今から２４年前、一人のの子がこの世に生をけた。

生まれた瞬間から、多くの人間に祝福されると同時に、わずかな人間に忌み嫌われる存在となった彼は梅艶と名付けられた。そこには意味としては寒さをしのいで咲き誇る梅のように強く、らしくしく育ってほしいという願いが込められていた。

彼の父は第１１バーンの統治者、母は人間だった。

なぜ、似ているが伝子的には異種族であるはずの人間とプレフュードから子が生まれるのかは、わからないが、梅艶は生まれた。

しかし、彼の生まれた経緯についてはあまり良い話ではない。

彼の母は名前を『華れんげ』と言ったが、彼がここアンタレスの元へ嫁りすることになったのは、彼の意思ではなかった。

いや、華にとっては、苦痛でしかなかっただろう。

當時、１８歳だった華は、観でこの１１バーンを訪れていた。彼はこの地下世界のを知らなかったがゆえに、それは彼のに降りかかった。

この第１１バーンでは観者を含めた『余所者』をターゲットとし、その膨大な家臣を用いて、一人一人を拉致してまず一か所に集める。それを他のバーンと同じように解し、人を食らう地上のプレフュードたちへ送るというわけだ。

その中に、彼も選ばれてしまったのだ。

余った時間に一人旅をしていた彼は、観地を回り疲れ、宿で休息をとり靜かに眠っていたところ、袋をかぶせられ、気が付いた時には、広く暗いホールへ圧収容されていた。

彼が目覚めて十數分後に、「今からお前らは死に、さらに高等な種族の礎になるのだ」とわけのわからない説明をけたかと思うと、大量のプレフュードが武を持ってってきた。

いったい何が行われるのかと、狀況をうかがっていたところ、華の近くにいた人間が切りさかれた。

その瞬間、自分がいま、どんな狀況なのか把握した。

次々と人間が殺され、ばらされていく慘狀の中、華は、切りかかってきたプレフュードから刀を一本奪い取ったかと思うと、彼は反抗を始める。

人間たちは圧倒的な數と、力量差により數を減らしていく中、鈍を一本持った華の周りには大量のプレフュードの死が積み重ねられていった。

彼はその場に殘った人間たちを統率し、自が切ったプレフュードたちの落ちた武を持たせて、戦わせた。

そして、彼自はたった一人で一軍を切り崩す働きをする。

そのとき、人間が支配下に置かれて、８０年間、一度たりとも彼らの反抗を許さなかったプレフュードたちが初めてたった一人のによって崩されようとしていた。

當時から１１バーンで仕える古參のプレフュードたちは、當時の彼を『蒼き鬼神』と呼び、四半世紀たった今でも思い出せば、恐ろしくなるのだという。

そんなたった一人のによる快進撃は、このバーンの主によって終わらされた。

アンタレス、その『結界グラス』の力は毒である。

彼が発した毒の中では、どんな生きであろうと、たとえ、一騎當千の武者であろうとも、あらがうことはできなかった。

大將を失ったことで、人間たちの勢いは途切れ、沈靜化された。

その人間たちのささやかな反はルードたちの中でも度々話に出されるようになり、彼らの力を早急に抑圧しなければならないという話も飛んだほどだ。

爭いの火種となり、その數約２００ものプレフュードを殺したには、相応のものが下されるはずだったのだが、周りの予想に反して、華は殺されなかった。

彼が闘していたとき、その上から見下ろしていたアンタレスは彼のそのしき力に惚れていたからである。

そのしきも力強い伝子をしたアンタレスは彼を拘束し、自らの子を産ませた。

自の子が生まれ苦しみが終わってその子を抱き上げた瞬間、たとえんで産んだ子ではないとしても、華はその子をいとおしく思えたが、すぐに、アンタレスによって我が子を奪い取られてしまう。

華は子を奪い返そうと手をばしたのだが、れることなくまたしてもアンタレスの毒によって気を失った。

その後、彼は幽閉された。

外に出ることも許されず、武も當然持てない。外界とつながるネットなどというものも止されていたため、我が子にを與えその様子を見るときだけが、彼にとって唯一の楽しみであった。

いや、正確に言えば外出が一切なかったのではない。

彼は時折、アルデバランの妻として、『星団會』に出席する時があった。

ゆえに、彼はすべてのルードを知っていたし、その特徴、力、格、あらゆることをしずつ學んでいった。

何のために、そんなことは決まっている。

この腐りきった地下世界をいずれ叩き切るため。

そして、あの暴君に近いなど一度たりともじたことのない夫と離れて、しい娘と二人で笑って過ごせるため。

そして、そのときはある日突然來た。

蟲の音も聞こえぬ靜かな夜、が我が子はこの城のどこかで眠っているのだろうか、と考えていると、彼の元に二人の男が現れたのである。

この城はかなり厳重に警備されており、ましては華の周りなど、ネズミ一匹れるはずがなかったのだが、そいつらは空から侵し、瞬く間に彼の周りにいた兵を倒してしまった。

學生服を著ている目の前の二人がただの人間ではないこと、そして、プレフュードという存在でもないということは直的にわかった。

華の元へ降り立った二人は武虎一郎と赤坂あかさか元気げんきと名乗った。

やってきた彼らは早々に華に向かって頭を下げ、プレフュードの支配から人間たちを開放する集団を作りたいから協力してくれと、頼んできたではないか。

どうやら、華がこのバーンで戦ったのを聞いてのことだったらしい。

彼らの願いに対して、華は悩んだ。

ここには我が子がいる、梅艶をここに殘してはいけない。

しかしながら、今、彼らについていかなければこの世界を変えることなどできない。自分が、ずっと梅艶と一緒にいるためには、世の中を変えなきゃならないのに。

「私をれて何人？ あと、貴方たちの目的の詳細を教えなさい」

咄嗟にイエスもノーも言えなかった華は、彼らにそう問いてみた。いくら數鋭をうたっても人數がいなければ小さなことは変えられても大きなことは変えられない。

そして、彼ら見ている先と華の思い描いている世界が異なるのならば、そもそも、協力すること自できない。

「俺たちは対プレフュード組織を地下世界に作ろうと考えている。この世界をプレフュードから人間の手に戻すために、な」

「ちなみに、あんたをれて三人だ」

その瞬間、華の選択は決まった。

人間とプレフュードの間には力差がある、ゆえにただ集めただけではどうにもならない。しかし三人というのは論外だ。

それに、彼らはまだ明確なビジョンを持っていなかった。

華の下した結論は、彼らに賭けることはできない、ということだった。

當然、華は彼らの提案を拒絶した。現狀ではそうせざるを終えなかった。

しかしながら、彼らは、「また、今度は準備を整えてくる」と言って、去っていった。