《蛆神様》第73話《隠神様》-08-
アタシの名前は椎名ユヅキ。
人でスタイルのいい都會からの転校生が、ひょっとしてワケありの人ではないかと疑うようになった高校一年生だ。
そもそもの話。
どうして。
ハツナはこんな田舎に越してきたのか。
しかも一人で。
先生の説明では、両親が海外赴任の都合だからといっていた。
最初、アタシは何の疑問も持たず「へぇ、そんなことあるんや」と、なんも疑問じずに聞き流していた。あの時までは。
アタシは思う。
ちがう。
今だからこそなおさら。
絶対。
そんな都合のいい理由なんかではない。
そう思う。
子トイレの騒の一件以來。
アタシはハツナについて考えた。
ハツナの切れた手の傷。
傷口から噴き出た大量の生きたち。
蛆。
朝、たまに近所でスズメやネズミの死骸とかに湧いて出てくるハエの蟲のことだ。
グロめのサスペンス映畫とかで、死の腐敗度合いを演出するために蛆が涌いているシーンとかあったりするのを見かけたことがあるけど。
生きている人間の中から蛆が出てくるなんて。
ふつう。
あるのか?
「小島、ここ読んでくれ」
「はい」
ハツナが席から立ち上がり、古文の教科書を音読している。
隣の席に座るチヒロが、一切顔を上げずに、教科書に落書きをしている様子だった。
小島ハツナ。
手から蛆が湧く謎の転校生。
どうして手から蛆が湧くのか。
なにかの病気?
それとも質?
都會なら、スマホですぐに検索かけて病気なり質なり調べることできるやろうけど、殘念なことにうちの高校はアンテナ一本も立たない山奧の圏外。
しかもスマホなんて高級な道持っているのは、チヒロみたいにお金持ちの家ぐらいしかない。
ネットを使うには、アタシの場合、家に帰ってデスクトップのパソコンを使うしか手段はなかったりする。
気になる。
気になって授業に集中できない。
直接、本人に事を訊きたいけど。
それは無理だ。
人のプライバシーにずけずけるようなこんな質問、たとえ友達だったとしても訊けない。
もし。
ハツナが治療不可能な不治の病にかかっていて。
余命を靜かに過ごすために転校してきたとかいう理由だったら。
どうしようか。
アタシがハツナなら、隠しておきたい。
同されるのも嫌だし、そういう「ああ、こいついつか死ぬ病人だ」ってクラスメイトから思われるのも神的に辛い。
本人が話したいと思わない限り。
知らない方がいい。と、アタシだったらそう考える。
だけど。
気になってしょうがない。
あれがなんだったのかわかるまで、気になって頭から離れない。
気になることはもうひとつ。
ハツナが刑部の家に居候していることだ。
刑部の家は、隠神村の中でも不思議な家系の家だとおばあちゃんから教えてもらったことがある。
お葬式からの四十九日、あるいは、毎年のお盆の時期など。
刑部家の人がお坊さんと一緒に村の各家へ訪ねる謎の習慣があることをアタシは知っている。
うちにも何度か刑部の人が來たことがあるが、たいていその時は、おばあちゃんが刑部の人たちと一対一で會話して終わることが多かったりする。
なんの話をしているのかはおばあちゃんから教えてもらったことは一度もない。
謎の刑部の一族。
その謎の一族にハツナは居候している。
どうしてなのか。
アタシにはさっぱり見當もつかない。
「椎名」
後ろの席から、ひそひそ聲で呼ばれた。
振り返ろうとすると、機の上にぽんと丸めた紙が投げ込まれたことに気づいた。
なんやろ。
広げて書かれている文字を読んだ。
————
小島ハツナのことで真剣に相談したいことがある。放課後の四時に下駄箱で付き合ってくれる?
チヒロ
————
アタシは目をむき、周りに気づかれない程度のきでチヒロに視線を向けた。
チヒロがアタシの視線に気づくと、こっち見るなと目で合図をしてきた。
あのチヒロがアタシをってくるなんて。
嬉しい反面。
ハツナのことを思うと、怖い気持ちが同時に沸き起こった。
「あいつ、人間ちゃうと思うねん」
放課後。
夕焼けの日差しがってくる下駄箱で、チヒロはも蓋もないことをアタシと取り巻きたちに言い放った。
「手の中から蛆出るとか、どう考えたってバケモンやん」
「ち、チヒロちゃん。バケモノなんてそんな」
ひょっとしたら、そういう病気なのかもしれない。
いきなり化け扱いをするのはどうだろうか。
そうアタシがユヅキを宥めるようにいうと、ユヅキがアタシを睨んできた。
「あんたは個室におったから知らんやろうけど、あいつ頭おかしいで? 絶対普通ちゃうわ!」
ヒステリックにユヅキは怒鳴る。
目や雰囲気から、ユヅキがひどく怯えている様子が伝わった。
「追い出さなあかん。あんな化けおったら、絶対あかん」
「追い出すってどうやって?」
「《隠神様》や」
え。
一瞬、チヒロが何をいってるのか、理解できなかった。
隠神様って。
うちの村の伝説になっている。
あの隠神様?
「アホ。ちゃうわ。迷信の方ちゃう。イヌガミサマソウのことや」
「イヌガミサマソウ?」
チヒロが「せや」といって頷いた。
「正式名稱は知らんけど、うちのおじいさまが教えてくれた『毒草』のことや。飲めばが痺れてがぶるぶる麻痺するそうや」
「え、まさか、それを小島さんに?」
「勘違いせんといて。別に殺したいわけちゃう。ただ、うちの村やと治すことは絶対できへんから、飲んでもらってしばらく都會の病院に院してもらおう思ってるだけや」
チヒロは悪びれもなくしれっと恐ろしいことを吐いた。
一歩間違えれば死んでしまうような毒草をハツナに食べさせようとするなんて。
正気の沙汰じゃない。
「ユヅキ。これは小島さんのためでもあるんや」
「え?」
「事はわからへんけど、小島さんかって、別に好きでこんな田舎に引っ越ししたくてしたんとちゃうと思うねん。大人の都合で勝手に來させられたと思うねん」
取り巻きたちが、「せやな」「そやそや」と、チヒロの力説に相槌を打った。
「小島さんが合法的に都會に戻るには、ここの水が合わんってことを証明せなあかんと思うねん。それが【隠神様】やとウチは思う」
「け、けど」
「ユヅキにもお願いしたい! 小島さんが頭からおかしいのも、多分、この土地の水と空気が合わんからやと思う。小島さんを助けるためと思って、協力してくれへん?」
「でも」
アタシが返事しかねていると。
ぞくっと、背筋が凍った。
下駄箱から離れた廊下の柱。
隠れてこちらを見ている人がいる。
あれは。
ハツナだ。
ハツナが目を開いて、アタシらじっと観察している。
「ええか。絶対にやからな」
今の會話のやりとり。
ハツナはきっと聞いたはずだ。
仲がそれほどよくないとはいえ。
クラスメイトから毒を盛られるという報を聞いて、何もしないわけがない。
きっと。
トイレでチヒロを恫喝していたみたいに。
共犯者のアタシも含めて、彼はお禮參りをするに決まっている。
想像するだけで、おのがきゅっと引き締まっていくじがした。
「ええな。ユヅキ。あのバケモノを殺すためには《隠神様》のチカラが必要や。できるよな?」
「う、うん」
あたしは返事をした。
返事をさせられたというべきか。
とにかく、気づいたら「うん」と頷いてしまっていた。
「やば。イイダが來た! 行くで!」
チヒロたちが擔任のイイダの姿を見つけるなり、すぐにその場から走って逃げた。
アタシは複雑な気持ちを抱えたまま、チヒロたちの後を追いかけていった。
続く
【書籍化・コミカライズ】手札が多めのビクトリア〜元工作員は人生をやり直し中〜
ハグル王國の工作員クロエ(後のビクトリア)は、とあることがきっかけで「もうここで働き続ける理由がない」と判斷した。 そこで、事故と自死のどちらにもとれるような細工をして組織から姿を消す。 その後、二つ先のアシュベリー王國へ入國してビクトリアと名を変え、普通の人として人生をやり直すことにした。 ところが入國初日に捨て子をやむなく保護。保護する過程で第二騎士団の団長と出會い好意を持たれたような気がするが、組織から逃げてきた元工作員としては國家に忠誠を誓う騎士には深入りできない、と用心する。 ビクトリアは工作員時代に培った知識と技術、才能を活用して自分と少女を守りながら平凡な市民生活を送ろうとするのだが……。 工作員時代のビクトリアは自分の心の底にある孤獨を自覚しておらず、組織から抜けて普通の平民として暮らす過程で初めて孤獨以外にも自分に欠けているたくさんのものに気づく。 これは欠落の多い自分の人生を修復していこうとする27歳の女性の物語です。
8 173【書籍化】妹がいじめられて自殺したので復讐にそのクラス全員でデスゲームをして分からせてやることにした
僕、蒼樹空也は出口を完全に塞がれた教室で目を覚ます 他にも不良グループの山岸、女子生徒の女王と言われている河野、正義感が強くて人気者の多治比など、僕のクラスメイト全員が集められていた それをしたのは、ひと月前にいじめが原因で自殺した古賀優乃の姉、古賀彩乃 彼女は僕たちに爆発する首輪を取りつけ、死のゲームを強要する 自分勝手な理由で死んでしまう生徒 無関心による犠牲 押し付けられた痛み それは、いじめという狀況の縮図だった そうして一人、また一人と死んでいく中、僕は彼女の目的を知る それは復讐だけではなく…… 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスにて連載しております 2月12日~日間ホラーランキング1位 2月22日 月間ホラーランキング1位 ありがとうございます!! 皆様のお陰です!!
8 178【WEB版】劣等賢者のケモノ魔法革命〜「獣人は魔法が使えない劣等種だ」と宮廷魔術師から追放されたけど、弟子とFランク冒険者を満喫してたら、いつの間にか最強の魔法學院ができていた〜:書籍化+コミカライズ
第一部完結。 書籍化&コミカライズ決定しました。 「アンジェリカさん、あなたはクビです!」 ここは獣人は魔法を使えないことから、劣等種と呼ばれている世界。 主人公アンジェリカは鍛錬の結果、貓人でありながら強力な魔法を使う賢者である。 一部の人間たちは畏怖と侮蔑の両方を込めて、彼女を【劣等賢者】と呼ぶのだった。 彼女はとある國の宮廷魔術師として迎えられるも、頑張りが正當に認められず解雇される。 しかし、彼女はめげなかった。 無職になった彼女はあることを誓う。 もう一度、Fランク冒険者からやり直すのだ!と。 彼女は魔法學院を追いだされた劣等生の弟子とともにスローな冒険を始める。 しかも、どういうわけか、ことごとく無自覚に巨悪をくじいてしまう。 これはブラック職場から解放された主人公がFランク冒険者として再起し、獣人のための魔法學院を生み出し、奇跡(悪夢?)の魔法革命を起こす物語。 とにかくカワイイ女の子+どうぶつ萬歳の內容です。 基本的に女の子同士がわちゃわちゃして、ドタバタして、なんだかんだで解決します。 登場する獣人のイメージは普通の人間にケモミミと尻尾がついた感じであります。 ところどころ、貓や犬やウサギや動物全般に対する獨斷と偏見がうかがえますので、ご注意を。 女性主人公、戀愛要素なしの、軽い気持ちで読める內容になっています。 拙著「灼熱の魔女様の楽しい溫泉領地経営」と同じように、ギャグベースのお話です。 評価・ブックマーク、ありがとうございます! 誤字脫字報告、感謝しております! ご感想は本當に勵みにしております。
8 57異世界不適合者の愚かな選択
両親を事故で失い、一週間家に引きこもった久しぶりに學校へいくと、突如、クラス転移された そこは魔法とスキルが存在する世界だった 「生き殘るための術を手に入れないと」 全ては生き殘るため しかしそんな主人公のステータスは平均以下 そんな中、ダンジョンへ遠征をするがモンスターに遭遇する。 「俺が時間を稼ぐ!!」 そんな無謀を世界は嘲笑うかのように潰した クラスメイトから、援護が入るが、逃げる途中、「お前なんてなんで生きてんだよ!!」 クラスメイトに、裏切られ、モンスターと共に奈落へ落ちる、そこで覚醒した主人公は、世界に仇なす!
8 68転生したら解體師のスキルを貰ったので魔王を解體したら英雄になってしまった!
事故で妄想の中の彼女を救った変わりに死んでしまったオタク 黒鷹 駿(くろたか しゅん)はその勇気?を認められて神様が転生してくれた!転生したそこには今まで小説やアニメに出てきそうな王國の広場だった! 1話〜19話 國內編 20話〜… 世界編 気ままに投稿します。 誤字脫字等のコメント、よろしくお願いします。
8 85Umbrella
大丈夫、大丈夫。 僕らはみんな、ひとりじゃない。
8 187