《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Task6 ヒイロ・アカシを倒せ

ヒイロ・アカシ。

かつては勇者様で、今じゃゾンビの反逆者。

アリの巣の隣に砂糖菓子でピラミッドを作っても、ここまで酷い事にはなるまい。

「遅いぜ、お前さんの剣は」

「くそ!」

とにかく遅い。

四方八方から振り下ろされる真っ黒な刃は、それがどういう手品なのかは知らないが、一つずつ順番に煙の槍で弾いちまえばただのモグラ叩きさ。

まるで、この廃村と同じだ。

侘びしさしか無い。

村人共を見ろよ。

石を投げて援護する気配すら無い。

役人共を介抱する様子も無い。

「もたもたしていると、俺が殺しちまうかもな。お前さんの獲を」

「させない! 俺の、俺の獲だ……!」

「何故そうまでして、自分の手でやろうとする?」

「それだけが俺の生きる理由なんだ。奪う事は許さない」

呆れたぜ。

先の事なんざ何も考えちゃいねぇ。

“てめぇで子種をブチ込んだの面倒を見ろよ”。

「王國の連中も、こんな奴に苦戦するとは先が思いやられるぜ」

「……力が、力さえあれば、お前達みたいな奴を消せるというのに!」

「そんなに力がしいかよ。こんなクソッタレな世界にしがみついて、復讐、復讐とお題目を唱えて。

もう楽になっちまえよ。そうすりゃ問題は先送りになって、いつしか世界はみんなで仲良くご破算オシャカになる」

剣を弾き飛ばして、奴の足元に煙の槍。

もつれた足を蹴ってやれば、フィニッシュだ。

それだけで、奴は膝を突いた。

リンチ気取りの間抜けを散々蹴散らしてきたんだ。

今更、たった一人に遅れを取るかよ。

「それでも力にこだわるなら、一つだけアドバイスをしてやるよ。弱い者いじめはすぐに飽きが來るからな」

倉を摑んでも、周りは助けようともしない。

もっとガッツを見せてみろよ、砂糖菓子共。

「お前さんが俺達の素を知らないのはフェアじゃない。教えてやるよ。俺達が何者なのかを。

茶番の第二幕だ。ポップコーンを用意しな」

―― ―― ――

ようやっと、近くに転がった役人共が片付けられた。

応急処置もさせておいた。

俺はもちろん、村の中央からはかない。

しばらく歩きたくない。

それはさておこう。

俺がビヨンドについて教える度に、膝を突いたままの反逆者様のツラは青くなっていった。

ただでさえ青いのに!

同じような存在が他にもいるって話を聞いた悲劇の主人公様が心に描くのは何だ?

自分は特別な存在じゃなかったという落膽か?

それとも、薄汚れた世の中のシステムに対する失か?

もちろん確実に両方だ。

「釣った魚の価値を決めるのは買うやつ、食うやつ、釣り人だ。

そして釣り人だけが、長靴を釣り上げた間抜けを笑っていい。餌はここに。釣り竿はお前さんの手の中に」

ついでに宣伝だ。

白紙の依頼書をくれてやった。

『……良かったんですか』

『教えちゃ駄目とは契約に書かれていない』

『そりゃそうなんでしょうけど……』

閑話休題だ。

勇者様との會話に戻ろう。

ロナと同じような事を考えていそうな顔だしな。

「この手の話に誰も饒舌にならないのは、そうすりゃ不利になるからさ。解るよな?」

「金さえ積めば誰もが自分だけの手駒を……かつての俺みたいな奴を手にれられる、と」

「その通り。お前さんを消さなきゃならない理由が、これで三つに増えたな」

「これが本當だという保証は?」

「俺自がその保証だ。同業者がいるのも知っている」

煙の槍を使って勇者様の剣を手元に運び、奴の隣に突き立てる。

俺はそれから、両手を広げた。

「釣果ちょうかをその手に來るがいいさ。王國の代表として・・・・・・・・、いつでも相手になってやるよ」

「なら、そのいつ・・はすぐに來る」

やけに準備がいいな。

もう依頼書に書き込んで、得意気に見せびらかしてやがる。

依頼容は、俺と國王を倒す事。

上出來だ。

じゃあ茶番の第二幕もカーテンコールにしてやろう。

銃を構え、銀の弾丸を奴の額に。

……だが、それは屆かなかった。

眼鏡を掛けた白いローブのイカした旦那が、銃弾をけ止めていた。

をして黒髪で、尖った耳がチャームポイントだ。

そして、その右肩にはカラスが止まっていた。

「はて、これは何の因果だろう。まさか私が君達・を相手取る事になろうとは」

ゾンビの勇者様が、カラス野郎に眉をひそめる。

「待て。呼び出したのは、俺だぞ」

「そこの男には協力者がいる」

お見通しってか。

どう見ても只者じゃない。

こいつこそが、ロナの臓を空っぽにしやがったクソ野郎に違いない。

から丸鋸を構えるロナの表が、そう言っている。

「イカした大だ。こりゃあ駆け出しの俺には分が悪い」

「謙遜は無用だ。君の評判は聞いているよ、ダーティ・スー君」

「碌な評判じゃねぇ事は聞かなくても解るぜ」

「そうでもない。賞賛と畏怖がり混じっていたよ。君はあまりにも危険すぎる。

まるで伝承に出て來る黃金の獣ダハンリサンのようだ。まばゆい輝きでし、無慈悲に躙していく。ちなみにダハンリサンとは人間語に訳すと“踏み荒らす者”だ」

……絵本の話はまた今度にしてくれ。

トンガリ耳のジョークには付き合ってやるから。

「そう買い被るなよ。まだ五つ目の依頼だぜ。ビギナーズラックはトンガリ耳の辭書には載ってないのか?」

「古いエルフ達には賭博という風習が無いからね。だが私は君達で言う所の人類學者だ。

様々な事を調べていけば副産・・・は幾らでも手元にやってくる」

聴衆共も、この展開に著いて行けないようだ。

さっきから阿呆面を曬して、り行きを見守っている。

そりゃあそうだろうな。

ビヨンドなんて存在を知っているのは、ごく一部のあらゆる意味で“困った奴”だけだ。

この長講釈垂れやがるクソ眼鏡も例外じゃあない。

「ましてや私はサヴァンダール……君達で言うところの劣等人種、それもブルズウェンディ……つまりは黒エルフだ。

邪悪な存在として喧伝されがちだが、それは誤りだ。私は例外だが、セレカファンは迫害の歴史ゆえにする者への執著が非常に強い。

コンプレックスを力源とした向上心というものは、得てして侮れない結果を生むことにも繋がるという事だ」

「お前さんはセールスにでもやってきたのかい?」

「――いい質問だ」

ああ、これは非常にまずいぜ。

客は早くアツアツの料理にありつきたいのに、シェフがワインの歴史について蘊蓄うんちくを傾けやがった。

「例えば私は様々な異世界のエルフについて調べていてね。これで十冊ほどの本が作れる。

召喚通した好きな魔師達からは、出版を手伝ってくれるという約束も取り付けてある。

自殺志願者の臓、は多彩な用途があってね。エルフを召喚するにあたっては非常に相が良い。

だからこそ、こういう因果な商売から足を洗えずにいるのだがね」

もういいだろう。

眠くなってきやがった。

「オーケーオーケー、殘りはレジュメにして送ってくれ」

「なるほど。そうするのも、やぶさかではない。

もしレジュメを読んだ上で講義をけたければ、依頼書に記してくれたまえ。都合が合う日にでも馳せ參じよう」

ワーオ!

冗談じゃないぜ!

高い金を払って寢に行くのか?

わざわざい椅子で?

「クソまみれのテキストを教壇に積まれないよう祈っておけよ、カラス野郎」

「ああ、自己紹介が遅れたね。

私はクラサス・リヴェンメルロン……私の姓はエルフ語での友を意味する。

右肩にいる親友が、イヴァーコルという。こちらには意味を持たせない。無意味な音の羅列は時として――」

「――耳障り・・・だぜ」

銃聲が、奴の早すぎた講義を中斷させる。

最適解じゃあないが、今回ばかりは仕方ない。

俺は、ある方法を取る事にした。

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