《都市伝説の魔師》幕間 ある魔師の邂逅
ハイテクノロジーが結集する木崎市にも、普通の町だった時代がある。
そのことがすぐに解る場所というのは、木崎中央小學校である。
木崎中央小學校の地下には、巨大迷宮が広がっている。かつて木崎市が炭鉱都市だった時の名殘である。
その一部はかつて小學校の校舎として使われており、教室も殘っている。
そして地下六階。
そのフロアーにはかつて室と保健室があった。
室には一の石像が置かれている。
その石像は年をかたどった石像であった。
その石像は泣いている年を忠実に再現したものであると言われている。
あまりにも忠実過ぎて、生きているのではないか――そう言われているくらいに。
だが、それが本當かどうか確かめるすべはない。
その石像が眠っているのは、地下六階。何故かはわからないが、鉄格子と最先端科學の警備システムが地下への扉を守っているからだ。
そこに通う年たちは呟く。
どうしてあそこを厳重に守るのか、と。
年たちは呟く。
どうしてそれほどまでの価値があるのか、と。
それを知るのは年たちでは無い。
それを知るのは――彼らでは無く、別の立場の人間だろう。
時間はしだけ遡る。
夜の町を、モノレールが走っていた。
時刻は七時を回った辺り。この時間を過ぎれば、乗客のカラーも次第と學生から社會人へと変貌を遂げていく。
そんな中、が違う一人の。
柊木夢実はモノレールの中に揺られていた。
別に彼はただ帰り道、モノレールに乗っているだけに過ぎない。普段は歩いて帰っているのだが、今日のように遅くなってしまった日は一人で帰るには道が暗いので、モノレールを使っても良いことになっている。それは家族の間でそう決められている。
その時。
彼の下腹部が――何者かの手にれた。
偶然ではない。
なぜなら、その手はいて、彼の下腹部を弄んでいくからだ。
(こんな混雑の中で癡漢? なんというか、普通すぎやしないかしら……)
彼は聲を上げようと、した。
その時だった。
「聲を上げようったって無駄だよ。聞いたことは無いかい? 木崎市に伝わる都市伝説の一つ……『五両目の魔』ってことを」
五両目の魔。
木崎市に住んでいる彼がそれを知らないわけが無かった。木崎市が運営するモノレールは木崎市をぐるりと囲むように走る環狀線と、その環狀線の中心を突っ切るように走る中央線がある。その中でも環狀線では時間は特定されないが、一日のうちのある列車で必ずと言っていいほど『人が消える』というのだ。そもそもそんなことが起きたら市が何か発表するだろうし、そんな都市伝説ごときで終わるはずもないのだが。
聲は続く。
「……どうやら、その表からするに、まだ信じ切っていないようだね。五両目の魔、という都市伝説について。いいや、そう言ってしまうと都市伝説に悪いな。何せあれは『実在』しているのだから」
「実在している……ですって?」
「ああ」
「聞いたことは無いかい? 『きさらぎ駅』って名前の都市伝説を。まあ、あれはあまりにも有名すぎるから知っているか。ほんとうはあれの『力』を手にれたいのだけれど、強大過ぎる。使いこなすのも難しいだろう。だから、僕たちは木崎市の都市伝説で代用した。まさかこんなにも都市伝説が集まるとは思いもしなかったよ。これなら充分にエネルギーをため込むことが出來る。謝してくれよ」
「謝……ですって?」
そこで夢実は自分が立つことも出來ないほど弱っていることに気付いた。
なぜこうなってしまったのか――ただれられているだけだというのに。
「ありゃ? もう限界かい。若い魔師が強いっていうから試してみたのだけれど……これじゃダメだね」
「誰を間違えているのか解らないけれど、おあいにく様。私はただの魔師よ」
「……まあいいや。いいエネルギー源になるだろう。これほどの力を持っているのなら。一緒に來てもらうよ」
気が付けば窓の外には何も見えなくなっていた。ネオンサインも車のも、何もかも。
「……り始める。僕たちの世界とは違う、もう一つの世界へ。さあ、一緒に向かおう。楽しい世界だ。楽しい時間の始まりだ!」
「いや……いや……。助けて、助けてよ、お兄ちゃん……!」
そして。そして。そして。
柊木夢実は車両ごと、どこかへ消えた。
次の日の朝、とあるSNSに、こんな書き込みがあった。
「最終電車を過ぎても、私の家族が帰ってこない」
その書き込みは多數だったが、それはただの戯言として処理された。
誰もその言葉を信じなかった。
ただし、その言葉はしして、ある都市伝説へと結び付けられることとなり――結局、噓つきだという結論に至る。
その都市伝説の名前は、五両目の魔。
木崎市の市民で、インターネットに詳しい人間ならば知らない人間は居ないと言っても過言では無い、有名な都市伝説だ。
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