《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Final Task 殘りの連中も片付けろ!
「く、クソがァ゛!」
「逃げ場は無いわ。予備の心臓も、ほら」
ジェーンが顎で合図すると、後ろに控えていた盜賊のような風の野郎が袋を投げ捨てた。
開け口は紐で縛っていないから、中から赤黒いものがどろりと溶け出した。
「死ねェ゛! くたばりやがれェ゛……!」
「ふぅん。ランクの割に、殺し文句は安っぽいんです――ねッ!!」
おお、後頭部をその馬鹿でかい腕で押さえつけて、奴の鼻っ柱を地面とキスさせやがった!
さぞかし痛かろうよ。
それに、これ以上無いくらい屈辱的だ。
(こいつの用意した偽者とまったく同じ姿の“本オリジナル”に張り倒されているなんて、俺なら恥ずかしくて帰りたくなる!)
「いいわよ、ロナ! そのまま押さえてて!」
「そうか、おめェ゛は“オリジナル”か……! ギャ゛ハハ!! 哀れだなァ゛?」
「……哀れ、ですか」
「ここまでの何もかもが茶番だ。その――ジェーンはおめェ゛をモルモットにしていたんだ。
首尾よく俺を捕まえたつもりだろうが、その背中から生えてる腕だって――ぐェ゛ェ゛!」
おや。
今度は奴のを丸ごと持ち上げてから、重を乗せての叩き付けだ。
さっきみたいにただ後ろから張り倒すのとじゃあ威力が段違いさ。
「く、くそォ゛……」
「ンなもん、織り込み済みですが何か?」
一拍置いて、ジェーンが手を何度か軽く叩く。
……朝飯にガキを呼ぶママでもあるまい。
「さて。何か申し開きはあるかしら? グリッド・ライナー」
「て、め……話が違うだろォ゛がよ! 俺をハメやがったなァ゛、ジェーン!!」
「ご挨拶ね。さっさと返してくれてたら、こんな手荒な真似はしなくて済んだのよ?」
ジェーンはスマートフォンを片手に、グリッド・ライナーの隣へとやってきた。
パシャッ。
……自撮りだって?
この、何を考えてやがる。
安全確保の符丁コードか?
駄目だ。
流石に奇想天外を代表する俺様でも、これはよく理解できない。
「ハァ゛ッ、何゛を返すって? オイ゛てめェ゛! 人が話をしてン゛だよ! 目ェ゛見ろや!」
それでもジェーンはスマートフォンから目を逸らさなかった。
どころか、肩を震わせて笑ってやがる。
「クソアマァ゛! 何がおかし――え?」
奴は起き上がろうとしていた。
だが両足のつま先は離れず、そのままつんのめって、また俯せに倒れる。
さては、あの寫真アプリにがあるな。
「うーん、やっぱり私ってば、マジックアイテムクリエイターの素質があるのかも。すごいでしょう?
流れ著いたジャンク品で、こういうアプリを作ったのよ? 私一人で! アハハハハハ……!」
「ダーティ・スー、てめェ゛の差し金か! てめェ゛が引き抜いたんだな!?」
「何の話だよ」
まったく。
見えいた茶番は止してくれ。
いかにもな三下を演じて、俺を油斷させようっていう話だったら謹んでお斷りするぜ。
どうせこのジェーンかあのゆぅいとグルになって、俺をいいじにもてなそう・・・・・・・・・・って魂膽ハラだったんだろう。
三文芝居を見に來たわけじゃない。
それにゆぅいの奴は、群衆の餌食オモチャになっちまったよ。
「ちくしょォ゛! あんなにし合ったってェ゛のに、その報いがこの仕打ちとは、お前ェ゛!」
「人聞きの悪い事を言わないでちょうだい。私の事務所は殘業止・・・・なの」
「く、くそォ゛! ふざけやがってェ゛!」
「完璧な契約なんて存在しないわ。完璧な人間が存在しないようにね。じゃ、今度こそ返し――」
「――あたしの偽者を作りやがった報いをけろマスかき野郎!!」
「ちょ、ちょっと!」
ジェーンの靜止も虛しく、チェック野郎の頭はソーセージのになった。
ロナが、握り潰した。
返りが辺りに飛び散ったが、これでクソ野郎は痛い目を見た・・・・・・わけだ。
ふはは!
いい気味だぜ!
もし悪人を演じていただけだったとしても、役割に従ってチェックポイントを通過したんだ。
ゾンビのふりをしたビル・マーレイが映畫の中でどういう末路を辿ったか、お前さんはご存知かい。
……つまり恨みっこなしって奴さ。
「他所の世界でもよろしくやろうぜ、グリッチ・ライヤー。これで終わりじゃないだろう」
しばかりショッキングな形に変形した頭蓋骨を軽く叩いて、チェック野郎を労ってやる。
すると、奴の頭がしだけ上がった。
「殺゛す……ッ゛!」
頭の半分以上を潰されてまだけるとは!
つくづくビヨンドってのは化けじみてやがるぜ。
まあ、俺なら免こうむるがね。
頚椎を狙って一発――
「――あたしがやる」
ロナが背中の青い腕で、グリッチの全を容赦なく叩き潰した。
きっちり仕返しできたならいいが。
……お、消えた。
ちゃんとくたばったらしい。
ところがジェーンは不満顔だ。
自車事故のシーンのダン・エイクロイドみたいなツラをしてやがる。
「……やってくれたわね。回収があったのに」
ふはは。
ざまあみろ。
「あいつにはまだ隠し玉があったようだから手助けしてやったんだが、駄目だったかい」
「もう。見えてたわよ、それくらい……」
或いはこの瞬間も、グリッド・ライナーの思う壺だったという可能もあるがね。
敢えて飛び乗ってやるのも、悪くない選択だ。
あの手の連中は、策が立て続けに上手くいくと、どんなに頭の中で警戒しようと心掛けても、心の紐は緩む一方なのさ。
「……」
お前さん達、次の仕掛けはどう対応するのかね。
実に楽しみだ。
もうしばかり、時間を稼ぐとしよう。
「次のターゲットはジェーン、お前さんだ」
「あら、私?」
と、ここで邪魔がる。
「……ちょ、ちょっと待ってくれ!」
何を焦ってやがるのかね、元カレ君は。
テンポを崩さないでくれよ。
「確かに俺はあんたを呼んだけど、ジェーンを攻撃する理由は無いだろう!?」
「チェック野郎の言を聞いておけば、そんな世迷い言も無かったろうに。そうだろう、ジェーン」
「コメントは差し控えさせてもらうわ」
なら、俺が説明してやろう。
「まず、ゆぅいを唆して依頼を書かせた。
あいつが召喚したビヨンドと連攜した。或いは契約前から既に仕組んでいた。
それも、隨分と意地悪なやり口でだ。ロナの偽者を作ったのはお前さんのれ知恵だろう」
「何のことかしら。協力はしたかもしれないけど、あくまで土臺作りだけよ。
ちょっと橫から小突けば自滅する程度にはお膳立てしてあげたの。あの子……ゆぅいがそれに気付いてたかは、確認しそびれたけども?」
ほう。
俺のせいだとでも言いたげじゃないか。
どうせ他所の世界にも行けるんだ。
手間のひとつやふたつ、お前さんならどうってことはないだろうに。
だから敢えて、無視する。
「他にはそうだな……お前さん、実験かなにかをしてやがるな。概念汚染という言葉がどこまで一般的かは知らんがね。
なくとも、まともに説明された事は一度も無い」
と、ここで紀絵がおずおずと手を挙げた。
「それは多分、先生なら解っていると思われたのか、説明しても無駄と思われたのかもしれませんわ」
ふはは!
紀絵のやつ、痛いところを突いてきやがったな!
その通りだぜ、なくとも俺は半分くらい理解しているし、それ以上勉強する必要をじていない。
「ちなみに! わたくしは正直ちんぷんかんぷんなので、説明をして頂けませんと……その、見た目はこれですが中は低學歴なので――」
「――そこまでだ。學の有り無しと頭の良し悪しは別だぜ」
……これからは、紀絵にはもうしばかり気を遣ってやるべきかね。
ジェーンが何か言いたげだから目で促す。
「何らかの要因で、例えば自分が死んだ世界に戻ってくるなどすると起きる現象よ。
汚染されると、その人達の在り方そのものが歪んでしまうわ。元が人であった場合、人ではない別のものに変わるの。
例えば亡霊とか妖怪、怪とか……そう呼ばれるものにね」
「その現象をどうするかは知らんが、紀絵にもちょっかいを出しやがったな」
「ええそうよ」
隨分とあっさり認めやがる。
だが好都合だ。
「そのちょっかいの出し方が気に食わん、というワケさ。洗い浚い吐き出してもらうぜ」
あとお前さん、どうせロナが俺のウィークポイントになりうるか検証してやがっただろう。
「嫌だと言ったら?」
「その時は地の果てまで追い掛けて、優しくインタビュー・・・・・・・・・してやるだけだ」
お返しはきっちりと、百倍返しで屆けてやるぜ。
さて、お次は元カレ君への確認だな。
「……元カレ君。お前さんはどっちに付く」
「俺は……俺は……――」
「――あら? 何かしら、この音……?」
地鳴りのような音は、俺の仕掛け・・・が正常に作していることを知らせてくれた。
痺れるだろう。
魔神の石版を通信販売で取り寄せてやったのさ。
探せば見つかるもんだね、この手の綻びは!
煙の槍で砂の中に埋めて、そこに煙の槍を使った時限裝置を仕込む。
更に、ターゲットボールを等間隔に設置した。
およそ、このタイミングでやってくるようにした。
何せ拠點を頻繁に移するような組織なら、防衛に回す人數も限られてくる。
その中で更に削られたら、迎撃できる奴は數える程しかいなくなる。
なし崩し的に、俺達の所へと辿り著く。
「割れた蜂の巣を見ている登山家の、その後ろから迫るクマさんの足音さ」
「……!」
壁を突き破って現れたの塊に、ゴロツキの一人が吹き飛ばされた。
おやおや可哀想に。
いくらワンちゃんのお手をけ止めようとしても、ワンちゃん役がこの白いデカブツじゃあな。
「ヴォオオォオオオオ!!」
白いむくじゃらのデカブツの雄びが、城中にこだまする。
たった一匹でも、恐怖だろう。
存分に味わえよ。
「わぁ!?」
「こ、こいつ……!」
「ひ……正気か!?」
「ダメだ……こいつの考えが読めない……」
考えが解らんとは。
どう見ても、今のは開幕の演出だろうに。
「鬼ごっこだ、野郎共! 最後にもうひと暴れしようぜ!」
フィナーレを飾るのは、不幸を笠に著るクソアマでも、吠えるだけのクソ野郎でもない。
この俺であるべきだ。
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