始の時刻から既に10分以上経過し、ようやく擔任教師がやってきた。
先生、あなたの遅刻のせいで約2名の生徒が神的にダメージを負ったこと、肝に銘じておいてください。――そんな俺からの忠告が通じたのか、
「大分遅くなっちまったし、大した連絡事項もないから、今日はホームルーム無しでいいぞ。じゃあ、お前ら気をつけて帰れよ」
先生はそれだけ言い殘して再び教室から出て行ってしまったことにより。自的にホームルームは終了。あっという間に放課後が訪れた。
「なぁ、この後カラオケ行かね?」
「アホか。俺は部活だっつーの」
「南校の子も一緒だぞ?」
「それを先に言えよ! ほら、さっさと行くぞ!!」
普通ならいきなり『今日はホームルーム無し!』とか言われれば戸うのだろうが、このクラスにとってはこの程度日常茶飯事。『え? 本當に帰っていいの?』とあたふたしている生徒など一人もおらず、先生が去って數秒後には、既に普段の放課後と同じような景が広がっていた。
そんな中、俺はふとあることに気がついた。――もしかして、放課後二人きりになったら下僕扱いも終わるんじゃね?
下校中、二人きりの時は“素のなごみ”に戻る。學校では“毒舌ドSモード”の彼だが、素は素直で優しく、多分謝ってゴリ押しすればなんだかんだで許してくれるはず……。よし! そうと決まれば善は急げだ!!
「なごみ! 早く帰ろうぜ!!」
シュミレーションを終え、勝算を確認した俺は素早く帰り支度を整えると、元気よく立ち上がり、なごみの方へと振り返った。
「? 別に構わないけど……どうしたの、急に?」
「いいからいいから! ――それじゃあ平。またな!」
「おう。また明日な」
半ば強引に彼の手を引き、一週間下僕生活という地獄に一筋したを求め、二人で教室を後にした。しかし……
※※※※
「奏太君、私、乾いちゃった。ちょっとそこのコンビニでジュースでも買ってきて」
「……あの、なごみさん?」
「何? 聞こえなかったの? 私は『コンビニでジュースを買ってきて』って言ったんだよ!?」
「……」
二人で學校を出てしばらく歩き…俺達以外誰もいないところまでやってきた俺達。本來ならここらで彼の優しさに訴えかけようとする予定だったのだが……。
確かに、二人っきりになったことにより、なごみは“毒舌モード”から素の狀態へと変わってくれた。しかし……ただそれだけ。
「どうしたの? 早く行ってきてくれないかな?」
口調は見た目通りのいものになったものの、俺に対する風當たりは厳しいまま。扱い自は學校に居る時と何ら変わりはなかった…。
「あの、なごみさん……? もう周りには學校関係者は一人もいませんよ……? 何かいつものとキャラ違くない……?」
不機嫌極まりない表でし前を歩く彼に、恐る恐る訊ねてみるが、
「何言ってるの? 怒ってるんだからいつもと違うのなんて當然でしょ?」
彼は一瞬こちらをジト目で睨みつけると、すぐにプイッと前を向き直って早足で歩いて行く。……うん、これ本気で機嫌損ねちゃった奴だわ。
俺の“なごみの素の優しさにつけ込んで、下僕生活をしよう大作戦”は無慘に散ることとなった。
あと1週間この生活とか……勘弁してくれよ……。俺はガックリ項垂れながら、殘りの気まずい帰り道を歩いて行った。
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