「それじゃあ今日も各自勉學に勵んでくれ。昨日同様何をしていても構わんが、他人に迷はかけないように――って、ここにいる奴らはそんなこと言われなくてもわかってるよな」

勉強合宿2日目。

昨日同様、監督役の教師から軽い挨拶があるだけで自習の時間が始まった。

というより、周りの連中、その軽い挨拶すら聞かずに勝手に黙々と勉強始めちゃってるんですけど……。さすが自らの意志で勉強合宿に參加している奴ら。勉強意が凄まじいな。

そんな中、

「あ～マジでシンドい……」

眠い。がだるい。神的に疲れた……。俺はため息をぼしながら機の上に突っ伏した。

え？　何で朝からこんなに疲れてるのかって？　そんなの決まってるだろ？

當然原因は昨夜の出來事一択。嵐のようにやってきて、嵐のように立ち去って行った迷極まりないお嬢様――下之城優奈のせいに他ならない。

突然の逆プロポーズに、金の力で俺の親を籠絡させての結婚畫策……。

まさか初対面の奴に、しかも彼同伴という狀況でここまでやられるとは思わなかった。

「あの、腹黒お嬢め！！　あの後俺がどんだけ苦労したことか……！！」

まず、揺しまくりのなごみを必死になって落ち著かせ、さらに下之城の策略に対抗するためすぐに我が両親に電話。

息子が切羽詰った聲で電話してきてるっつーのに、呑気に『學校でお泊りなんてなんだか楽しそうね。お母さんも行ってみようかしら』などとほざくお気楽な母親と、『奏太、お前はまだわからんかもしれんがお金は大事なんだぞ？　――ちなみに父さんは新しい車がしいです』などと実の息子にたかるダメ親父になんとか事を説明・説得し終えた頃には時刻は既に午前1時を回っていて……

「っていうかこの合宿、朝5時起床とか頭おかしいだろ！　おかげで俺の睡眠時間3時間くらいしかなかったんですけど！？」

さらには、イマイチこの合宿のスケジュールを見ていなかった俺は、朝5時過ぎに同部屋の名も知らぬ男子に連れてこられたのであろう教師に叩き起こされ説教。

おまけに朝授業が始まる前に偶然すれ違ったなごみは、普段のように挨拶代わりに毒舌を見舞うことなく、元気なさげな表で、気まずそうに目を反らしてそのままスル―。現場を見ていた生徒達は目を丸くしてザワついていた。

ただでさえ寢不足だというのに朝から教師に怒鳴り散らされ、さらに、なごみは未だ昨日のことを気にしまくっているご様子……。俺の心とは既にどちらもボロボロだ……。

そもそも何で俺があのお嬢様にプロポーズされねばならんのだ！

アイツのことは知ってはいたが、フラグを立てたどころか、會話すらしたことない。

俺が超絶イケメンだとか、実は何かの分野の天才とか、日ごろから目立つ存在とか、実はめられた異能を持っているとか……、ドラマや漫畫、アニメの主人公のような奴なら分からなくもないが、殘念ながらこちとら只のモブキャラ。俺にそんな要素は一つもない。

っていうか、普通こういうイベントは誰もが認めるモテ男の鈍系ラノベ主人公との呼び聲高い平さんの擔當だろ！？

「俺とか完全にミスキャスティングでしょうよ！！」

「そこ！　さっきからうるさいぞ！！他の者に迷をかけるなら補習組に送り込むぞ！！」

「す、すみません……、それだけは……」

監督役の教師からの叱責だけでなく、周りの生徒達からの『何、アイツ？』という迷そうな視線を向けられた結果、この教室は一瞬にして俺にとってのアウェイとなった。

寢不足で変なテンションになっていた俺は、『つい的になり過ぎて聲が大きくなっちゃった！　てへっ！！』――と、心の中で可らしく舌を出してみようと思ったのだが……、その後の周りからの反応を想像して思いとどまった。

「くそっ、またしてもあの腹黒お嬢様のせいで……！！　いつか絶対泣かせてやるからな！！」

こうなれば一刻も早く事態の解決にくしかあるまい！

放っとくとあの悪お嬢様がなごみに対してちょっかい出すかもしれんし、裏で何か他にも企てたりするかもしれんしな。次の休み時間でどんな條件を出されようがキッパリ斷って終わりにしてやろう。

そのためにも……

「寢るか」

來る決戦の時に備え、まずは調を萬全にしておかないと！

俺は睡眠不足を解決するため、再び自分の席に突っ伏し、人目を気にせず堂々と睡眠制にり目を閉じた。

そして、どれくらい眠っていただろうか。

キーンコーンカーンコーン

「！！」

授業の終わりを告げるチャイムを聞いた瞬間、俺はバッと勢いよく顔を上げ、

「よし、それじゃあ一旦休憩に――って、おい！　まだ終わってないぞ！」

「すみません！　トイレです！！　何かいろいろとれそうなんで！！」

「い、いろいろと！？」

俺は問題を早急に本から解消するべく、先生の制止をふりきり教室を飛び出した。

別に走る必要はないのだが、何となくなごみ達がいるであろう補習組の教室に向かって駆ける俺。

しかし、この時は思いもよらなかった…。

自分が盛大な勘違いをしているということ……、そして、これから向かう先で衝撃的な景を目の當たりするということを……。