《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task2 先客と話をつけろ
先客のお出ましだ。
しかも殘念ながら、大ヒーロー・・・・じゃあない。
じゃあ誰だ?
第三者か。
そうでなけりゃあ、犠牲者のたぐいだ。
亡者にしては足取りもしっかりしている。
「お、おばけ……」
ロナの奴は、俺の背中に隠れやがった。
「ゾンビは大丈夫だったのに、幽霊は駄目なのかい。俺達も似たようなもんだろう」
『言うな! 言わなければ意識しなくて済んだのに!』
わざわざ念話にしやがる。
ぶのは気が進まないってか。
俺の後ろに隠れている時點で、恥もクソも無いと思うぜ。
「……」
さて、先客は首の無い……やたらにゴツい鎧だ。
「なんだ、デュラハンか。脅かさないでくださいよ」
「見ろよ。熱烈に歓迎してくれるみたいだぜ」
「えぇ。バッチリ構えてますね。真っ二つは嫌ですよ、あたし……」
立派な剣だ。
ざっと二メートル程はある。
「あれを貰おう」
「無理。絶対無理。どころかまでこびり付いてるじゃん」
そう怒るなよ。
収納しちまえばクソもミソもさして変わりはない。
「調子はどうだい首無し!」
まずは俺が、両手を広げて友好の姿勢だ。
このまま突っ込んできてみろ。
しっかり抱きしめてと平和について三十文字以で説明してやるぜ!
首無し野郎は大剣を上段に構えて、足を速める。
「うわ、殺る気だ!」
ロナは慌てふためいて、遠くに走っていった。
不格好な走り方だが、よく転ばないもんだ。
「おいおい、気が早いぜ! 夜はまだ始まったばかりだろ!」
振り下ろされた大剣を、橫に跳んで避ける。
橫振りには屈んでオーケーだ。
足払いが來たら軽くジャンプ。
そして、回転しながら突いてきたら、俺はその上に飛び乗る。
朝飯前のエクササイズだ。
振り払おうとしてきたから、選手よろしくバック転にトンボ返りを加えて、首無し野郎の真上をとる。
「ひゅう!」
その中に、ゾンビからちぎった指を指ごと放り込んでやった。
この時撃っていればお前さんは負けていたぜ。
実力の差を思い知ってくれ。
「お? まだやるかい?」
「何を暢気にやってるんですか! 銀の銃弾は飾りですか!」
崩れかけの階段の上から、ロナがぶ。
そのくせ援護の一つも無いのは、汚い奴を相手にするのは気が進まないってか。
「焦るなよ」
大剣を振り上げ、俺の方に向き直る。
世話の焼ける野郎だ。
そんな熱烈なアプローチを仕掛けてくれたなら、俺もお答えせざるを得ないじゃないか。
「ダーティ白刃取り!」
煙の槍を幾重にも差させながら、大剣の振り下ろしを手でけ止める。
首無し野郎はこの時、初めて驚いた・・・。
必死に大剣をかそうともがいているが、殘念ながら大事な得はハグされたままだ。
俺は手を離して、ゆっくりと歩を進める。
それでも大剣はかない。
「どうやったんですか。まさか空間に固定しました?」
ロナは水筒から水を出しながら手を洗っていた。
俺を説得するのは諦めたらしい。
「その手の原理は観察してノートにでもまとめておけばいいのさ」
俺は首無し野郎を押し倒し、元を足蹴にしてから投げキッスをくれてやった。
別がどちらだろうと、俺の異文化コミュニケーションを前にして、屈してもらう他ないだろう。
いいや、そうさせてやる・・・・・・・よ。
「社ダンスは終了だ。お友達になろうぜ、マダム」
首無し野郎は靜かに両手を上げた。
こいつは驚いた。
まさか本當にお友達になってくれるとは!
じゃあ新しい友人にお願い・・・をしようじゃないか。
俺は大剣を指差す。
「さしあたって、この騒なバイオリンは沒収だ。お前さんの演奏は死人が出る。
同意するなら指を一本立てろ」
オー!
こいつ中指立てやがったぜ!
このテのジェスチャーは全世界共通なのか?
「言葉は通じるみたいですね」
「ああ」
何はともあれ合意した。
じゃあありがたく頂戴しよう。
指に収納……よし、ギリギリ大丈夫だな。
気まぐれに買った鎖を取り出す事になったが、すぐそこにお友達兼“便利な収納ボックス”がある。
ゾンビの指と一緒になるから、ロナの奴が嫌がるがね。
『三者通話でもしてみますか。ちょっとスキル一覧を見てみます』
ロナはポケット懐中時計を取り出し、そこからメニュー表の冊子を開いた。
その一部始終を俺は観察して、ロナのの大きさについて思いを馳せる事に決めた。
「……えっち」
「見るなと言われてない」
「普通は見ないものなんですけど」
「で? スキルは見つかったか?」
このように確認する必要があるのは、スキルを取っても見た目じゃ何も解らないからだ。
これで懐中時計がったりでもすりゃあ良かったんだが。
「取りましたよ」
「同業者とかち合った時が楽しみだぜ」
「それは、何を取ったのか解らない事を皮ってるんですか。それとも別の意味が?」
「好きなほうを選んでくれていいぜ。殘りは俺が貰う・・・・・・・」
「はぁあ……」
『あ、あの、付かぬことをお伺いしますが、お二人は以前からそういう関係で?』
崩れた座り方の首無しが、念話で俺達に尋ねる。
どうやら、ロナは噓を言わなかったようだ。
落ち著いた低い男の聲か。
顔が無いから、貴婦人は空想に耽るしか無いな。
『おー、通じた。えっとですね、詳しい事を抜きにすれば、単なる先輩後輩ですよ。あたしが後輩』
『然様でしたか。長年の付き合いがある夫婦のようなやり取りにもお見けしましたが……』
「は!? な、な、なんで、こんな奴!」
顔を真っ赤にして言う言葉じゃないぜ。
「あんたは何を涼しい顔してんだ! むかつく!」
斷続的に、背中に衝撃がやってくる。
ちょっと場所が良くないな。
別に背中は凝っていない。
「もうちょっと首の辺りがいいな。そうそう、そこ」
「はいはい、この辺ですね……って、違うッ!」
踵落としが肩に引っ掛けられ、背中に冷たい床がれる。
どうやら俺は、蹴倒されたらしい。
「いい頭のマッサージだ。世界の裏側までよく見える。舌を噛みそうになった」
『単に仰向けになっているだけでは』
「いっつもこうなんですよ、こいつ!」
『仲良しですね』
「「誰がこんな奴と」」
『ほら』
俺とロナは互いを指差しながら、顔を見合わせて黙りこむ。
(ちなみに俺は寢転がったままだから、踏み潰そうと思えば踏み潰せたんだが)
ロナの気持ちは解るぜ。
俺みたいな奴とは生きてきた世界が違う。
ソリが合わないのは當然だろう。
「……ごほん。それより、なんで襲ってきたんです? 話せる理があったのに」
「答えは簡単さ。守るよう言われたんだろ?」
ここで、俺はやっと上を起こす。
『ご明察恐れいります。主よりこの屋敷の警備を仰せつかっております』
「橫から見てただけなんでアレですけど、その割には剣に振り回されるじでしたね。
さっさと手放して、弾戦にでも持ち込めば良かったのに」
そいつは素晴らしい。
社ダンスの次は相撲だと。
次はフラメンコでもやるか?
『お恥ずかしながら、私は不慣れでして。私は、その……従軍神だったのです。
ただ、それを説明するを持ちませんでした。何故かこうしてお話できるまでは』
「じゃあその鎧は何だ」
やけに板金が分厚い。
それに、隊章は引っ剝ぺがされているが、さっきの聖騎士連中の鎧によく似ている。
『従軍神ですから、矢をけても大丈夫なようにと。結局、首を斬り落とされて、このザマですが。
ああ……故郷の友人の結婚式で、経典を読み上げるのが私の目標だったのに……』
「その話は後にしません? とりあえず、案してください」
『わかりました。それと、あの……さっきの指、取って下さいませんか』
首無し野郎は、空っぽのを軽く叩く。
中で何かが転がる音がした。
ロナは笑顔で首を振る。
「それも後で」
『はい……』
心なしか、首無し野郎はしょぼくれてるようにも見えた。
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