イルディーナが魔法を唱えた直後、圧倒的な質量を持つ黒い球が出現した。

世界が反転する。

そう表現するしかないほど、は危機をじていた。

そしてはこの現象に見覚えがあった。それもかなり前に見た景だ。

（あいつがミルティーナ・ベルファの娘って聞いた時點で嫌な予はしていたんだ………）

はイルディーナの母であるミルティーナとは面識があった。だがそれは知り合いは知り合いでも友人としてではなく…………

「まさかあの時にくらった魔法にもう一度出くわすなんて考えないだろ普通は！？」

敵同士だった。

二年前のある戦爭で、はとある騎士と戦いを挑んだ。

その時にけた魔法が、まさしくイルディーナが発した魔法と合致しているのだ。

（あの魔法は上級魔法ディオガクラス。破滅魔法と大差ないだろうがっ）

もしあの魔法がこのまま発場合、おそらくだがこの學園はかけら一つ殘さずに消え去ることだろう。

「アレを使うのは躊躇いがあるが………仕方がねぇ。し派手にやるか」

そう言っては刀を構え直す。

その姿を課実況席から見ていたティナが目を見開き何かをぶ。

だがそんなことはお構いなしに、は放つ。

「三觜島一刀流修羅ノ型ーー【波久禮】」

一突き。

ただ刀を前に突き出す、簡単な作。

しかし、その突きに込めた全重が累乗し、速度は軽く音速を超える。

たった一突きではあるが、すべての運エネルギーを一転に集中させた一撃は全てを破壊し、貫通する。それが音速を超えるほどの速度であるならば尚更だ。

貫通するのは質だけではない。魔法も通用する。もちろん上級魔法ディオガクラスの魔法ともなれば、魔法を破壊するのは容易ではない。

だがは、普通の人間ではない。

『殺鬼』の切っ先が黒い球にれた瞬間ーー消え失せた。

その場を靜寂が襲う。

観客席はおろか、あのティナですら開いた口がふさがらにようだ。

やがて言葉を発したのは、やはりイルディーナだ。

「なんで…………いったいどうやって…………？」

掠れた聲でイルディーナは問う。

「今のは、あんたの魔法に俺の魔法をぶつけて相殺したのさ」

「魔法相殺…………」

魔法が主力であるこの世界おいて、魔法相殺という技は別段珍しいことではない。それこそ授業でも習うほど、基本的な技である。

だがそれはあくまで低級魔法レイクラス

上級魔法ディオガクラスはおろか中級魔法ギガノクラスですら魔力相殺することは難しいというのに、彼はそれをし遂げたというのだ。

到底信じられるものではない。

だが信じなければ今の景が説明できない。

「俺はただの學生さ………」

はそう言いながら、倒れた。

「おおぉぉっと！！　三觜島選手、上級魔法ディオガクラスを相殺したかと思いきや、魔力切れで倒れたああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ！！」

「…………上級魔法ディオガクラスを相殺したからね。かなりの魔力を消費したと思うよ」

そう言うティナの顔は険しい。だが天塚はそんなことには気づかず実況を続ける。

「しかし三觜島選手。エリクサーは所持していないのでしょうか？」

魔導士にとって、魔力が底を盡きるというのは、死に直接繋がるものである。

だから學園などでは魔力が盡きることのないよう、エリクサー（魔力を補充する）を常に攜帯するよう促している。ちなみに定価は２５６円である。安い。

「魔力が底をついちまったようだ…………悔しいが今回はあんたの勝ちだ」

「おおぉぉぉと！？　三觜島選手、魔力が盡きたことにより、試合続行は不可能と申し出たあぁぁあ！！　ここで試合終了！　勝者はベルクリオ學園生徒會長であるイルディーナ・ベルファ選手だぁぁあ！！」

オオオオオオオォォォォォ！！　という観客たちの歓聲に包まれ周りに笑顔を振り撒くイルディーナ。そして視線を目の前に戻すと、いつの間にかの姿が消えていた。

「あれ！？　三觜島選手の姿が見當たらない！　これはどういった……って學園長も！？　いったいどこに行った～！？」

実況席から天塚の聲が響き渡った