《輝の一等星》病床にて
一日中眠っていられるのはどんなに楽だろうと思っていたのだが、本當に人を殺すのはストレスや事件ではなく、退屈なのかもしれないと考えながら、華は変わらない景の前で眠っていた。
またしだけ、時間が経ち、それは梅艶が6歳になったころだ。
半年前から急に調を崩し、そのまま會長になることなく、華はずっと病床に伏せっていた。
その時の華は、調の良い日は暇で死にそうになり、悪い時は高熱や吐き気に襲われてやはり死にそうになっていた。
特に何の原因があったわけではなく、醫師に診てもらったところ、ただの風邪だと診斷されたのだが、それが不思議なことに半年も続いている。
生まれてから一度たりとも風邪すらひいたことがなくて、自が馬鹿なのではないかと疑っていたのだが、一度崩れてからは立て直らなくて、今は自分のはこんなにも脆弱で虛弱だったのかと驚いていた。
調が悪くなったのは昨年の秋のことであったのだが、いつの間にか季節は冬を通り越して、ポカポカと暖かい春になっていた。
その間、今まで人間という理由で初めからあまり歓迎されていないことはじていたものの華には有無も言わせぬ力があったからか、あからさまな態度をとる輩はいなかったのだが、華のが悪いことを知ると、途端に城の人間の多くは態度を変えた。
主であるアンタレスがいるときは、まだマシであったが、彼がいないときはひどいという言葉に盡きる。
の花は送られてくるし、食事はろくなものにならないし、部屋の溫度をわざととしか思えないくらいに下げるし、華が裏切り者だという噂は絶えないし、上げ始めればきりがない。まともに相手をしてくれるのは、やはり、娘と、その教育係である『ジュバ爺』、あとはルードのながらも、アンタレスに仕えているカプリコーンぐらいではないだろうか。
しかし、幸いなことに娘に被害はなく、彼は以前、真っ直ぐに育ってくれていた。
「お母様! 合はどのようでしょうか?」
「問題ないわ。でも、がなまってしようがないくらい――鍛練に付き合おうかしら」
「ダメですよ、まだ良くなっていないのですから」
起き上がろうとしたところを娘にすぐに布団に戻される。
ここのところ、梅艶の武の指導ができなくなってしまっていたのだが、すでに彼は槍においては華の分からないところまで到達していたし、同じように鉾においても、華の手の屆かない領域まで來ていた。將來このバーンを継ぐのならば『結界グラス』を所持することになるだろうし、これ以上は何をせずとも良いと言ったのだが、彼はその技をさらに向上させるために、毎日鍛練に勵んでいた。
武蕓を好むは嫁には行きにくいと思い、彼の未來を考えるとやはり辭めさせたかったのだが、その理由を聞くと華は何も得なくなってしまう。
「大丈夫ですよ、何があっても私が絶対にお母様を守り通しますから」
まだ若干6歳の娘に護られる自分をけないと思う一方で、どうしようもなくうれしくじてしまうこのは間違っているのだろうか。
そんなことを考えていると、可らしく正座している娘に「お母様」と呼ばれて彼を見る。
すると、し恥ずかしそうに、しかし、澄み切った眼で願いを言う。
「調子が良いなら、もしよろしければ……抱っこしてください」
再び上を起こして、二つ返事に「いいわよ」と了承した華の膝の上に梅艶は向かい合った狀態で座って抱き著いてくる。
その確かな溫と、重さをじると、いつも娘は日に日に大きくなっていることを痛する。
華が何もせずともしっかりと時間は過ぎていた。
それでも、こういうところはまだまだ子供で可らしいなと思いながらその髪を梳いていると、布団隣の障子戸が開き、何の斷りもなく、が一人ってくる。
「お取込み中か?」
「見てのとおりよ、私は今、この世で一番大切な寶を抱きしめて幸せをかみしめているところ」
「なら、問題なかろう」
そう言ったは華たちの橫に座り、手に持った一升瓶を開け、そのまま口をつけて飲み始める。
彼の名は『真冬』という、家名でカプリコーンと言った方が正しいか、癖のある栗の髪を垂らし、華とはあまり変わらぬ年齢だというのに顔のせいでく見える。一方で、格はおばさんというか、爺くさい。口調と言い、好きなものは酒とするめだというのだから本だ。
真冬と華の出會いは、華が娘に武を教えていた頃からだろうか、それ以前は星団會で顔を合わせたのだが一度も話はしたことがなかった。
しかし、城の中を華が歩き回るようになってから、代々カプリコーンがアンタレスの家に仕えており、そのため真冬がこの城に出りすることが多いことをジュバ爺から聞いて、聲をかけたところ、意気投合したわけだ。
彼自もルードの職であるため、頻繁ではないものの、時々、この城に來たときに、一緒に飲んだりしていたが、華の調が悪くなってからは、こうやって見舞いに來たかと思うと、これ見よがしに華の目の前で酒を飲むのが習慣になっている。なんでも、早く良くなって一緒に飲もうということらしいが、からかっているとしか思えない。
「お前の病も長びくのう、儂も相手がおらぬ故、暇でしようがないわ」
「こんなところで酒飲みながらブラブラしてないで仕事しなさいよ」
「ならお主も娘とラブラブしていないで早くそれを治さんか」
真冬はその名前の通り、健康にもかかわらず病的なまでにが白いのだが、早くもアルコールが回ってきたのか、段々顔が赤くなってきていた。
「貴の『結界グラス』でどうにかならないものかしら?」
真冬の、というか、カプリコーンの『結界グラス』は、『変化と長』であるため、はっきり言って戦いには向いていないのだが、治療としてはその力はよく使われると聞く。
たまに聞けば薬よりも良く効くと言っている者もいて、聞いてみたのだが、彼は『無理じゃ』と即答してきた。
「儂に治せるのは限られた病気だけじゃよ、腫瘍でも見つかったときにまた言っておくれ」
「癌は治せるのに、風邪は治せないのね」
「自分でも不便な能力だということはわかっておる」
そう言って、また真冬が酒瓶を傾け始めたので、腕の中にいる娘に目をやると、彼は目を閉じながら眠っているのか、二人の話を聞いているのかはわからなかったが、かず靜かに華のに顔をうずめていた。
「しかし、お主の病は本當に風邪なのか? 生まれつきが丈夫でないか、あるいは、持病でも持っていない限り、ここまで長引くことはそうそうないと思うのじゃが……」
「私だって何度も別の醫者に診てもらったし、変な病気じゃないかと思ってな検査もしたわ――でも、結果はいつも同じよ」
そうか……、とため息とともにらした真冬は何かを考えていた様子だった。
そして、手前にあった華の風邪薬を手に取って、じっと見つめる。
「……そういえば、お主、最近、裏切り者だという噂が絶えぬようだが。何か心當たりはあるのか?」
「火がないところに煙はたたないっていうしね。間違っちゃいないかもしれないわ」
「儂はアンタレスの重臣なのじゃが?」
「でもその前に私の飲み友達、でしょ? 貴は家系の縛りよりも友をとるって見ているのだけれど?」
「隨分と甘く見られておるのう」
「義理堅いって、私にとっては大変良い評価なのだけれど」
こんな話をしても、笑いながら聞いてくれるのは、この城で彼だけだろう。豪快というか心が広いというか、いずれにしても、華は真冬だけには全てを話しても良いと思っていた。赤坂元気と武虎一郎のことも。
しかし、それ以上彼は何も訊いてこなかった。ただ、華の腕の中を見て、
「娘のため、か……」
華がコクリと頷くと、「なんにせよ、が良くならねば話にならぬじゃろう」と言って、立ち上がる。いつの間にいか彼の手の中にある瓶の中はなくなっていた。
「ちと、用事ができた。ずまぬが今宵はここまでじゃ」
また來る、と呟いた真冬に「いつでもいらっしゃい」と華が返すと、ふっ、と笑って、部屋から出ていったのであった。
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