《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Result 12 激の殘滓

この日、聖を騙った者が死んだ。

憤怒に満ちた群衆によって殺されたのだ。

名殘みれん惜たらしく縋り付こうとした栄も、悲哀も、彼を救いはしなかった。

そうして、非難と嘲笑の的となった。

が手中に収めていたと思っていた全ての存在に背かれた。

の病的な承認求の裏側には様々な要素が事実としてあるものの、人は暴君を求めたがるものである。

或る者は停滯を打破する救世主として。

また或る者は英雄譚の生け贄として。

もまた、その例にれず悲劇を背負ったのだ。

煙を生じる炎がしずつ登ってくる。

いずれ全を覆うだろう。

四肢を骨折させられてけないために、抜け出せない。

「どうして、どうして! ゆぅいは、人の役に立ちたかっただけなのに! どうしてゆぅいを、あたしを、誰も認めてくれないの!? こんな終わり方、嫌だよぉ! 熱い、熱い、ああああぁ! やめ、あ、嫌だ! やだ、や、あ、あっ! あぁああああああッ!?」

の聲は、彼ら斷罪者たちの笑顔をより一層凄絶にさせるだけだ。

今更、この段階に至って再び信じようなどと誰も言い出したりはしなかった。

プレイヤー名“ゆぅい”。

本名、笠江優かさえ しるく。

そうとしたあらゆるものは、水泡に帰したのだ。

ギルドの再興は不発に終わった。

ログアウト不可――尚且つデスゲーム狀態からの、圧倒的な組織力の誇示も離反されては形無しだ。

出方法の獨占化も、人員を奪われてしまえばに処理することもできないし、暗殺が明るみに出れば糾弾は免れ得ない。

意図的に作り出した“制可能な反抗勢力初夏の旅団”も、こうして制不能に陥った。

強力な敵対NPCとして認知される黃のガンマン……そのオリジナルを召喚して使いこなしてみせるというデモンストレーションは、亀裂のった幹部會を恐怖で縛り上げるには至らなかった。

それらのマッチポンプを用いて英雄的存在として君臨したかったとしても、無駄だ。

復讐相手のロナを洗脳し手駒としたかと思えば、単なる偽者だったという。

では偽者に罪をなすりつければ功したのかといえば、否。

――結局、それも失敗してしまった。

はビヨンドを、呼び出しては報を集め、集めては殺害した。

協力者として名乗り出た――ジェーンはビヨンドの中でも腕利きの呪師を生業としている者を呼ぶと言っていた。

報せをけて、そのビヨンドから送られてきたのは、確かにロナの姿をしていた筈だ。

初めから、功の目は無かった。

ジェーン・ブルースも黃のガンマンも、騙していたのだ。

どうして見抜けなかったのだろうかと、彼は自を責めたりはしなかった。

責める相手は周りにいくらでもいるのだから。

「くそ、くそおああああああ! どうして、どうしてみんな、最後には臺無しになるッ!! あっ、がああぁああああッ!!」

怨嗟の聲を上げて絶命した彼の魂が何処へ向かったのか、それを知る者はいない。

誰も興味を示さなかった。

灰と化した彼は翌日もそこに曬されたままだった。

が、ややあってから変化が起きた。

「ああ、ちひろ。こんなところに、いたのね。おとうさんがまってるわよ。かえりましょう」

やつれたが、抑揚のない聲で灰をかき集める。

夫を娘の亡霊に殺され、たった一人だけ生き殘ってしまった彼は、完全に正気を失っていた。

或いは夫と娘が存命中の時から既に、兆しはあったのかもしれない。

壊れた心は、現実を拒否し続ける。

たとえそのあと、自らがみ者にされる運命にあるとしても、虛無を漂う彼神には何ら興味を示すものではなかった。

―― ―― ――

今回の戦いにおいてナイン・ロルクは、自の働きは脇役程度としか認識していなかった。

が、召喚システムの調査班を連れ帰った事は、英雄的行との賞賛をけるには充分過ぎた。

持ち帰ったデータに拠れば、十人分の帰還ログアウトに必要な魔力は數ヶ月ほど魔力を蓄えれば賄えるらしい。

式に改良を加えれば、効率化もできるだろう。

また他の國では、それぞれの世界を繋ぐ通信網の研究を進めているという。

元の世界ではゲームマスターをしていた者が、換の為に接を求めた。

出の準備は著々と進められていた。

「今度こそ、間違えたりはしない……絶対に……――」

人知れずつぶやく彼は、自らを“ただの人間”と定義した。

そうでなければ、どこで慢心するか想像もつかなかったのだ。

秩序を守るのが街道警察の役目だった筈なのに、いつの間にか自分は秩序を破壊する――破壊した側に回ってしまった。

その自己認識が、靜かに彼を苛んでいた。

後に彼は、英雄ではなく、英雄の卵を見守る存在として長を遂げる。

だが、ダーティ・スー達がそれを観測することは無い。

その頃には、この世界に呼ばれる理由が無いのだから。

―― ―― ――

実験結果報告

From:  Lhaptherik Van Daznasch

To:  Z.N.

念のため、前回の実験結果も併記しておく。

No. F8-3537(前回)

被験者:加賀屋紀絵(アナザー・アース6535/管理番號28375)

目的:條件限定化による変異への影響力の検証、及びキャリアーの遠隔作時における能率検証

汚染條件:キャリアーに設定されているキーワードに罪悪を覚える

手順:

対象に接近、分離札をり付ける。

このさい、臥龍寺紗綾を分a、加賀屋紀絵を分a’、殘りを分bとする。

対象を転送魔法陣へと運搬。

転送先にて分aと分a’への分離を確認後、所定のポイントまでそれぞれを運搬。

bは施設にて保管、のち能力譲渡済みのビヨンド“グリッド・ライナー”のもとに屆ける。

bを人型化、及び能力付與し、キャリアーとして加工する。

監視員は連絡を取り合いながら分aおよび分a’の経過を観察。

bを作し、分a’の周辺を撹

その後、接

結果:

世界における一定期間の滯在に伴う、中度の概念汚染による変異が認められる。

これにより被験者の神に変調をきたしている。

および條件を満たしたことにより、本來なら緩やかに変異が進行するところを早回しにしただけと思われる。

能力の向上は前回の試験より24%ほど上回ったが、知能の低下は前回同様、ほぼ壊滅的。

通常なら制不能に陥る筈だが、“DS”が何らかの効果を及ぼしたのか、彼の指示にはある程度、忠実に従っているようにも見えた。

No. F9-0001(今回)

備考:

今回よりF班は、世界改変に関わったC班や黒魔中心のR班を統廃合し、スタッフを大幅に増員していることに留意されたい。

それに伴い、実験のアプローチもかなり変更が加えられている。

被験者:古ヶ崎ちひろ(地球966號/管理番號18533)

目的:世界改変および詳細な條件設定による変異への影響力軽減率の検証、及びキャリアーの自律行時における能率検証

汚染條件:生前、キャリアーの素と関わりのあった人が、五にて分霊の接近を知する

手順:

オークションより、被験者の心臓を落札する。

“Sound of Faith”のプログラムを改変、ログアウト不能狀態にする。

その後一定期間式を作、地球966號からSound of Faithを切り離す。

舊R班の出資でグリッド・ライナーを召喚し、能力を譲渡した上で前述の心臓を提供。

“アナザー・ワン”(グリッドはこれを“ハッピーエンド・カムトゥルー”と呼稱)を用い、疑似平行イミテイテッド世界転移者アナザーを生、キャリアーとして自律行させる。

エージェントJ、被験者に接し、依頼諾へと仕向ける。

ゆぅいにキャリアーを譲渡、そのさい、ゆぅいにはキャリアーを「洗脳したロナ」と説明。

被験者と生前に関わってきた人と接させて回る。

被験者本人、およびその家族と接させる。

結果:

世界における一定期間の滯在に伴う、中度の概念汚染による変異が認められる。

被験者の神は変調したものの、知能の低下は前回ほど顕著には見られず、理を保っている。

舊R班がこれまで行ってきた実験から、疑似平行世界転移者とオリジナルを接させた場合の神的な悪影響は他のアプローチに比べて非常に大きく、最悪の場合は廃人となることは周知の事実である。

意識を保持できたのは世界を切り離すことによる汚染率の軽減効果と推測される。

この環境を再現するためには、コストの関係上6ヶ月程度は待たねばならない。

なお“アナザー・ワン”未回収のため、次回の実験はグリッド・ライナーから回収するまで休止とする。

二つ目の“アナザー・ワン”作は効能を著しく損なうリスクがあるため、厳である。

それにしても、いまどき紙での送信とは。

毎度のことながら、不便な時代になったことを痛させられる。

この手紙が検閲されていないことを祈る。

―― 次回予告 ――

「ごきげんよう、俺だ。

今回は依頼主サマいわく、を連れて一緒に逃げろとの仰せだ。

ところがそこに、橫から雑多な連中が次から次へと首を突っ込んできやがる。

見覚えのあるツラも、そうでないツラもだ!

を追いかけに來た木っ端冒険者共!

行き場のない共の駆け込み寺“雙月の盃”!

の殺し屋、ナボ・エスタリク!

極めつけには、デュセヴェル管區長殿もお出ましとは!

そうそうたるメンバーには恐れったね。

有名になるのも考えものだ。

レクリエーションに、ナイトレースなんてどうだい。

パトロンは我らが偉大なる依頼主サマが名乗り出てくれるとさ。

……ところでお前さん、遠路はるばる何をしに來たんだい。

次回――

MISSION13: 代償の乙

さて、お次も眠れない夜になりそうだぜ」

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