「そう、勧だ。史上最強最悪の異能力者である、三觜島君のね」

死狩者ネクロマンサーの言葉に、は怪訝な表を浮かべる。

は異能のことを周りの人間には一度も口にしたことはない。

使用したことは何度かあるものの、それでもばれるようなミスは犯していない。

いったいなぜ……？

そうの表に表れていたのだろうか、

「そう警戒しないでもらいたいな。私は別に危害を加えに來たわけではない」

「ほう？　ならなぜこんな真似をしてまで私を呼び出したのか教えてもらいたいな」

ここで思い出してほしいのだが、はまだ１１歳。

子供もいいところである。

そんな年端もない子供が、世界で最も兇悪であるとされる死狩者に対してため口である。

一真は冷や汗が止まらない。

「へぇ、その強気な態度。彼我の実力差がわからないわけではないはずだろうし、そうするとこの狀況をどうにかする方法を思いついていると思ったほうがいいかな」

死狩者の口調が段々といものから砕けたものに変わっていく。

「さて、私たちがなぜこのような真似をしたのかだったね、簡単な話、君の実力を知っておきたかった」

「それだけの為に、このようなことを？」

「もちろん、君を捕らえてこの家との渉材料につかえればよかったのだけどね。その様子じゃあ、異能すら使わずに無力化されちゃったようだ」

死狩者の言葉にメイド長は目を伏せ、ただ一言「申し訳ありません。我が主」と言った。

「別に責めているわけじゃない。これほどの人を君一人で抑え込めといった僕の方が悪い。すまなかったね」

そう謝る死狩者に、メイドはただ深く禮をした。

「さて、長ったらしい話もここまでにして、返事を頂けるかな？　ああ、黙することは許さない」

死狩者がしだけ殺気をらしながらそう言ってくる。

「そのような脅しを仕掛けるの奴に、ついてく人間がいるとでも本気で思っているのか？」

は遠まわしにＮＯと言った。

…………あくまで本人は遠まわしで言っているつもりなのだが、傍から聞けばかなりダイレクトに答えている。

「やはりね。では仕方がない。もう一人の候補者を連れていくとしよう」

「もう一人の候補者だと？」

の心が妙にざわついた。

「ああ。阿賀崎家のご令嬢、阿賀崎黑葉だよ。彼は異能を持っているかどうかはわかっていないんだけど、あの霊能力はすごいものでね。彼はしいと思って――――」

そう死狩者が続けようとした瞬間、顔のすぐ隣をる何かがものすごいスピードで通り過ぎた。

死狩者は今何が起こったのかわからず、ゆっくりと後ろを振り返った。

そこには、先ほどまであったはずの家の壁が、消し飛んでいた・・・・・・・。

「こ、これほどまでとは…………」

死狩者だけでなく、メイド長や一真でさえびっくりしている。

「流石、私の婚約者」

そんな聲がの後ろから聞こえた。

「流石も何も、別に大したことはしていない」

「ううん、あの死狩者を圧倒してる。すごいこと」

無表で稱賛されても嬉しくないのだが、黑葉の顔をよく見てみるとわずかに口角があがっている。

ちゃんと褒めているのだろう。

まあ、は相変わらずの無表で恥ずかしがりもしないのだが。

「ところで、黑葉は死狩者のことを知っているのか？」

「うん。でも知ってるといってもほんのしだけ」

「例えば？」

「たらしとか？」

ブフォッッ！！

その場にいたと黑葉を除くほぼ全員が咳き込んだ。

「そのたらしという汚名で呼ぶのはやめてくれ」

「でも事実」

黑葉に即答され、押し黙る死狩者。隨分とけない。

「……その証拠はどこにもないだろう」

「私の霊能力をあまり嘗めない方がいい」

たとえ死狩者のような結社のトップであるといっても、超常の力を扱える黑葉にとって報を集めるというのは造作もないことである。

まぁ、本當の意味で隠されている報は見ることができないのだが。

「まあ、そんなことはどうでもいいんだ。いや別によくはないが、それはまずおいておくとしよう」

コホンと、死狩者は一息ついて、勧を始めた。

「君の力はかなり買っている。もしこちらに來てくれるならば、それ相応の待遇は約束しよう」

死狩者がそういった瞬間、黑葉から異様な空気が流れ始めた。

「ふざけるのもいい加減にして。私はの婚約者。私はから離れるつもりはない」

珍しく長臺詞を吐く黑葉に一真も驚いている。容に関しては予想通りの反応だったのだろう。

いくら金を積まれようと、も黑葉も互いに裏切るような行為は絶対にしない。

そんな意思を見て取ったのだろう、死狩者は嘆息し、妥協案を提案した。

「二人の意志は分かった。ではアルバイトという名目で雇うのはどうだろうか」

「アルバイトだと？」

は訝しげな聲を上げる。

「ああ、報酬はなくなってしまうがね」

と黑葉は顔を見合わせて唸る。

なぜそこまでしてや黑葉をしがるのか。二人の疑問はそこにあった。

「何故僕が君たちをしがっているのかわからない、って顔だね。じゃあ目的を明確にしようか」

そこで言葉を區切り、たちをみやる。

「僕たちが君たちのような異能力者を集めるのは、この先の未來に起こる悲劇を止めるためなんだ」

「悲劇だと？」

「一どんな悲劇？」

と黑葉が続けて質問する。だが、死狩者はその質問には答えずに締めくくった。

「僕と一緒に來るか、ここに殘るか、どうする？」