《ダーティ・スー ~語(せかい)をにかける敵役~》Extend2 さあて、誰でしょう?

「――戻ったぞん!」

ツトムを後ろから突き飛ばしたのは、亜麻の跳ねっが活発な印象を與えるだった。

ビスチェで強調された大きなといい、ショートパンツからびる健康的な腳といい、どこかびた服裝だ。

「あれ? フィリエナ、早かったな? 中央産店でバイトじゃなかったか?」

「なんか大事な商談があるとかって、今日はもう店じまいなのよね……ま、日當はきっちり貰ってきたけど♪」

Vサインしつつ歯を見せて“にしし”と笑う活発――フィリエナ。

そしてその橫から、今度は黒いローブの小柄なが顔を出す。

「……」

濃い目の青紫のおさげといい、気そうな印象を與える。

「……言うて雀の涙なのです……やる意味あったのです?」

訂正。

やっぱり偏見って良くないね。

かなりの毒舌だ。

「あら、キャトリー。図書館で本を読み漁ってたあなたが言うわけ?」

「まぁ……だってフィリエナ、バイトより副業収のが多いのです」

「もっちろん! こんなのとか、こんなのとか~……あと珍しい葉っぱもくすねてきちゃった!」

などとフィリエナが腰のポーチから取り出したのは、僕達が追っている麻薬取引の証拠……つまり“葉っぱ”だ。

……え。

それ追いかけてたんだけど。

思わずみんなで指差してしまった。

「「「「「それ!」」」」」

「え? え!? なになになに!? あたし何かマズいもの拾っちゃった!?」

口元に手を當ててキョロキョロしだす。

大丈夫です。

むしろすごく助かります。

ちょっと訊いてみよう。

「フィリエナさん、その葉っぱが何処宛てなのかまではご存じないですよね?」

「ン~、流石にちょっと解らないカナ~?」

などと、フィリエナは頬に指を當てて首を傾げた。

が、僕達には必殺技がある。

「借りますね……リコナ。アレを」

「あいよ」

リコナはカバンから、細い棒の先端に付いたポンポンと、った瓶を用意する。

これで葉っぱを何度か軽くはたいた。

すると、指紋が浮き上がってくる。

「リッツ。ノートを」

「はい」

「照合してみよう」

指紋のリストがあるから、これに符合する人を探して、手當たり次第に接していくしかない。

「す、すっごーい! キミは科學捜査が得意なフレンズなんだね!」

「ツトム君、ごめんね? ちょっと大人しくしててくれない?」

「アッハイ……」

下手すると間違えちゃって、面倒なことになるからね……。

「一致しましたね。一番多いのは、マセリク・ホブレイのものです」

リッツが汗を拭いながら言うと、フィリエナがを乗り出した。

「マセリクっていうと、産店の店長じゃん!」

「じゃあ、の取引というのは……」

急がないといけないな。

「真正面から乗り込むぞー♪」

「「おーう!」」

盛り上がるツトム君達一行。

「いや流石にダメでしょ」

こんな締りのないメンツで大丈夫なのかな……。

―― ―― ――

中央産店に到著した僕達一行は、路地裏から様子を窺っている。

出発前に作戦會議をした通りの段取りで……落ち著け、僕達ならできる。

カギを握っているのは、遠江とおえさんとフィリエナだ。

「店長、店長ッ! ごめんなさい、開けてしいです!」

ドンドンドンッ。

観音開きの豪奢な大扉を、二人でノックする。

ノブの“CLOSED”の掛け札が揺れた。

「友達のパーティの子が、野伏せりトカゲの毒にやられちゃったの! 傷口からっちゃって……清ください!」

野伏せりトカゲは、この近辺には滅多に出てこないそうだ。

なのに何故この産店で売っているかというと、フィリエナいわく。

――『遠くからやってきた旅人さんの中には、管に毒が回ってたことに気付かないまま來ちゃった人がいる』

という。

遠江さんが毒でやられた人役。

で、フィリエナはこの店で在庫管理も経験しているから、忍び込むのは難しくない。

「一応、挨拶はしたからね~、店長さ~ん」

フィリエナは片手をメガホンみたいに口に當てながら、小聲で宣言する。

僕達はすぐに路地裏へと移した。

「馬鹿みたいに律儀なのです……」

「あらぁ~キャトリー? 律儀さに救われる事は沢山あるわよ?」

「だと……いいのですが……」

裏口に著いたら、次はリコナの番だ。

カチャカチャ――キンッ。

小気味よい音を立てて、裏口のドアのロックが外された。

「ほい、一丁上がりだ。アタイの腕に謝しろよ。このロック、一応はルーセンタール帝國でも有數の気難しいヤツなんだ」

とはいえ、リコナがやると隨分と簡単に開いてしまった。

有數の気難しいセキュリティとやらが、こんなので大丈夫なのだろうか。

なくとも、フィリエナは気にしないらしかった。

片足を上げて、敬禮を崩したようなポーズで微笑む。

「メルシー、リコナ♪」

「うっ、なんだよ、その挨拶……」

「いろんな國のコトバを覚えると、自然と出て來るものだよっ!」

「そ、そう……」

本家フランスでもそんな挨拶は普及していないと思うけど……。

「隨分、すんなりれたね……」

はかなり薄暗い。

話し聲どころか、僕達の立てる音以外の気配が無い。

、どこにいる?

どこにいるかが把握できていないと、いまいち不安だ。

「誰も居ないのかな?」

「まさかとは思うけど、會議自は別の場所でやるとか言ってたりしない?」

「いやぁ……ここでやるって言ってたわよ? お店でごろ寢したいって言ったら、邪魔だから帰れって」

バァンッ。

そんな音がして、勢い良く扉が開かれた。

「ここか! 見付けたぞ!!」

まずい!

衛兵達がなだれ込んできた!

気付くのが早すぎる……まだ五分と経っていない筈……!

を構え始めたみんなを、僕は手で制す。

ここで爭い合ってしまえば、國を相手に正面から戦わなきゃいけない。

それだけは、駄目だ。

衛兵の一人が、リッツを指差す。

「貴様がナボ・エスタリクだな!」

え?

……誰?

「ええぇ!? わたくしが!?」

というリッツの反応からすると、知ってる人なのかな。

「お言葉ですが衛兵さん、わたくしはアレを忌み嫌う側ですよ」

「信用できるか。エルフは平気で噓をつく」

くっ。

僕の出番か!

「彼が保のために噓をつく輩じゃないことは僕が保証します」

「冒険者なんて人生の落伍者が“保証”だなんて立派な言葉を使っていいのか? さっさと縄につけ」

と、ここで。

ツトムがするりと、衛兵とリッツの間に躍り出る。

「待った!」

ツトムは、まるで歌舞伎役者の“見得”のようなポーズで右の手のひらを衛兵に向けた。

対する衛兵の反応は、何とも冷淡だ。

「何だ。髪は黒いし顔は平たいし、お前も亜人か?」

その理論だと僕も亜人扱いになるね。

「うるせーやい! ……そうじゃなくて、俺達はとあるを保護する為にいている。

は帝國の領で、帝國出の誰かの子を籠った可能が極めて高い。この意味がわかるな?」

ごめん、わかんないよ。

追いかけてる人が妊娠してた事すら初耳だよ。

「ま、まさか……!」

どうやら衛兵はわかるみたいだけど。

僕は知らないから訊く。

「ツトム君。詳しく教えてもらえるかな」

「待ってました! 帝國が新たに推し進めている制度……“名譽出産制度”について説明しよう」

「……なにそれ」

思わず目が點になってしまう。

聞き慣れない単語だからというのもあるけど、々と酷そうな字面だ……。

けれどツトムは得意そうに人差し指を立てて話す。

「戦や栄養失調、他にも経済的な事に端を発する子化問題の対策として、が帝國領で帝國出の男と、その、の営みをしてだな……」

そこ言いよどむなよ。

ほら、衛兵さんが続きを言うぞ。

「――帝國に住まうが領で帝國出の男から子種をけ取って妊娠した場合は報奨金が支払われるのだ。

審査によって、男側の階級、生まれた子の別、重さなどで點數が加算されていき、AランクからFランクに分けられ、それに応じた報奨金が與えられる」

やっぱり酷い制度じゃないか……。

あれ?

引いてるの僕だけ?

「ヴィクトラトゥス宰相閣下による起死回生の一手であり、また帝國の國民全員に周知させるべき一大事業である」

「これなら娼婦もわざわざ避妊を使わなくていいし、男側も名譽出産させたを沢山登録するとボーナスが支給されるっていう夢のような制度だろ?

子育て世代応援プロジェクトだ! 俺の故郷もそういうのがあったら子化を防げただろうに。そう思うだろ、マキト?」

「どうだろう……僕には、解らないよ」

……狂ってる。

夢のようだって?

産むときの痛みとか、育てる大変さは勘定されないんだろ?

まるで悪夢だ。

金のために産んだ子になんて注げるものか。

たとえ本人が良くたって、周りはそうは思わないだろ。

けど、衛兵はそんなの知ったことじゃないらしく。

ツトムと握手までしていた。

「ツトムとやら……お前は冒険者にしては、話のわかる奴らしいな」

「いやぁ、それほどでも! で、俺のパーティは、その栄えある名譽出産を控えた大切なの人を探してる……何か報があれば教えてしいんだが」

「妊婦の目撃報は無いが、ひとつ気掛かりな話があったな……」

「なんだ?」

「落日の悪夢が門を壊していった」

「……ダーティ・スーが? それは本當なのか?」

もう、街の外だ。

嫌な予はするけど、今はこの狀況を切り抜けるほうが先決だけど――。

上の階から、人が何人もやってきた。

まずは発言者の……細ながらも筋がありそうな、淺黒いの男。

「おい、衛兵さん。見回りならさっき済ませたばかりじゃないか。なんだってうちの店に……あれ、お前ら……」

両隣には背中を丸めた老人と、ごく標準的ななりの商人達。

で、それを囲うように付き従っているのは、ゴロツキ達。

見るからに怪しい。

「すみません、マセリクさん。清を貰いに來てまして」

フィリエナが弁解すると、老人が淺黒いの男――マセリクに耳打ちする。

「……ふむふむ。まあ、そういう事だったら仕方ないか。ちゃんと金は払っていけよ」

その言葉に安堵のため息が出かかった。

けれど。

「――だが、お前達の中にナボ・エスタリクが潛んでいないとも限らないよな?」

くそ!

やっぱり僕は馬鹿だった……これは完全にハメられた!

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