エレベーターのボタンを押して彼らはそのまま待機する。一分もすれば、地下十三階にあるヘテロダインアジトのり口に到著する。

香月は開扉ボタンを押して、左手で彼を促す。

それを見てアイリスは素直にそれに従った。

廊下を進むと再び扉にぶつかる。

扉の隣にある小さな箱に香月は指を押し當てる。

數秒後、電子音とともに扉が開かれた。

「ここから、ヘテロダインのアジトになる。一応言っておくけれど、悪いことはしないほうがのためだよ」

「それくらい解っているわよ」

アイリスは當然とも言える意見に頷くと、香月のあとをゆっくりとついていく。

香月はそれを見て小さく溜息を吐くと、彼をエスコートしていく。

彼はヘテロダインに招かれた『客人』なのだから、それ相応のことはしなくてはならない。彼の意志を確認したのだから、それは猶更と言ってもいいだろう。

「それじゃ、ご案するよ。ようこそ、ヘテロダインアジトへ」

香月は微笑む。

それを見てアイリスは一瞬たじろいだが――すぐに冷靜を取り戻し、彼の後をついていく。

◇◇◇

「おや、珍しい客人だね」

ユウの部屋にろうとノックをしたところ、あちら側から開けられた。

拍子抜けした彼だったが、仕方なくそのままっていくことにする。

「アイリスというを匿ってほしい」

開口一番、香月は言い放った。

「君がそう言うなんて、珍しいことじゃないか？」

香月の言葉が相當珍しいことだったらしく、ユウはせせら笑っていた。

「急事態だ。詳しくは彼の話を聞いてほしい」

「知っているよ。彼のことは『読める』。君は私のことを々買い被っているように見えるが？　それとも、君は私のことを――甘く見ているのか？」

「いいや、そんなことは無いよ。組織に所屬している魔師にとって、組織のボスを裏切ること、イコール組織をすることと等しいからな。それに、それをするということは魔師稼業がし辛くなることと等しい。そんなことを進んで行う魔師は何も考えていないか、自分でこの世界を買えようとかいうばかげた思想を持った人間のいずれかに過ぎない」

「……る程ね。それはそうだ。実際、あの事件以降、私の元を去ろうとした魔師は一人もいなかった。當然だろうな、ヘテロダインはホワイトエビルを倒したことにより、日本でも最大勢力となったと言っても過言ではない。ヘテロダインを凌駕する魔師組織などアメリカの……」

そこまで言ったところで、ユウは一瞬口を噤んだ。

「おい、まさか……彼がやってきた理由って。アレイスターと全面抗爭するつもりじゃないだろうな!?　やめろ、そんなことしてはならない！　はっきり言おう、あの時、ホワイトエビルに勝つことが出來たのはまったくの偶然だ！　ヘテロダインとホワイトエビルの勢力差は一目瞭然だったし、ボスの戦力差も酷いものだった。あの巨大コンパイルキューブを制したからいいものを、あれが出來なかったら完全に失敗していた！　夢実ちゃんが裏切ったことと、ホワイトエビルに関與していた謎の科學者が逃げ出したからこそ計畫が功したというのに！　それも無いという今回、完全に我々に勝ち目は無い！」

「……じゃあ、この街を捨てるってことか!?　魔師組織として、ずっとヘテロダインはここに居たのだろう!!　その著のある街を、海外からやってきた勢力にはいどうぞ、って渡してしまっていいのかよ!?」

「いい訳ないだろう!!」

ユウは激昂する――そこで、彼は漸く狀況に気付き、深呼吸を一つする。

そしてアイリスに謝罪する。

「済まなかったな、見苦しいところをお見せしてしまって」

「いえ、それくらい予想出來ていましたから。私がここに向かうことを決斷した、その時から……。爭いや諍いが起きるのは解っていましたし、理解していました。ですから、特段驚くこともありません」

「……そうか。アイリス、ほんとうにあなたは変わらないわね」

「え？　アイリスとボスは……友達？」

「いう程そういう関係でも無いよ」

そう言ってユウはワイングラスを傾ける。

「そうですよ」

ユウの言葉に被せるようにアイリスも言った。

「――ただの同じ意志を持った『仲間』です」

アイリスの言葉に首を傾げる香月。

別に単語に違和を抱いたわけでは無い。

その言葉を言った――それ程の関係ということが予想外だったからだ。アイリスの年齢は見たじ……香月と同じかしだけ大人くらい。つまり十四から十六歳程度だと思ったからだ。

しかし、あの騒があったのはなくとも十年以上前のことだ（ここで年月を明言してしまうと、そこからユウの年齢が解ってしまうため、組織では明言することを避けている。もし避けなければそのに雷が當たることになる）。ということはアイリスが魔師になったのが四歳から六歳――それははっきり言ってほぼ不可能に近いと言っても過言では無い。なぜなら現時點で魔師の最は十二歳、小學六年生だ。四歳から六歳で魔を行使できる魔師など、今まで聞いたことが無い。

「……年齢を気にしているのかい？」

ユウの言葉に、彼は我に返る。

こういう時は噓を吐かないほうがいい。――どうせ魔で解ってしまうのだから。

だから彼は素直に頷いた。

「うん。素直なのはいいことだ。心するよ。最近は噓を吐く人間が多いからねえ。どうせ魔で解ってしまうんだから、はっきりと言ってしまえばいいのに……って思うことが多々あるよ。香月クン、君もそう思わないかい？　……と、今はなくともそんなことを話している時間では無かったね」

ユウは咳払いひとつする。

「さてと、それじゃ本題に戻ろう。アレイスターとの全面抗爭。これを私がしたがらない理由……解るかい？　言っておくが、別に自分のエリアを気にしているわけでは無い。それ以上の理由だよ」

「それ以上の理由？」

「アレイスターには新しい魔師がったのだよ。そしてその魔師はどれも鋭……。當然だよね、アレイスター自最初に作られた魔師組織だ。そこにることが出來るだけ、魔師としての箔がつくし、魔師としてもレベルアップ出來る。それをアレイスターのトップも解っているからこそ、審査も厳しい。結果として、優秀な魔師があちらに揃うわけだよ」

「……そして、その新しい魔師、とは？」

「まあ、そう急かすな」

ユウは空になったワイングラスにワインを補充する。

ワインが並々に注がれたグラスを傾け、そのを口の中に流し込んでいく。

「アレイスターには、忌と言える魔を行使できる魔師がったと言われている。それは『絶死魔』――どういうメカニズムかは知らんが、人を必ず殺すことの出來る魔だ。なぜ殺すことが出來るのかは知らない。外傷なんて見當たらないのだからな。はっきり言って、その魔を使われて死んだ人間は『突然死』だ。そういう魔師が居る。そんな魔師にどう対策を立てるというんだ？」