「狼が人を。……噛み殺した」

「噛んだ、としか言っておらん」

「でも彼、死んだんでしょ？ 噛まれて」

「……らしいな」

話に出て來た若者が誰かは知らないけれど、狼は間違いなくゴルテだ。

淡々と言葉を紡ぎながら、確かに聲が沈んでいた。

しかしあくまでも伝聞形式でいきたいみたい。

優しさ故の、守るための殺しを何度も悔やんだのだろうことを伺わせた。

「魔たち、喜んでた？」

ゴルテが心を削って助けた彼らは沢山謝をした筈。

そんな當たり前を否定される。

「いや。そもそも私と奴らは顔を合わせてすらいない。だから謝辭を述べる必要は欠片もないのだ」

「それは駄目だよ。いけない」

「本からして私の所為だった。先の私の臺詞にかけたつもりじゃあないが、合わせる顔がない」

ゴルテの所為？

騒なものを持っている男がいたから防いだのに、その若者が森を訪れたことさえも彼が元兇だと、そんな言い草ではないか。

「何か不満そうだな」

指摘をけて顔に手を當てる。

森の魔にも、ゴルテの対応にも納得がいかない。

それを表に出しても発言を撤回しないということは、ゴルテが原因である、それが事実……もしくはそう思い込んでしまっているのか。

ともあれ、今は寢る時間だ。

これ以上問い詰めたところで彼は何も答えてはくれない。

「また、聞かせてね、ゴルテのこと」

ーーとある狼の話ならしてやろう。