シャードの背に乗った一行は、約一時間程度で迷宮《草薙》のある森に到著した。

馬車を使っても約三時間はかかるのだが、シャードに乗ってきて正解だったな、とは心の中でつぶやいた。

「ここが《草薙》のある森……か」

がしみじみとつぶやいた。

「ええ。この森には魔だけでなく、普通のも生息しているのですよ」

イルディーナの言葉には驚いた。

「普通のだと？　ここは魔の領域だろう。なのに普通の生が生息しているのか？」

のその言葉に、鈴音が答える。

「先ほどの説明ではわかりにくいですわよ會長。兄様、この森は規模が規模だけに全が魔粒子でおおわれているわけではありません。森の中心から外れているこの辺一帯は普通の森と何ら遜ありません」

その言葉を聞いて、は再び驚愕することになった。

魔粒子が覆いきれないほどの規模を誇る領域。さすが國最大級の迷宮が存在するだけはあるというものだ。は久しぶりにが滾るのを抑えきれなかった。

「さて、こんなところで立ち話もなんだし、さっさとるか」

そう言って一行は森の中にっていった。

～？？？～

たちが森にってくのを、黒いローブにを包んだ男が監視していた。

「対象が森に侵するのを確認。次の指示を」

「うーん、あんまり手を出すと反撃されそうだしねぇ～」

男の通信機から聲がする。

「ですが、イルディーナ・ベルファ・・・・・・・・・・・を回収するのであれば、誰の目も屆かないこの場のほうが有利なのでは？」

「いや～。・・・彼についている二人の護衛ってさ、男のほうは知らないけど、のほうはまず間違いなく、メルガリアの人間でしょ～？　今相手するのは結構厳しいかもね～」

「私でも危ういと？」

「彼の名前、知ってる？」

通信機の向こうから男に問いがくる。

「……いえ、しりませんが…………」

「彼の名前は三觜島鈴音。あの忌子の家系で有名な三だよ。能力は何か知らないけど、彼が所屬している部隊はメルガリアでも最強の後方支援部隊である【クシナダ】だ。下手に手を出してこっちに飛び火するのは避けたいんだよね～。なくとも例の件を実行に移すまでは手を出さずに監視を続けて。あと、男の実力も確認しておいて、大した戦力にならなさそうであれば殺してくれもいいよ」

「了解した」

そういって男はたちの後を追った。

だが彼らは知らない。自分たちが追っている人間の実力を………………。

～一行～

たちは普通の森と魔の森との境目に來ていた。

「この場所を拠點とするか」

がそう言うと、鈴音は慣れた手つきでキャンプセットを取り出し、組み立ていく。

イルディーナはシャードのづくろいをしている。

はそこからはなれ、今日の夕飯の食材と燃料となる薪を探していた。

燃料となる薪はそこらへんに生えている木を伐採し、食材はそこらじゅうに自生している山菜や茸を採っていた。だが…………

「せめてとなるものがしいんだが…………」

そう、全くと言っていいほどの気配がしないのだ。

仕方なくは魔の森に侵した。

森の領域に侵した瞬間、のに突き刺さる大量の殺気。

常人なら失してしまうようなものだが、は平然とし、逆に獰猛な笑みを浮かべた。

「久しぶりに楽しめそうだな。--いいぜ、來いよ。まとめて相手してやる」

の言葉が通じたかどうかは定かではないが、を囲む幾多の魔たちがに襲い掛かった----。

一方、イルディーナは鈴音やシャードと一緒に火を起こし、の帰りを待っていた。

「兄様遅いですね～」

鈴音は愚癡っていた。

「まあまあ、三觜島君も食料を探しに行ってくるといっていたので、何か見つけたのかもしれませんよ？」

だが、イルディーナもなんだかんだ言って心配はしていた。自分を負かした相手とはいえ、その実力はこのアヴァロンの中でも最強と謳われる剣士、ティナ・フィルファーベルをも凌駕するものだ。

そんな相手にいちいち嫉妬していては、いくら経っても長できない。

だからこそ、そんな実力をもつ彼のことが気になるのだろう。

そう、自分は決して彼に変な気は持っていない。

……………………だから、その気持ちがに対する心だということに気づかない。

そんなイルディーナのことを、鈴音はジッと見つめる。

「あ、あの……なにか？」

「いえ～べ～つに～。ただ、會長は自分自の気持ちにもっと素直に向き合ったほうがよいと思いますよ」

鈴音の言葉にイルディーナは首をかしげている。

鈴音は「まあ、別にいいですが」と言い、森のほうを見やる。

兄である三觜島は、その驚異的な知能の高さと圧倒的な実力のせいで、実家から差別的な扱いをけていた。

その酷さと言えば、実の妹である鈴音からしても相當なものだった。

人間らしい扱いをけてこなかった。

そのせいだろうか。兄が、以前にもまして他人との距離を広げ、決して埋めることのできない、深いを作ったのは。

はどれほどの苦痛をけても、何事もなかったかのように平然と過ごす。

そんな異常な景が、私たちの覚を狂わせ、何時しかそれが普通になった。

鈴音も、に対する暴行に何の疑問も持たなかった。

いや、疑問を持たなかったのではなく、持てなかったのほうが正しいのかもしれない。

なぜなら、鈴音は當時、兄であるが実の親や親せきから待をけていたことを知らなかったのだから。

それに加え、は一切を表に出さない。故に、彼が今どんな気持ちでいるのかがわからない。

鈴音がこのことを知ったのは、が家出し、メルガリアに隊してからだった。

鈴音はこれに激怒し、家出。

を追って、が隊して一年後にメルガリアの支援部隊に配屬された。

今でこそと共に生きていられることに満足しているが、もしこんな生活がなかったら自分はどうなっていたのか、今考えると恐ろしい。

…………………今の幸せがあるのなら、ほかのものは何もいらない。

鈴音が決意新たに生きこんでいると、視界の端に、人影が寫った。

すぐさま警戒態勢にるが、人影の正に警戒を解く。

なぜならそれは、

「お待ちしておりました、兄様」

「ただいま、鈴音」

鈴音の最の人、三觜島その人だからだ。