は、薄暗い教室の窓辺に立ち、ぼんやりと外を眺めていた。

教室には、一人。

暫く外を眺めていたは、教室を片付け始めた。

不規則に並んだ機を並べ直し、ロッカーの上に散したクシャクシャになったプリントやパンの袋を片付け、大分ホコリの殘った床までも掃除した。教室はみるみるうちに綺麗になっていった。

教室の片付けが終わった頃、下校時間を伝えるチャイムが鳴り、は急いで荷を持ち、教室を後にした。

それから數日後、の席は空いていた。その次の日も、また次の日もずっと。

は學校に來ていなかった。來れずにいた。

ある朝のこと。

「おはよー」

は、いつも通りに學校に行き、いつも通りに挨拶をした。

──でも、いつもは帰ってくる挨拶が聞こえず、の聲でしだけ靜まった教室も、直ぐに騒がしくなった。

それは、にとって一週間ぶりの登校だった。

一週間調を崩し、は學校を休んでいたのだ。その一週間で雰囲気が変わったのだろう、と思っていた。

「あ、休んでいた分のノート、見せてもらってもいい？」

ふと思い出したように、は、何気なく聞いた。席も近く、仲が良かったはずの子に。

「えっと、ごめん」

その子は何故か、そそくさとの元を去って行った。

は不思議に思った。休んでいた間に、何があったのだろう、と。

「おはよー」

次の日も、その次の日も、の挨拶に返事はなかった。何があったかを尋ねても、答えが返ってくる事もなかった。

「私、何かしたかな⋯⋯」

部活をしていなかったは、學校で一人になった。やがて、教室にも行きづらくなり、教室は愚か、學校にも行けなくなった。

行けなくなって一ヶ月程がたった頃。「保健室登校でいいから」と、言われては、學校に行くことにした。

「お、おはようございます」

保健室に行くと、先生が笑顔でに言った。

「おはよー、加奈ちゃん」

は嬉しかった。挨拶を返されなくなってから、挨拶するのが怖かった。保健室は、とても安心出來た。誰かに無視されて辛くなることもない。先生と話をしたり、勉強したりするのは楽しかった。

でも、保健室に他の生徒がいる時は、決まってカーテンを閉めたベットにいた。気付くとは、生徒に心を開く事が出來なくなっていた。

「教室、行ってみない？」と先生が尋ねても、が縦に首を振ることはなかった。

教室に行けなくなった理由は話していた。

「皆ももう、反省していると思うよ？」

そう言われても、また同じことをされたら、とは怖かった。

「先生、私、明日行って見ます。教室に」

ある日、は先生に、そう告げた。

「そっか。無理そうだったら、いつでもおいで」

先生は、笑顔でそう、に行った。

次の日、は、久しぶりに教室へ行った。教室に行くのは、もう五ヶ月ぶりだった。

「お、おはよう」

恐る恐る教室にり、そう言った。

「おはよう。久しぶりだね」

挨拶が返ってきた。それだけでもは、とても嬉しかった。し、ほんのしだけ、安心した。

放課後、は自分一人になった教室を見回した。ロッカーにはプリントやゴミが散し、機もバラバラに並んでいた。

「よしっ！」

し気合をれるの聲が、誰もいない教室に響き、は片付けを始めた。散していたロッカーを片付け、バラバラの機も綺麗に並べた。

その日から、は毎日、學校に來るようになった。はそれから毎日のように教室の片付けをして帰った。

それは、誰も居なくなった後に、一人でやっていた事だった為、クラスメイトは誰も、のしている事を知らなかった。綺麗になっている、と気づいても、先生の誰かがしたのだろう、と思うだけだった。