《都市伝説の魔師》第二章 年魔師と『地下六階の年』(9)
7
目を覚ますと、彼の視界には白い天井が寫り込んでいた。
「……知らない天井、か」
「冗談を言える余裕があるのなら、大分回復したということでいいのかな」
起き上がると、そこにはユウが椅子に腰かけていた。
ユウは林檎の皮を、ナイフを使って剝いていた。
「ああ、起き上がらなくていいよ。まだ傷が痛むだろう? だったら、回復させて萬全の態勢にしておくのが一番だ。あいにく、あちら側からのアクションは未だ見られないがね」
「學校はどうなったんだ! それに、都市伝説は……!」
「殘念ながら、奪われた。しかし被害者はゼロ。でも子供たちには恐怖心が植え付けられたことだろうね。魔師に対する信頼も、世間に対するものが失墜した。我々も今、警察に監視されている。君もだよ、柊木香月クン」
「まさか……失敗したのか? そして、あんたはそれについて、手を拱いていたというのか!?」
「手を拱いていた、か……。言いたい気持ちも解る。だが、あの時は行できなかったのだよ。変に私たちが行をしてしまえば、謎の組織と既に警察に名前を知られている魔師組織ヘテロダインとの組織間抗爭、ということで結論付けられてしまう。その先に見えているものは、我々の解だ」
「……確かに、な」
香月は俯いて、そう言った。
「あれ。意外とあっさり言ってくれたね? 何か君の中で心変わりでもあったとか……」
「別に。何だって構わないだろ。ただ、やることがあるのだから、まずはそれをしなくてはならない……ということだけだ」
「そう言ってくれると、僕もこれからの行をしやすいのでとても助かるよ」
ドアのにいた誰かが、病室へとってきた。
スーツ姿の男は、右手に紙袋を攜えていた。
そして、その男は香月も見覚えがあった。
「高知、隼人……か?」
「その通り。そして、今から大事な會議を執り行うというわけだ」
「會議?」
「ああ。君たちの組織が警察の監視下に置かれているのは知っているね?」
コクリ。香月は頷く。
それでいい、と隼人は言って話を続ける。
「先ずはそれを理解してくれないと話が始まらないからね。まあ、理解しなくてもいいのかもしれないけれど」
「そんな回りくどいことを言うためにわざわざお見舞いに來てくれたというのか? 國家権力というのは暇人ばかりが集まっているんだな?」
「香月クン!」
ユウが激昂するが、隼人はそれを宥める。
「まあまあ、いいではありませんか。別にそのようなことで琴線にれるほど、私も子供ではありませんから」
隼人は一歩、香月の方へと近づく。
「……それに、彼はもう一生魔師には戻れないのでしょう?」
「……え?」
香月は突然のことに何も言えなかった。
慌ててユウの方に目線を向けるが、ユウはそれについて目をそらすだけだった。
隼人は笑みを浮かべる。
「お伝えしましょうか。今、君のに起きていることについて。一番、それを聞くのがつらいのは本人だと思いますが」
「あなたは學校に向かう途中、『通り魔に狙われてしまった』。木崎市に通り魔が居ましたのは、ニュースでもよく言われていましたからねえ。あなたは運悪くそれに出會ってしまった。うん、とても運が悪い。通り魔は殘忍なやり方をしていてね。聞いたことはあるかい? そいつは臓を奪い取るんだ。どの臓かははっきりしていないがね。人によっては心臓もある。脳を取り出したケースもあったかな。そこで君は……殘念なことに男をで見分ける、數ないパーツを持っていかれた。それにより臓も損傷。一度は死にかけたんだよ。だが、通りすがりの通行人に君がまみれで倒れている姿を見つけて救急車で運ばれて……。うん、こんなところかな。実際問題、君は助かった。けれど、その代償として魔を使う力を失った。即ち君はただの一般人にり下がったということになる」
「あの……。り下がった、というのは々表現がよろしくないのでは?」
背後からユウの聲がかかり、隼人はそのことに気付く。
「おお、そうでしたね。すいません、つい強めの表現を使ってしまうのですよ。警察としての職業病かもしれませんね、ハハハ」
「……軽口を叩くために來たのならば、さっさと帰ってもらおうか」
「冗談だと言っているだろう。つれないねえ、君も」
「未だあまり會話をわしていなかったはずだが? どうしてそういう風に扱う?」
「そりゃあ、君を助けたいと思っているからだ」
「助ける?」
その言葉を聞いて、今まで俯いていた香月は顔を上げた。
「……出來るのか、そんなことが」
「サンジェルマンの逸話を聞いたことはあるかい?」
「サンジェルマン? ああ、有名な魔師だな。不老不死を実現した、最初で最後の魔師だろう?」
「ご明察。では、サンジェルマンの丸薬については?」
「魔師が躍起になって探しているという薬だな。何でも飲めばが回復し、欠損したものが治るという……。おい、まさか」
そこで香月は気付き、隼人に訊ねる。
隼人は笑みを浮かべ、言った。
「ああ、その通りだ。僕は君を助けることが出來る」
隼人ははっきりと彼に、そう言った。
――それが『理想』だった。
◇◇◇
現実は、理想以上に乖離していた。
心拍を知らせる電子音だけが部屋に響いていた。
「……これは」
扉には『面會謝絶』の札がかかっている。
「ユウに言われたからここまで連れてくることは出來たけれど、殘念ながらここからはダメ。いくら彼に言われてもね」
「……彼の容態は?」
「最悪だ。あれを見ればわかる通り。今、死と生の境界を彷徨っているとでも言えばいいか? いずれにしてもあまりいい狀態では無いということは、醫學に疎い警察サンでも解ることだろう?」
「……」
隼人は何も言えなかった。
ユウ・ルーチンハーグに話を聞いたときは、未だ彼は記憶障害がある程度で特に問題は無いと言っていたのに、僅か數時間でここまで容態が急変するなど思いもしなかったのだ。
「彼は、助かるのか?」
隼人は震えた聲で話す。
彼もまた揺しているのだ。
【書籍版・講談社ラノベ文庫様より8/2発売】いつも馬鹿にしてくるモデルの元カノも後輩も推しのメイドも全部絶縁して好き放題生きる事にしたら、何故かみんな俺のことが好きだったようだ。
【書籍化・コミカライズが決定しました!】 「優太君って奴隷みたい」 その罵倒で、俺は自分を見つめ直す事ができた。 モデルの元カノも後輩も推しのメイドも、俺を罵倒してくる。そんな奴らは、俺の人生に必要ない。 無理してみんなに優しくする必要はない。 これからは、自分の思った事を素直に言って、やりたい事だけをやろう。 そう決意した俺の人生は、綺麗に色付いていく。 でも、彼女達の行動には理由があってーー? これは、許す事からはじまる物語。 ※日間ランキング1位(総合、現実世界戀愛) ありがとうございます!拙い部分も多いですが、今後もよろしくお願い致します。
8 92【書籍化】宮廷魔導師、追放される ~無能だと追い出された最巧の魔導師は、部下を引き連れて冒険者クランを始めるようです~【コミカライズ】
東部天領であるバルクスで魔物の討伐に明け暮れ、防衛任務を粛々とこなしていた宮廷魔導師アルノード。 彼の地味な功績はデザント王國では認められず、最強の魔導師である『七師』としての責務を果たしていないと、國外追放を言い渡されてしまう。 アルノードは同じく不遇を強いられてきた部下を引き連れ、冒険者でも始めようかと隣國リンブルへ向かうことにした。 だがどうやらリンブルでは、アルノードは超がつくほどの有名人だったらしく……? そしてアルノードが抜けた穴は大きく、デザント王國はその空いた穴を埋めるために徐々に疲弊していく……。 4/27日間ハイファンタジー1位、日間総合4位! 4/28日間総合3位! 4/30日間総合2位! 5/1週間ハイファンタジー1位!週間総合3位! 5/2週間総合2位! 5/9月間ハイファンタジー3位!月間総合8位! 5/10月間総合6位! 5/11月間総合5位! 5/14月間ハイファンタジー2位!月間総合4位! 5/15月間ハイファンタジー1位!月間総合3位! 5/17四半期ハイファンタジー3位!月間総合2位! 皆様の応援のおかげで、書籍化&コミカライズが決定しました! 本當にありがとうございます!
8 87転生先は現人神の女神様
結婚もし、息子と娘も既に結婚済み。孫の顔も見たし、妻は先立った。 89歳の生涯……後はペットと死を待つだけ。 ……だったはずなのに、現人神の女神に異世界転生? お爺ちゃんはもういない! 今日から私は女神様。 精霊が暴れてる? そうか、大変だな。頑張れよ。 人間は神々に選ばれた種族だ? 何言ってんだこいつ。 助けてくれ? 國が大変だ? おう、自分の國ぐらい自分達でなんとかしろ。 可愛い精霊達の為に未開の地開拓しよっと。 ハーレム? 逆ハー? 他所でやれ。お前の息子? いらねぇよ帰れ。 見て見て! 魔法使えば川で海上スキー的なのでき……へぶぅ!? そんな女神様の話。 あらそいは どうれべるでしか おこらない by めがみさま どう足掻いても主人公最強。 ※ 初めての投稿、どころか初めて小説を書きます。 2017/07/02 なんとなくあらすじ変更。 2017/07/07 完結しました。
8 95人喰い転移者の異世界復讐譚 ~無能はスキル『捕食』で成り上がる~
『捕食』――それは他者を喰らい、能力を奪うスキル。クラス転移に巻き込まれた白詰 岬は、凄慘ないじめで全てを奪われ、異世界召喚の失敗で性別すら奪われ、挙句の果てに何のスキルも與えられず”無能”のレッテルを貼られてしまう。しかし、自らの持つスキル『捕食』の存在に気づいた時、その運命は一変した。力を手に入れ復讐鬼と化した岬は、自分を虐げてきたクラスメイトたちを次々と陥れ、捕食していくのだった―― ※復讐へ至る過程の描寫もあるため、いじめ、グロ、性的暴力、寢取られ、胸糞描寫などが含まれております。苦手な方は注意。 完結済みです。
8 143手違いダンジョンマスター~虐げられた魔物達の楽園を作りたいと思います~
神がくしゃみで手元が滑り、手違い、と言うか完全なミスによって転移させられ、ダンジョンマスターとなってしまう。 手違いだというのにアフターケア無しの放置プレイ、使命も何もない死と隣り合わせのダンジョン運営の末、導き出された答えとは!? 「DPないなら外からもってこれば良いのでは? あれ? 魔物の楽園? 何言ってるんだお前ら!?」
8 182香川外科の愉快な仲間たち
主人公一人稱(攻;田中祐樹、受;香川聡の二人ですが……)メインブログでは書ききれないその他の人がどう思っているかを書いていきたいと思います。 ブログでは2000字以上をノルマにしていて、しかも今はリアバタ過ぎて(泣)こちらで1000字程度なら書けるかなと。 宜しければ読んで下さい。
8 127