その日は、とても澄み切った青い空が広がっていた。

はその日は訓練するのをやめ、屋敷からし離れた河原に腰かけていた。

風が気持ちいい。は寢転がり、やがて眠り始めた。

が眠って１時間ほど。

眠っているに近づく影があった。

その影はのそばに立つと、手に持った短剣をゆっくりと振りかぶり、の頭に振り下ろした。

瞬間―――――

「いくら標的ターゲットが気を抜いているからといって、そんなに気配をらしていれば殺れるものも殺れない」

は影の後ろに立ち首に小刀を據える。

がわざわざ河原に來た理由。

それは影に近づくためであった。

本來、は睡眠を必要としない。

に必要なのはエネルギーの摂取、つまり食事のみである。

睡眠など、化けになってからはしていない。

「…………まさかあなたのような子供に、後ろをとられるなど、思ってもみませんでした」

そいつは影を消していき自分の姿を現した。

そいつは誰もが目を引くであろう、しいメイドであった。

銀髪の髪に青の目。

そのしい姿に、は惹かれることもなく、余計小刀を首に押し付ける。

「あんまり時間をかけたくはない。依頼者クライアントは誰だ」

の問いに、は微笑む。

「そう殺気立たないでくださいまし。もうそろそろ依頼者クライアントも到著する頃でしょう」

そう言った直後、大きな影が橫切った。

見上げると、黒塗りにされたヘリが屋敷の上に止まっていた。

「ECC665ティーガーだと？なぜここに……」

「よくご存じですね。あれはユーロコプター社から買いとった戦闘ヘリですわ」

「そんなことは知っている。俺が聞いているのはなぜあれが今ここにあるかということだ」

の脅しにも似た言葉にも微笑みを崩さず

「ならば確認してみてはいかがでしょう？　あなたも近衛として心配でしょう？」

はしばらく考えたが、ここでメイドを殺すよりも先に朱雀院家の安全の確保が優先だと判斷し、首に押し當てていた小刀を下ろす。

ただし、は拘束したままだが。

「拘束は解いていただけませんか？」

「あんたらがまた何をするかわからんからな。人質として扱わせてもらう」

「殘念ですが私は大勢いる中の一人であるメイド。私を人質にしたところで意味などありません」

メイドのその言葉に、は凍えるような目を向ける。

「確かにメイドなら人質にならないかもしれない。だがあんたは違う。あんたが俺のところに來たのはほかのメイドでは処理しきれない人間だってわかっていたからだろう？　俺を殺すか捕獲するかして朱雀院家を脅すつもりだった。違うか？」

がペラペラと推理していくのを黙って聞いているメイド。

がじっと見つめていると、やがてメイドはため息をらし、白狀した。

「はぁ、あなたにはかないませんわ。その通り、私は所謂メイド長をしております」

「メイド長ね……つまりアンタが人質になるというのは本當だったみたいだな」

はそう言って拘束したをさらにきつく締め直し、メイド長と共に屋敷に戻った。

◇　◇　◇

「これはこれは。噂聞く死狩者デスリーパー様ではございませんか」

朱雀院當主である朱雀院一真は、突然の來訪者に驚きながらも、笑顔で歓迎した。

死狩者デスリーパー。

メルガリアの最高司令であり、最強の異能力者である。

その力は誰にも知られていないため、どういった力を持っているのかがわからない。

だからこそ、敵対してはいけないと一真は判斷した。

それにしても、なぜこのような大がこの家に現れたのだろうか。

しばかり考えてみるが理由が見當たらない。

何故だ？

「そう気構える必要はない。今日よらせてもらったのは頼みがあるからだ」

「あなたのようなお方が一端の私に頼みとは……いったい何でしょうか？」

「なに、大したものではない。ただ、貴公が預かっているという子供。名前は確か……」

「三觜島、でしょうか？」

「そう、確かそんな名前だったな」

一真は心の中で愚癡る。なぜあの子がこの化けに知られたのだと。

確かに異能力者という意味においては、彼は無類の力を誇るだろう。

まだ力の一端しか見せてもらったことはないが、それでも強力な力であろうことは理解できた。

だがそれでも、死狩者の目に留まるほどのことはしていないはずだ。

いったい、彼の何がこの人を引き寄せたのだ？

ガチャリ…………

「三觜島、ただいま戻りました」

玄関から聞こえてきた聲に、一真は心舌打ちする。

それも仕方がないだろう。得のしれない最強の化けがしている人が、自分からノコノコとやってきたのだから。

そして、扉を開けってきたをみて驚いた。

は見たこともないメイドのを拘束し、首筋に小刀を據えながらこちらに歩み寄ってきた。

いったい何がどうなっているのだ？

はメイドを拘束したまま、死狩者に目を向ける。

「アンタが俺を襲うように指示したのか？」

はそう切り出した。一真は首を傾げる。襲われただと？　なぜだ？

「そうだ。私が指示した」

「何のためにこんなことをする必要がある？」

の質問に、死狩者は不敵な笑みを浮かべた。

「簡単な話だ。勧だよ」

「勧…………？」

は訝し気な視線を送る。

「そう、勧だ。史上最強最悪の異能力者である、三觜島君のね」