《いつか見た夢》第6章
あれから一週間が経った。ストーカー野郎は、今のところ不気味なくらいに姿を見せない。 
奴の姿を見たのだって、たった一度きりだけだが、例のコールタールのような視線を、ここ數日間、ただの一度もじなかったためだ。 
だがしかし、こういう時こそ油斷してはいけないのだ。この數日間は、言うならば嵐の前の靜けさと言っても過言ではないはずだ。 
計算高い奴のことだから、何か企てる準備をしているに違いないのだ。この一週間は、こちらを油斷させ、陥れるための準備と潛伏期間に違いない。 
奴にとっての、この期間が後どれほどなのかは分からない。だが俺には、決して油斷はないと思うんだな、ストーカー野郎。 
「ねぇ、お兄ちゃん」 
「なんだ?」 
「例のあやちゃんのストーカー……最近何も音沙汰なくなっちゃったけど、諦めたのかな?」
沙彌佳の言葉に、綾子ちゃんもこちらをうかがっている。
「まだなんとも言えないが……俺は諦めてなんかいないと思う」 
綾子ちゃんは、もしかしたらと思っていたのだろう、途端にその整った眉を眉間によせた。 
「あれだけのことをするような奴だ、多分、そう簡単に諦めることはないはずだ」 
時間は遡るが、俺は誓いを立てた翌日、休日ということもあって、青山を引き連れ、綾子ちゃんのうちに再び訪れた。本格的に、家の中にあるであろう、盜聴や例のカメラを探すためだ。
青山は、俺にはよく分からない道を使い、盜聴を探し始めた。一高校生が持つようなではないと思ったが、口にはしなかった。
沙彌佳と綾子ちゃんは、初めて會った青山に戸いはしたが、そのに打ち解けたようだった。沙彌佳も綾子ちゃんも、元々人を外見だけで判斷しないため、青山の仕事を興味深げに見ていた。 
結果、家の中には、ほぼ一部屋に一つから二つもの盜聴がしかけられていた。例のカメラも、綾子ちゃんの部屋は言うに及ばず、二階のトイレや洗面所、所と風呂にあったのだ。 
しかも、それらはうまくカムフラージュされ、青山の言うところでは、完全に、新しいに取り替えられていたのである。 
そして、その新しく取り付けられたに、例の高能カメラを仕掛けたのだ。全く……あまりの徹底ぶりに、俺はもはや呆れてものも言えない。
當然、綾子ちゃんはそれらが見つかっていく度に、顔面を蒼白とさせていったのは、言うまでもなく、さすがの妹も、最初のように興味津々とはいかなかったようだ。 
特に、自分の部屋に仕掛けられていた時には、あまりの気恥ずかしさに、部屋にろうとすらしなかった。
けれど、不謹慎な話、俺は別の意味でドキドキしてしまっていた。きっと青山にいたっては、なおのことだろう。
その後、綾子ちゃんの家を出て、再びうちにもどってきた。もちろん、青山も一緒だ。今度はうちを、例の機械を使って探索してもらうためだ。 
綾子ちゃんがうちに來てから、そういったものが仕掛けられていないと限らない。 それに、うちは綾子ちゃんの家に比べ、比較的侵しやすい作りなのだという。
なるほど、ならばうちにもそれがないかどうか、確かめてみたくなったのだ。うちは晝間は、誰もいなくなりがちだ。それを考慮すれば、しておくに越したことはない。
案の定、早速いくつかの盜聴がしかけられていた。數そのものは、綾子ちゃんの家の比ではなかったが、これには俺も沙彌佳も、開いた口が塞がらなかった。 
例のカメラも一応探してみはしたが、見つけられなかった。 
カメラは、かなり徹底されたカムフラージュが施されていたことを考えると、そう簡単に、取り付けられるものではないと言う。 
青山は、一通りの仕事を終えると、俺に機械の使い方を教え、帰っていった。さすがにいくらなんでも、毎週毎週、付き合わせるわけにはいかない。
俺は帰り際に、禮を言い、移中に青山の姉貴が、なぜか事あるごとに視界に映っていたことを告げると、綾子ちゃんに代わって、今度は青山が顔を青くさせていった。 
「……でも、とりあえず今すぐにでも、奴が何か仕掛けてくるとは思えないけどな」 
二人をしでも安心させようと言うが、そんなのは、気休めに過ぎないのは分かっているつもりだ。
二人を學校に送り屆け、俺も高校へと向かう。 
青山に依頼した件も、まだ全容は摑めていないし、奴も何も仕掛けてこない。自分でこうにも、頼みの綱である、青山がまだ分からないと言うのなら、八方塞がりというものでどうしようもない。 
何かあれば隨時、俺に連絡するように言ってあるから、今は焦らない方がいいだろう。
(とにかく、青山の結果待ちだな……) 
俺は小さくため息をついた。 
放課後、教室から出ようとした時、青山に呼び止められた。 
「九鬼くん。ちょっといい?」
「ん? ああ」 
この數日、青山は人が変わったように思う。まず、喋り方が以前のようなボソボソとしたものではなくなっていた。依然、小聲ではあるが。 
どうも聞くところによれば、彼ができたということだった。最初は、その話を聞いて羨ましいと思ったりもしたが、相手のことを聞いてゾッとした。 
ショートパンツを履いた、溌剌とした年上のお姉さんだった、という話だったからだ。青山の家にいった際に、脳裏をよぎったことが再び、蘇ってきたのだ。
この先、こいつがどういう人生を歩むかは知らないが、決して穏やかなものではないと悟った。 
この男の雰囲気が変わったのは、その覚悟の上だからかもしれない。
「……ここじゃちょっと無理そうな容か? って、當然か」 
青山は頷いた。今、掃除當番達が教室を掃除し始めようとしていたので、俺たちは例の技棟へと赴いた。 
「ね、ねぇ……ここってっちゃいけないんじゃなかったっけ?」 
「まぁ、本當はな。でも、意外に大丈夫みたいだからさ」 
俺達は、技棟の屋上への扉がある場所まできた。それにここなら、気兼ねすることなく話せると思ったからだ。
「例の件のことだろ? 話を」 
聞かせてくれ、とまでは言えなかった。 
「あなたたち、何してるの?」 
突然の聲に俺達は驚いて、階下に目をやった。そこにはあの、藤原真紀があの時と同じくして、そこにいた。 
「とりあえず、あのカメラのことだけど……」 
あの後、藤原真紀に屋上の扉を開けてもらい、屋上で話を聞くことになった。 
「どうも、ある大企業が依頼して作ったものらしいんだ」 
「ZONYとかか?」
青山は首を橫に振った。 
「分からない。それ以上、匿になっていては無理だったみたいだから。ただ、作るよう依頼したのは、ある製薬會社なんじゃないかって。でも、あれは逐一監視する目的で作られたのは、間違いないよ」 
「製薬會社? 製薬會社がなんだって、そんなものを………まぁいい。いずれ分かるかもしれないしな。
それでその口ぶりからすると、あのカメラ、使ってみたのか?」 
青山は、意味ありげな含み笑いをしながら続ける。
「試しにね。はっきり言って、ただの監視カメラのレベルじゃないけどね、あれは」 
青山が言うには、昔の劣化したビデオテープから、一気に最新のブルーレイにまで飛躍している程なのだと言う。 
「……何か、別の目的があって作られたってことか?」
「それも分からない。でも、友達も同じことを言ってたよ」 
「まぁいい。それも気にはなるが、問題はどうしてそんなものを、何臺も奴が持ってたかってことだ」
「いくつか推測はできるけどね。そもそも、その依頼した企業の人間だったとか。もしくは、作った企業側の人間だった、とかね」 
「……あるいは、元々非合法のものを売りさばく売人、か」 
「それもありうるね」 
「だが、もし仮に売人だとして、本當に自分の商品なら、売らずにあんなことに使ったりするものかな?」 
「どうだろ? でも、九鬼くんの言うストーカーなら、ないとも言えないかも」
確かにそうだ。奴は、邪魔になった俺を殺そうとしたのだ。利益うんぬんなんてものは、どうでもいいかもしれない。 
もちろん、それは推測の一つに過ぎない。奴が、ただの客の可能だってある。 
「奴が客の可能もあるよな?」 
「もちろん、ないとは言えないね。今だったら所謂、株長者っていう人種もいるしね」 
「なるほど。株で稼いだ金で、趣味の悪いことにつぎ込んでいるわけだ。そいつが本當なら、全く、金使いのいいこったな」 
「それに、あれがいくら市場に出回っていないと言っても、企業が全くの無償で作っただなんて考えられないよ。
企業間にしろ、なんにしろ、かなり法外の値段がすると思うんだ。一臺だけならまだしも、個人で何臺も所有するには、相當なお金が必要なのは間違いないよ」 
青山のいうことは、ごもっともだ。
青山が黙り込んで、再び口を開きかけたとき、先程まで素知らぬ風に、俺達からし離れた場所にいた真紀が、口を挾んできた。 
「それはどうかしらね」 
「なんだ? ……部外者が口挾むもんじゃぁないぞ」 
「そうね。でも考えが纏まらない時こそ、第三者の意見も取りれるべきじゃない?」
「あんた、話、聞いてたのか」 
「別に聞きたくて聞いてたわけじゃないわよ。たまたま耳にってきていただけ」 
青山は、どうもこのが苦手のようで、態度にそれが出ていた。もちろん俺だって、あまり好きではない。外見が悪くないだけに、妙に癇に障るのだ。
「……そうかい。で? その第三者の意見ってのを聞かせてくれよ」 
「あら、聞く気になったの?」 
「あんたが言い始めたんだろ。さっさと言いなよ」 
「もう、せっかちね。まぁいいわ。あなたたち新聞は読む?」 
「一なんの話だ。俺はそんなこと、これっぽっちも聞いてないぞ」 
「いいから。新聞は読む?」 
「ちっ……読むけど、それがどうした」
青山も、続いてそれに肯定する。 
「新聞って、いかに早く、いかに正確に報を伝えるかというのが、役割よね」 
真紀は、俺と青山の顔を互に確認して、話を続ける。 
「でもね、その報がもし、必ずしも本當でなかったら? 起こった事柄が本當でも、その容が歪められていたら? ……そう考えたことはない?」 
一何が言いたいのだ、このは……。 
「誰かに意図的に、報作されてると言いたいのか?」
「まぁ、そうなるかしらね」 
真紀は、俺の目を見據えながら言った。 
「……ない……とは言えないと思う」 
「おいおい。青山はこんなの言っていることを、信じると言うのか?」 
「もちろん、全て信じているわけじゃないけど、例えば、容をぼかしたりなんかはあるかも」 
「容をぼかすだって………?」 
「うん。こういった報作なら、現代に限らず、昔から行われてることだしね。
歴史だってそうだよね? 実際には違っていても、その時代の権力者によって、良いように歪められてる部分って結構あるからね」 
「た、確かにそれはそうだが……」 
かと言って、それを今當たり前のように言われても、俄かに信じがたい。
「それで君は……それが今回のことと何かが関係してると?」 
青山が、遠慮しがちに真紀に問い掛ける。 
「つまり、手方法よ。必ずしも売人だとか、客とは限らないでしょ?」
「なんだそれは? だとしたら後は盜っ人くらいしか考えつかないぞ」 
「ちゃんと分かっているじゃない」 
真紀は、薄く笑いを浮かべた。その仕種は、とても自分と同世代とは思えないほどの妖艶さを醸し出していて、俺は思わず生唾を飲み込んだ。
「お、おいおい、だとしても、どうやって盜み出すってんだ。第一、それと新聞の話がどう繋がってるってんだ?」 
真紀にじてしまったことを、悟られないよう、つい、語気を強めてしまう。
「さあ? それは調べないと分からないわよ。あくまで他にもやり方があるんじゃないって話でしょ」 
……全く、本當にこのとはやりづらい。しかし青山は、手を顎にあて、何か考えているようだ。 
「一般にはで手にれられない……盜っ人……報の隠蔽……」 
……なんなんだ、一。青山は深く考え出すと、人の呼びかけにも反応しなくなる癖があったようだった。俺が何度も呼びかけても、反応しなかったからだ。 
しばらく一人考えていた青山が、ふいに俺に話しかけてきた。 
「九鬼くん。綾子ちゃんがストーカーされるようになったのって、いつ頃から?」 
「俺も詳しくは知らないな。それと何か関係があるのか?」 
「ちょっと思い付いたことがあるから、調べてみようと思って。帰ったら綾子ちゃんに聞いてみてくれないかな?」 
「……何がなんだかわからんが、聞いておいてみよう」
「ありがとう、大でいいから。とりあえず、分かったら連絡してほしい」 
「分かった」 
真紀は何か勘づいているのか、ほくそ笑んでおり、青山は青山で、何を考えてるのかさっぱりだった。 
俺一人だけ理解していないのは、なぜこんなにまで、疎外をじるのだろう……。 
青山と屋上で解散した俺は、荷を取りに一旦教室へ戻ると、時刻はすでに十六時を大きく回っていた。これでは、中學校に著く頃には十七時を過ぎそうだ。隨分と青山達と話し込んでいたらしい。
攜帯を取り出し、沙彌佳に電話する。何度目かのコール音が鳴った後、沙彌佳の聲で、電話でおなじみの喋り文句が聞こえた。
「もしもし、沙彌佳? 悪い。今からそっちに行くから、もうしばらく待っててくれ」 
『もう、お兄ちゃん遅いよー』 
「悪かったって。そん代わり、帰りにうまいもん奢ってやっから」 
『本當!? だったらキシマイ堂のパフェがいいな〜』
「よりによってあそこのかよ……あそこ味いけど、高いんだよな……」 
『でもお兄ちゃん、おいしいの奢ってくれるって言ったよね?』 
「い、いや、そうじゃなくて、別にあそこのじゃぁなくても良くないかって意味だ」 
『私と綾子ちゃんは、キシマイ堂のパフェが食べたいのです』 
「綾子ちゃんもって……絶対口からでまかせだろ、それ……。単純におまえが食べたいだけだろ?」 
『それはどうかな〜? はい』
一拍おいて、今度は綾子ちゃんの聲が、流れて來た。
『ぁ、もしもし。あ、あの……わ、私もキシマイ堂のパフェ、食べたいです……』 
なんということだ。君もか、綾子ちゃん……。 
『へっへっへ〜。2対1だね〜お兄ちゃん!』 
いや、きっと沙彌佳は最初から、これを機に、俺に何か奢らせようとしていたのかもしれない。
「くっ……後で覚えてろよ」 
俺は妙な敗北を覚えながら、電話を切った。 
現在、18時になろうというところだ。家とは反対方向の電車に乗り、俺達は今、キシマイ堂というカフェにいる。 
この店は、カップル達の間で有名な店で、ある特定のカップルがここで、ある特定はのを頼むと、既事実を作ることができると、専らの噂らしいのだが、何の既事実であるかは、俺は知らない。 
まぁきっと、良くあるジンクスというやつなんだろう。 
しかし、この店にった時、なんとあの青山の姉貴と顔を合わすことになろうとは、思わなかった。どうやら、ここでアルバイトしているようだったが、それにしても驚いた。 
しかも接客の際、ありがとう、あなたのおかげです、なんて意味深なことを言われたら、なおさらだ。 
本能が、深く追及するなと告げていたので、何も言わないでおいたが、それはきっと、青山の最近の態度とも、何か関係があるに違いないと確信した。
「えへへ〜いただきま〜す♪」 
「あの、九鬼さん、いただきます」
「どうぞ。いただいちゃってくれ」 
二人は、特大パフェを二人で食べるつもりらしい。はっきり言って、俺には例え二人でだとしても食べ切れる自信はない。まぁ、それくらい大きい。 まさに書いて字のごとく、特大である。 
それにしてもこの二人が一緒にいると、どんなことも絵になってしまうのが不思議だ。目の前の二人は、そんなのどこ吹く風と言わんばかりであったが……。 
とはいえ、これで聞きにくいことも、聞きやすくなると言うものだ。 
「なぁ、綾子ちゃん。ちょいと聞きたいことがあるんだが」 
「はい?」
綾子ちゃんは、その食べる手を止め、ごとこちらに向けた。當然のように一旦スプーンを置いて口を拭いている様は、とても優雅で一分の隙もない。 
「綾子ちゃん、ストーカーされているように気付いたのって、いつくらいか覚えてるか?」
「え? ……そうですね。三、四ヶ月程前からでしょうか……」 
「四ヶ月前か……。すまん、ちょっと電話してくる。すぐに戻るよ」 
「はーい。いってらっしゃーい」
……妹よ。お前はもうし、綾子ちゃんを見習ってくれ。 
俺は、攜帯を取り出しながら店から出る。三回目のコールの途中、青山が電話に出た。
『……もしもし』 
「よぉ。今綾子ちゃんに聞いてみたんだが、ストーカーに気付いたのは四ヶ月くらい前かららしい」 
『四ヶ月前か……』 
「なぁ、お前さん、さっきもそんなだったが、一何を考えてるんだ?」 
『うん、ちょっとね。まだ確信できていないし、なんとも言えないけど、ストーカー正が摑めるかも』
「ストーカーされてるのに気付いた時期が、それに必要だってのか?」 
『うん。正確には、その期間前後に、ニュースで何か起こってないか調べたくて。 
それに今回の事件は、結構が深いような気がしてね……』 
正直、そいつは考えすぎなんじゃないかと思うが、口にはしなかった。 
「分かった。後、何か聞いておかなくちゃならないことはあるか?」
『今のところ、特にはないよ。結果はすぐに分かると思うから、明日にでも學校で』 
「分かった。相変わらず、仕事が早くて助かる」 
むしろ、早すぎのような気もするが、それは本當だ。そもそも、いくら正を摑めるかもしれないと言えど、この程度のことで、本當にそこまでのことができるのか、あまり期待はしていない。
「それじゃぁ何か分かったら、明日詳しく聞かせてくれ」 
『うん、そのつもり。それじゃあまた明日』 
俺は電話を切って、店に戻って行った。
電話での青山とのやり取りは、わずかに三、四分にすぎないはずだったが、あの特大のパフェは、すでに殘り半分もなくなっていた。
は、甘いものは別腹というが、全くその通りだと、つくづく思いさせられた。
「よぉ青山。調べついたか?」 
翌日の放課後、俺は青山を昨日のように技棟の屋上に呼び出した。不本意ながら、藤原真紀も一緒だ。 
「うん。やっぱり持つべきは友だね。かなり面白いことがわかったよ」 
青山が、持つべきは友だなんて言うと、笑えてしまうのはなぜだろう。 
「ふむ。どんなことが分かった?」 
「まず、もう五ヶ月近く前の話なんだけど、K県Y市でトラックによる通事故があったんだ。単獨事故みたいなんだけど」 
「単獨事故?」 
「もちろん、事故そのものは決して珍しいものではないんだけど……中がね」 
「なんだったんだ?」
「うん。……當時の記事には、トラックが運んでいたのは、デジタル機としか書かれていなかったんだけど……。調べてもらったら、どうも、これがただのデジタル機ではなくて……」 
「あのカメラだって言うのか?」 
つい力んでしまい、凄んでしまった。青山は、ややためらいがちに頷いた。 
「確証はないよ。でも、最新のカメラのようなだったことは間違いないみたい。それもかなり小型のね。話を聞く限り、そうとしか考えられないんだよ」 
青山は続ける。 
「そして、その事故がただの事故なら、あまり気にもならなかったんだけど、そのトラックの運転手が、謎の失蹤をとげてるっていうのに引っ掛かったんだ」 
「行方不明?」 
「おかしいでしょ? テレビでは話題にすらしていなかったようだし、當時の記事も、扱いがすごく小さかったみたいなんだ。
事故ってだけで、なくとも、その日のニュースくらいにはなるはずなのに」 
言われてみれば、確かにそうだ。 ほとんど話題にすら上がらなかったのは、おかしい。
「確かにおかしな話だな。普通、運転手が行方知れずときたら、ワイドショーのいいネタになるはずだしな」
「ワイドショーどころか、翌日のトップニュースだってありうるよ」 
青山の言葉に、俺は頷いた。
なぜかその時、漠然と俺に不安がよぎった。ストーカー野郎とのこともあり、この事故と今回のこと、見えない部分で繋がっているような気がしてならなかったからだ。
「それにね、事故の対応も凄く不審なんだよ」 
「どういうことだ?」
「普通、事故があれば、必ず警察が來るよね?」 
「ああ。昔、自転車に乗ってるときに原付きにぶつけられたことがあったが、その時にだって來たな」 
「そう、よほど小さなものじゃない限り、たいていの場合、警察は來るものなんだけど、この時は、警察の前に別の人達が來て対応したらしいんだ」 
「別の人達だと? なんなんだ、その別の人間ってのは」 
「殘念だけど、そこまでは……。ただ、トラックの荷臺にあったものと、運転手を探してたのは、間違いないみたい。 
その人達が帰って後に、警察が來たみたいなんだけど、どうもその人達が警察に連絡させなかったみたいなんだ」 
それは珍妙な話ではないか。まるで警察が來る前に、撤収しなければならない理由でもあったというのか? 
「その事故のあった近辺に住んでる人達に、友達がわざわざ聞いてくれたみたいでね、この辺の話は、信憑を持っていいと思う。 
おまけに、そのトラック、タイヤが破裂したみたいになってたって話だよ」 
「なるほどな。でもな青山。そいつと今回のストーカーとどう結び付くというんだ? まるで、その事故の當事者が今回のストーカーとでも言っているみたいだ」
「……実はね、九鬼くんからもらったカメラから、指紋が出てきたんだ。信じられないかもしれないけど……」 
「おいおい、まさか本當に、指紋まで特定したのか?」 
「あ……ま、まずかったかな、やっぱり」 
「いや、そんなことはないぞ。ただ、あまり乗り気じゃぁなかったろう? だからな……」
そう、まさかこの青山が、そこまでのことをしてくれるとは思わなかったのだ。
「……で、データベースにアクセスしてみたんだけど」 
なんと、この男はの危険を省みず、データベースにアクセスしたらしい。こいつは想像以上のハッキング能力があるようだ。
だが、そんなものにアクセスすれば、指紋はおろか、その人間の學歴・職歴、趣味や格、場合によっては、伝報すら得られることだってあるのだという。
「何かひっかかったのか?」 
「……うん」 
青山が、妙な間をおいて肯定するが、何かが納得いかないといった風だ。
「……その、はっきり言うと……その指紋の人はすでに、死んでる………みたいなんだ」 
「……なんだって?」
多分、この時の俺は、間抜けな顔をしていたことだろう。青山が口にしたことは、それほどに予想だにしなかったことだった。
その男の名は、生義則がもう よしのりというらしい。 
「おいおい、まさかお前は幽霊がストーカーしているとでも言いたいのか?」 
「まさか。僕は幽霊は信じているけど、それとこれは全く別と思ってるよ」 
だとしたら、最近やつが現れないのももしや死んだからなのか? しかし、こうも都合良くこのストーカー野郎が死ぬだろうか。 
死亡時期がいつかにもよるが、俺は淡い期待を抱きざるをえない。
「そいつが死んだのは、いつか分かるか?」
「もちろん。すでに、1年以上前に死んでるよ」 
もしやとは思ったが、やはり違ったようだ。だが、この生という男が何かしら関わったと思われる代が、こんな犯罪に使われていたのだ、こいつは、々と調べてみる価値はあると言えるだろう。 
「……確か、指紋というのは三〜四年なら、殘ると聞いたことがある。そいつが最後にったのが1年前だとしたら、あのカメラに何か関わった可能はないかな?」 
「ないとも言えないね。でも結局は、なんの打開にもならないかもしれないけど……」 
「……そうだな、お前の言う通りだ」 
結局は、直にあの野郎を捕まえないとなんの意味もないのか。するとここで、今まで黙っていた真紀が口を開いた。 
「……あなたたち、さっきからすごく面白いこと言っているけど、単純にその人が関わった人を調べれば良いと思わないの?」 
「「あ……」」
俺と青山は興で、そんな単純なことにも気付かないほど、冷靜ではなかったようだ。 
【本編完結済】 拝啓勇者様。幼女に転生したので、もう國には戻れません! ~伝説の魔女は二度目の人生でも最強でした~ 【書籍発売中&コミカライズ企畫進行中】
【本編完結済】 2022年4月5日 ぶんか社BKブックスより書籍第1巻が発売になりました。続けて第2巻も9月5日に発売予定です。 また、コミカライズ企畫も進行中。 これもひとえに皆様の応援のおかげです。本當にありがとうございました。 低身長金髪ロリ魔女が暴れまくる成り上がりの物語。 元チート級魔女の生き殘りを賭けた戦いの記録。 212歳の最強魔女アニエスは、魔王討伐の最終決戦で深手を負って死にかける。 仲間を逃がすために自ら犠牲になったアニエスは転生魔法によって生き返りを図るが、なぜか転生先は三歳の幼女だった!? これまで魔法と王國のためだけに己の人生を捧げて來た、元最強魔女が歩む第二の人生とは。 見た目は幼女、中身は212歳。 ロリババアな魔女をめぐる様々な出來事と策略、陰謀、そして周囲の人間たちの思惑を描いていきます。 第一部「幼女期編」完結しました。 150話までお付き合いいただき、ありがとうございました。 第二部「少女期編」始まりました。 低身長童顔ロリ細身巨乳金髪ドリル縦ロールにクラスチェンジした、老害リタの橫暴ぶりを引き続きお楽しみください。 2021年9月28日 特集ページ「今日の一冊」に掲載されました。 書籍化&コミカライズ決まりました。 これもひとえに皆様の応援のおかげです。ありがとうございました。 2022年2月17日 書籍化に伴いまして、タイトルを変更しました。 舊タイトルは「ロリババアと愉快な仲間たち ――転生したら幼女だった!? 老害ロリ魔女無雙で生き殘る!! ぬぉー!!」です。 2022年2月23日 本編完結しました。 長らくのお付き合いに感謝いたします。ありがとうございました。 900萬PVありがとうございました。こうして書き続けられるのも、読者の皆様のおかげです。 この作品は「カクヨム」「ハーメルン」にも投稿しています。 ※本作品は「黒井ちくわ」の著作物であり、無斷転載、複製、改変等は禁止します。
8 112【書籍化】「お前を追放する」追放されたのは俺ではなく無口な魔法少女でした【コミカライズ】
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